入学式
王太子エルマンは彼女のいとこになる。
ドリスタンの国王が、エルマン王子の母親の兄という関係だ。もとよりニーナは、エルマンのことをお兄さまと呼んで慕っていた。モンフォールにも何度か来たことがあり、王宮でシャーロットとも会ったことがある。赤ん坊だった頃のミッシェルのことも知っていた。
その後に生まれたリュシアンに会ったことはないが、なにしろシャーロットにそっくりなのでニーナにはすぐに血縁だと予想がついたのだ。
それにリュシアン……、すなわち第四王子としてのリュシアン・マテュー・ド・モンフォールの名は、別に諸外国に隠されているわけではない。あくまで国内でのみオービニュ家三男を名乗っているに過ぎないのだ。
敵は、国内にいたのだから。
とはいえ、リュシアンは学園に入学するにあたって、オービニュ家の名で入学している。
これだけは譲らなかったので、王様も諦めたらしい。なし崩しにいろいろ決められそうだとリュシアンが危惧したせいもある。
物心ついた時には伯爵家三男だったのだし、いまのところ本人に改名するつもりは毛頭なかった。また、その必要もないと思ったからだ。
優秀な王太子も、それにエドガーも、これから次第では十分立派に王様が出来るだろう。リュシアンが、今更しゃしゃり出る必要などないのだ。
初対面の際、まだ子供っぽかったエドガーは、一年で驚くほど成長していた。すぐに母親から引き離されて、国王が選んだ教師によって再教育されたのだ。
行方不明のままとはいえ王太子が生きていることを知り、リュシアンという手札を新たに手に入れたことで、国王はいろいろ思い切ったカードが切れるようになったのである。
エドガーの成長はなにも精神的な物ばかりではない。むしろリュシアンが一番驚いたのは、その身長である。ここ一年で、十センチは軽く伸びていた。
(お姫様といい、エドガーといい、なんであんなにすくすく育ってんの? っていうか、僕の成長ホルモンどうなってんのさ?)
リュシアンは本気で自分の成長に疑問を覚えた。
その後、今年度の入学式が行われた。
入学式といっても、本当にオリエンテーションの延長のような形式的なもので、ただ学生証代わりのカードのようなものと、襟章を貰う儀式のようなものだ。
このカードには、名前、年齢、出身地、取っている科目と現在の段階位、単位、成績、あとは教養科のクラスなど、ありとあらゆる情報が記録されている。もちろん持ち主以外に開示する時は、本人の許可がいるし勝手に見ようとしても見れないようになっている。
システムとしては、冒険者ギルドのギルドカードとほぼ同じだ。実際、このカードは、そのまま卒業するときの卒業証明書にもなり、その後の身分証明にもなりうるのだ。
移動する際、ニーナも講堂まで一緒に来た。上級生として新入生に襟章を付ける役だからだ。
リュシアンたちの列はニーナが担当するようだが、その前に立っていた上級生にこっそり耳打ちをしていたので、何らかのやり取りがあったようだ。
目が合うと、勝ち誇ったように嬉しそうにウインクした。
(――まったく何やってるんだか)
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