臣、奉る

石田部 真

ねぇ、パパ、ちょっと聞いてよ


 偉大なる海の王にして我らが父たる竜王陛下、御身の娘にして最も忠良の臣たる乙より、此度の騒動につき謹んで御奏上奉り侍る。

 先日来、当宮において妾の歓待せし太郎なる者に持たせし箱について、海よりも深き英知を持つ父君の御懸念、承りて侍りぬ。

 かの箱に封じられし煙の刻を纏しこと明らかなれば、人の身にて浴せば、疾く老いぬべからん。

 されど、かの刻はかの者の備えしものなれば、かの者より引き離すは我が君の仰せし「海の道にあらざる」ことなれば、已むを得ずして封じたる箱にて渡すものなり。

 こは海王の血に連なる者の責務にて、私の心にあらざるなり。

 英邁なる陛下なれば、此度の件にご賢察の誤りなきことを信ずるも、さがなき民草の「姫の恨みてまじないたまひぬ」と誤つもまたありなんと思ゆ。

 されば、妾、此より浜なる者を歓待せん折りは、刻を返さざらんよう、この宮に留むと定めん。御身に憂いなきことを願ひ奉る。





 訳

 パパぁ、あたし、乙姫だけどぉ。ちょっと、聞いてよぉ~。 

 確かにぃ、あの箱、パパの言うとおり危ない?って感じかもしれないんだけどぉ。あけたら、あっというまにジジイになっちゃうの間違いなし?みたいな。

 でもさぁ、あの「時間」って、アイツがもともと持ってたものなわけじゃん。「海の王たるもの他者の物を盗るとは言語道断!」っ、ってパパも言ってるでしょ? だから、ちゃんと蓋して渡したんだってば。

 私も辛かったんだけどぉ、パパの娘として仕方ないっていうかぁ、

恨みとかは関係ない、って感じぃ?

 パパならこういうことちゃんとわかってくれると思うんだけどぉ、確かにぃ、庶民は「乙姫が呪いの箱を送りつけた」って間違っちゃうのも仕方ないかもだし。

 だからぁ、これからはぁ、男を連れてくるときはぁ、もうこういうことがないようにちゃんと首に縄をつけておくわ。安心してね。


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