第4話「問題」
「三嶋の様子がおかしい? いやあいつがおかしいのはいつものことだが」
「それはそうですが。今回はそういう意味じゃなくて」
裕哉が連れ出されたのは旧校舎屋上の一歩手前、施錠された出口があるフロアだった。上に登れば登るほど蒸し暑く、窓も閉じられているため吹き抜ける風もない、そんな熱気の溜まった場所にわざわざ連れ出され何を言われるのかと思えば、クラスメイトの三嶋についての話だった。
「帰りに見かけたんです。三嶋君が一人で話してるのを。結構大きな声で話すから彼。気になって見てみたら、他に誰もいなくて。最初は何かの練習とかかなって思ったんですが、どうも違うみたいで」
「まさか壁に向かって話してた?」
「え? まぁ誰も居なかったから、そうと言えばそうですが。あの、やっぱり何か知ってるんですか?」
「やっぱり?」
「いえ、櫛見君って三嶋君と仲が良かったから。何か知ってるんじゃないかって」
「いやそんなに仲は良くないので別の奴をあたってくれ」
こんなところに連れ出されて、大神田に言われた通り壁と話している三嶋の話なんかされてもな、というのが裕哉の正直な感想だった。それに、灯里が言っていたように、蒐集部はこのあと淀みの溜まりやすい場所を見て回る予定だったので暇というわけでもなかった。
「え、え? そんな。ちょっと待ってください。困るんです。とにかく一緒に見に来てください」
背を向け、部室に戻ろうとした裕哉のシャツを吉岡が掴んで止めにかかる。大神田ほど小柄というわけでもないが、それでも女生徒である吉岡の抵抗は小さなものだった。とはいえ段上から背中の部分を引っ張られては、裕哉としても無視ができない。というか普通に苦しかった。
「わかったわかった。わかったから放してくれ」
「あ、ごめんなさい」
自分が相手の首を絞めていたことに気づいた吉岡は慌ててその手を放すが、すかさず数段降りて裕哉の隣に並ぶと、今度は脇腹のあたりのシャツを引っ張っていた。
「逃げないって。というか、同学年なのになんで敬語なんだ?」
「私色んな部の手伝いとかしてて、先輩とか混じってることが多いから。いちいち切り替えるのも面倒で」
「面倒だから敬語になるってのは、聞きようによっては凄い発言だな。本末転倒というか何というか」
丁寧な生徒かと思っていたが、意外と図太い奴なのかもしれない、と裕哉は目の前の女生徒の評価を変えることにした。首も絞められたことだし。
裕哉はこの面倒事について、さっさと確認して吉岡を安心させた方が手っ取り早いと考え、ついていくことに決めた。言葉をいくら費やしても納得しなさそうな、そんな印象を早くも得ていたからの判断ではあったが、その判断は他の意味でも正しかった。
結論から言えば――、三嶋は憑りつかれていた。
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