水面下に微動する計画
本来なら仲間の一人も
欲しいところだったが、
組員は当然にしても、
被験者にさえ私は信頼を
持てるものを見つける事が
出来なかった。
それはきっと……
あの声が耳のどこかに
残っていたからかもしれない。
とにかく私は、
たった一人の脱走計画を
思案し始めた。
大して物品を用意する環境もない
私は脱走後の当面の食事の確保
の為に配給される食事の一部を
ため込む以外にできる事がなく、
脱走の可能性をあげる努力の多くは情報の集積となり、
一月ほど後
ついに、その日はやってきた。
(今日の組員、帰る時間、
今までで一番のチャンスだ……)
決行の時間は夜間。
組員の絶対数が下がる時間帯、
そして今日は先日から現れた
研修中の名札をつけた組員、
そしてベテランだが60代だろう
高齢の組員の二人しかいない
というこの上ない好機だ。
脱走の手段はシンプルに
荒々しい手法。
まず私は二人を撹乱する為に
見回り後、最上階の一室に侵入して呼び鈴を鳴らす。
少なくてもこれで一人をここに
誘導できる。
また、上手くことが運べば
研修中のもう一方も
同時にここに向かう
かもしれない。
とはいえ
念を入れて私は組員の控え室
から遠い方の階段を使って
一つ下の階でまた
呼び鈴を鳴らす。
これで確実に二人を呼び出せたし、撹乱には充分だろう。
私はできる限り急いで
階段を下る。
息を切らせながら一階に到着。
「はっ……はっ……は……」
この数年、施設への幽閉により
鍛えることのできなかった
老体にとってそれは、
過度な運動だ。
心臓が飛び出るほどに胸が痛み、呼吸が整わない。
しかし、時間はかけられない。
正面のドアは鍵がかかっている
事は分かっているが、
その隣のガラス窓ならば
脱走は可能だ。
内鍵。
そして下に隠された小さな
ストッパーもはずせば
ガラス窓はあっさりと開く……
そう、思っていた。
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