緩やかに走り出す危険

定期的に家に迎えに来る

組員に対して息子達の反応は

非常に礼儀正しく、

逆に私が不調でも訴えて同行を

拒否しようものなら総出でそれを

否定し、鬼の様な形相を向ける。


少なからず息子達を

信用しようにも

組員はどうにも信用が置けない。


組員が一人一人と談笑を交えて

情報採取をする時に話す言葉は

どれも一律して一定の礼節を

持ち、その様子には旅館か

何かにもてなされている様に

感じる事もある。


だが、


小さくは組員の趣味、

大きくは施設の説明や何かに

食事や入浴といった裏に誘導が

見える行動への誘いでは

他の被験者と自分、

またさらに他の被験者に語る

会話は集計すると限りなく

矛盾に満ちている。


日中の空き時間に行われる

風船などの小道具を使った

軽運動は戦争で敵国の牢屋に

入れられた時に見た最低限の

運動の強制にも似ている様な、

ただの身体能力の情報採取の

目的の様な、


いや、


ここに関しては意図を探るに

足る判断材料があまりにも

少ない故にそれを考察するのは

時期早々かもしれない。


兎にも角にも摩訶不思議だ。


過去の常識からは判別の

出来ない異空間、

それがあの施設であり、

現在の施設もまた、

そこと大きく変化はない。


ただ、前の施設の何倍も大きく、

百人以上の被験者を囲んでいる

様な今の施設は前ほど

盛んな情報採取や水への

こだわりは見えない。


また、恐らく……


確実に前の施設よりも

重篤な容体の者が

この施設には多い様に思える。


それは80の私から見ても明らかな

高齢の容姿をした男女や、

車椅子やベットで

搬送される者も多く、

薬の影響なのか、あの、

同じ質問をただただ繰り返す者

も多くいる。


私は今、この環境に大きな危機を

覚えている。



(もしかしたら、私はもうすぐ殺されるのかもしれない……)

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