奇界の住人達

私は今、名前も知らない施設に

拉致されている。


原因は分からないが、

数年前、ある施設に時折

連れ込まれる様になった頃から、

もしかしたらこれは

決まっていた事なのかもしれない。


数年前の施設と今の施設での

違いと言えば人や物など当然

のものを除けば大きくは

ただの一つ、


外界との完全な隔離状態

くらいのものだろう。


まずは数年前に見た施設の

話をしよう。


これもまた、

私の80年にない異質な空間では

あったが、そこでは毎食後に

妙な薬を渡される事から、


あそこは何かの

【人体実験を試みる組織】

ではないかと思う。


徹底した管理体制というに

相応しく薬を落としたり隠せば

床を這ってまで組員がそれを

見つけ出し、身体が衰えた者には飲食に混入させ、口に運び、

飲んだ後の口内まで調べるなどの徹底ぶりからみて、


これが【この施設の最重要】


もしくはかなり重要な役割を

占めている事は凡そ間違いない

だろう。


そして早朝の心拍数や血圧など、身体状態の計測は恐らく

薬の作用の調査だろう。


信ぴょう性のある事に

この施設ではトイレにまで

同行する組員が排尿の回数を記録している様で、


出たか出ないか、便か尿かを

事細かに確認、記録される。


もしかすると私たちが飲まされている薬は水との反応に大きな影響があるのかもしれない。


何故なら先のトイレだけでなく、水分補給などにうるさい組員が

いて、


さらにこの施設では多くの人を入浴させる事に異常なこだわりが見える。


何度となく入浴を確認する

組員や、拒絶の末に浴室へ運ばれた被験者の断末魔にも似た声を耳にした事もあるほどだが、


その被験者達もまたあの薬の影響なのか、どこか私の常識に計れない事が少なからずある。


例えば突然に叫び出すもの、

痛みを訴えるもの、

更にはこんな事もあった。


「あなたはどこから来たの?」



私が被験者の女性にそう話しかけられた時の事だ。



「あぁ、私は●県の◉市という……」



「あら!私も◉市よ!ご近所じゃない。よろしくお願いします」



「あぁ、それは心強い。こちらこそよろしくお願いします」



そう、答えた時だった。



「あなたはどこから来たの?」



「え!?」



「あなたはどこから来たの?」


「あなたはどこから来たの?」


「あなたはどこから来たの?」



これほど背筋が凍る様な思いを感じた事は戦場でさえ無かった。


定期的なんてものではない。


会話をかぶせるほどのペースで

繰り返される同様の質問は

今尚、私の常識では意図を

計りかねる……


どこか無機質な、

どこか機械的な、質問。


もしや彼女は私の知識を

はるかに超えるが、機械的な何か

なのかもしれないし、


先の推測通りの薬の影響、

どちらにせよ施設の研究の規模は、


【生物兵器の研究】か、

そもそも【人外の施設】か、


その様な凡そ信じ難い可能性さえ否定できなくなりただただ身の危険を覚えたのはきっとこの頃からだろう。



そして......

なにより恐ろしいのはここの

組員はすでに私の家族を

懐柔している事だ。

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