第9話 たったひとつの冴えたやり方
夕日を浴びたミリアムの横顔は美しかった。
「つまり、あの人は無事なのね」
予想の範囲ではあった。だから、安堵することもないし、恐怖に脅える必要もないんだと、ミリアムは自分に言い聞かせた。
「おいおい、嬢ちゃん、自分の立場がわかってるのか?」
下卑た笑いを浮かべて、ティーゴの取り巻きの一人が顔を近づけてくる。
後ろ手に縛られていては、まともに身動きがとれず、黄色い歯の間からもれる生臭い息が顔にかかった。不快感で背筋に鳥肌が立つ。けれど、まだだ。まだ我慢しろ。
「ええ、わかってるわ。子供しかいないちっぽけな農場の権利が欲しい強欲の地主と取り巻きの罠に、世間知らずの娘がひっかかったんでしょ?」
怯えれば、こいつらは調子づく。油断させるためにはそれもいいけれど、今はまだ早い。
ショウが怪我をしてティーゴの屋敷に運ばれた、という言葉を聞いた時から、うすうすはわかっていた。けれど。どこかで決着をつけなければいけないのだ。今日なら、今日ならミリアムの中に恐怖を打ち破る力が宿っていた。とても勇気とは呼べるものではない自棄っぱちな衝動であったとしても。結果として、屋敷から連れ出され、こんな小屋に押し込まれたとしても。それは覚悟していたのだ。
「ミリアム、私は君のことを買っているんだ。できれば手荒なことはしたくないんだよ」
ティーゴは残念そうな顔を見せた。そうだろう。自分では手を汚したくないから、手袋の代わりにごろつきを雇うのだから。
「君が私の申し出に一言、はい、とさえ言ってくれれば、君も、君の弟も幸せになれるのだがね」
弟のことを持ち出されると、かすかに胸が痛んだ。ごめんね、ウィル。でも、あなたなら絶対にわかってくれるわよね。
「父と母が命をかけて拓き耕した農地を、あなたに捨て値同然で売り渡すことが私達の幸せなの? そうやって、白人たちに土地を明け渡した先住民は今どうしているのかしら」
ああ、こんな時でも。こんな時でも、あの人のことを考えてしまうなんて。なぜそんなに物知りなの、と尋ねたら、知識は力だ、と彼は答えた。確かに、無力に泣き叫ぶよりも、ずっと気が利いてる。
「そういう気の強いだけでなく賢いところがまた魅力的だねぇ。別の提案もしたいぐらいだよ」
自分は絶対に安全な高見にいて、哀れな犠牲者に同情の手をさしのべることで人を支配できると考える男の笑いは、たまらなく醜かった。もう少し、もう少しだけ近づいてくれたら、それでいい。
「何よ? 私を経理担当として雇ってくれるのかしら。あなたの土地の管理なら、裏帳簿を作るのが大変そうだから私には無理だわ」
「ミリアム、そうか、君は算術もできるのだね。いやはや、開拓農民上がりなのに、実に見上げたことだ。勿体ない、実に勿体ないよ」
ティーゴは、鷹揚に頷きながら、ミリアムに近づいてくる。
ミリアムとティーゴが直接話している限り、他の男達は口を挟めない。自然と、遠巻きに見守ることになる。ミリアムが最初に大した抵抗もみせずに戒めをかけられたこともあり、警戒は緩かった。小さな小屋の中で、地主を含め7人もの男が見ているのだ。小娘に何ができる、と侮って当然だろう。もう少し。ミリアムは左手の袖から小さなナイフを探り当て、右手にとった。
「あら、それなら、私にどんな価値があるのかしら、ティーゴさん」
ミリアムは、精一杯の笑顔をうかべた。腕を縛られ、男達に囲まれているにもかかわらず、彼女は笑ってみせた。連中の意識が彼女の口と表情に集まっているうちに。その貴重な隙を活かして、ミリアムは小さなナイフで戒めを切り裂く。もともと抵抗せずに縛られていることもあり、それほど強く縛られてはいない。ほんの少しゆるめば、後は皮をこそぎながら引き抜くことができる。
「まさか、町の名士ティーゴ氏ともあろう人が、こんな開拓農民の小娘に欲情を抱いたりはなさらないですわよね」
「ははは、まさか。ただ、君は君自身が思っているより魅力的だと思うよ。そうだね、ここにいる男達が一週間ぐらいは交代で遊んでも飽きが来ないほどに」
その言葉を受けて、周りの男達が一斉ににいやらしい笑い声を上げた。ただ一人、黒い外套を着た男は冷たい目でこちらをみていたのだが。
それが、脅しでも何でもなく、本当に起こりえることだとわかっていたので、流石のミリアムも足が震える。けれど、ここで退くわけにはいかない。
「でも、紳士のティーゴさんは、そんなことを見過ごしにはならないのではなくて?」
ミリアムは挑発的にほほえみながら、唇を舌で潤した。ランプの明かりを受けて、形の良い唇が艶を放つ。
「ほう?」
「土地を買いたたかれて、家を失っても私達に行く当てはないわ。流れた先で、金も後ろ盾もない娘がどういう目に遭うかぐらい、私にだってわかるわ。もちろん、我を張って抵抗したって、どうなるかも」
ミリアムは軽蔑しきった目で、周りの男達を眺めた。
「それなら、お金持ちのおじさまの温情にすがることも、悪くはないかと思いますの」
ほう、とティーゴは興味深そうにミリアムをみつめる。
町で何度か見かけたことがある娼婦の目を思い出しながら、ミリアムは人生で初めての媚びる目をみせた。それだけで、取り返しがつかないぐらい魂が汚れた気がするけれど、このあと汚れることにくらべたら、きっと小さなことだから気にしないように努力する。
手の縄は、ほとんど切れていた。
「特に、弟のこともありますから……」
そう言って、ミリアムはうつむく。『弟』という言葉を口にしたとき、演技のつもりだったのに、本当に涙が出てきた。ダメだ。今泣き崩れちゃだめだ。
「さっきも言ったろう、ミリアム。私は手荒なことは望まないと」
器の大きいところをみせようと、鷹揚に手を広げながらティーゴが近づいてくる。顔を見ることができたら、きっと隠しようのない好色さを浮かべ、舌なめずりしていることだろう。縄は完全に解けた。ミリアムは縛られた風を続けていた。
「ミリアム、君たちの苦労はよくわかっているよ」
ミリアムの肩を抱きながら、ティーゴが語りかける。そりゃそうよ、私達を苦労させている張本人があんたなんだから。
ごめんなさい、ウィル、お母さん、お父さん。
ミリアムは、縄を捨て、小さなナイフをティーゴの脇腹に突き刺した。小さなナイフでは、致命傷にはならないけれど、その後、首をかき切れば。そう思っていた。
「だんな、小娘だって女は女、油断しちゃいけませんぜ」
冷たい声が、小屋に響いた。
痛っ……。
カラン、と音とたてて、ミリアムの手からナイフがこぼれ落ちる。
黒外套の男、確かダンヒルといったか、がミリアムの手をねじり上げていた。
「こ、このあばずれが!」
腕をねじり上げられ、身動きのとれないミリアムの頬をティーゴは力一杯殴りつけた。痛みで目がちかちかしたけれど、そんなことよりも、唯一のチャンスを逃したことの方がずっと痛かった。
「ふん、仕方ない。こいつはお前達の好きにしていいさ。どのみち、あの農場はもう続けられまい」
ティーゴの吐き捨てるような言葉に、男達は快哉をあげた。黒外套の男は、つまらなさそうにナイフを拾い上げていく。
男達にのしかかられるのを防ごうと懸命に足を蹴りあげて抵抗しながら、ミリアムは覚悟を決めた。辱めを受ける前に、舌をかみ切ろう。
さようなら、ウィル。ごめんね。
目を閉じ、心の中でお詫びの言葉をつぶやく。けれど、暗闇の中に浮かんだのは弟の顔ではなかった。さようなら。瞼の裏に浮かんだ彼の笑顔にもう一度別れを告げ、顎の筋繊維に力を入れようとした。
その時、窓ガラスが割れた。直後に銃声が響く。
続いてもう一発。
さらに一発。
あ。
音に驚いて目を開けたミリアムの世界が赤く染まる。
彼女にのしかかろうとしていた男達の顔が消えていた。
見てはいけない、と思って、再び目を閉じた。いやそんなことを思うまもなく本能的に目を閉じうずくまった。
だから、彼女はよく見ていない。窓を突き破り立て続けに撃ち込まれた3発の銃弾が、正確に男達の頭蓋骨を打ち砕き、脳漿とともに血液を飛び散らせていることを。
吹き飛んだ死体が、痙攣しながら動き続け、ティーゴに抱きついたことを。
「来たか!」
ダンヒルの声に喜色が混じった。
最初の銃声より早く、彼は身を伏せていた。馬鹿共が、あんなにはっきりした殺気も感じられないとは。
くだらない地主の犬としてくだらない仕事をしていても、これだから雇われ仕事は辞められない。まさか、こんな辺境であの「師殺しのショウ」とやり合えるなんて。ついている。
「だんな、伏せときな」
死体に抱きつかれて恐慌をきたしている雇い主の足を蹴飛ばして地面に転がし、襟首をつかむ。さて、今のタイミングで撃たれたということは、こちらの状況は丸わかりと考えていいのだろうか。
「外だ、外にいやがる!」
幸運にも初撃を免れた取り巻きの一人が、扉から外に飛び出した。その瞬間、銃声が響く。ただ扉の中だったか外だったか、違いはそれだけだった。正確無比に眉間を打ち抜かれ、後頭部から赤と白の内容物をまき散らし、男は倒れた。
一瞬で、7人いた男は3人に減った。雇い主を守るとすれば、使える駒は一つだけかよ。ダンヒルは、笑った。面白ぇ、こうでなくちゃ。
(おい)
ダンヒルは小声で一人生き残った取り巻きに声をかけた。
(野郎は、そいつを助けに来てる。つまり、人質にすれば助かるかもしれんぞ)
重圧を味わったことなど無い似非ガンマンだったのだろう、最後の取り巻きは、一も二もなく、その提案に乗った。
「おい、野郎、銃を捨てて……」
ミリアムに銃を突きつけようと立ち上がった瞬間だった。
まず、右腕が吹き飛んだ。正確には、最初にトリガーにかける人差し指が消失した。直後に、手首の付け根、尺骨と橈骨の間を打ち抜かれ銃を持つ手首が砕け散る。思わず手を押さえてうめきを上げたところに、3発目の銃弾が撃ち込まれた。銃弾はこめかみを左から右に貫通し、頭蓋骨に入口よりも巨大な出口をもつ不格好なトンネルをつくりあげた。小屋の中は、四人分の血しぶきがまき散らされ、どうしようもなく生ぬるい血の匂いが充満していた。
けれど、それこそがダンヒルの求めていた瞬間だった。気配を殺し、音もなく扉の外に転がり出る。
この際、小娘はどうでもいい。というより、あれが「師殺し」なら、そんな余計な動作に力を回していては自らの勝利を遠ざけるだけだ。12インチもの長銃身のピースメーカーを使い50ヤード先のコインをダンスさせる男。的に射撃をすると、全ての銃弾が同じ地点に集弾するので跳弾が危険だからと射撃場の出入りを禁止されたとか、早撃ち対決では相手の弾丸を撃ち落とした、だとかの眉唾のような話ばかりが飛び交う伝説の持ち主。はじめは曲芸師のような銃興業で生計をたてていたその男は、ある日を境に非情な狩人へと転身した。並み居る銃士を次々と駆りたて、高額の金を稼ぎ集めたその男は、己の師匠までも射殺したという。
名前を聞いてまさかとは思ったが。この腕は間違いない。あいつだ。
40ヤード先の茂みから、とてつもない圧力が放たれている。居場所がわかっているのに、どうすることもできない。着弾と銃声とにはわずかとはいえ開きがあった。馬鹿どもの頭を吹き飛ばした威力といい、ライフルを使っての射撃だろう。正面切って打ち合えば、いかにダンヒルが腕に自信があろうと拳銃などで歯が立つものではない。まして、相手の腕は超のつく一流なのだから。
けれど、今、ダンヒルは気配を断っている。あの男の最優先目標は娘の保護だろうから、意識はあくまで小屋に向いているはずだ。それ故に、奴はどうしても小屋に向かわなければならない。そこで動きが生じる。その一瞬に、勝機が訪れるはずだ。
互いに身動きがとれぬ間に、陽が沈んでいく。光よりも闇が支配する時間が訪れようとしていた。
茂みのむこうで、殺気が揺らぎだした。奴にも迷いが生じている。
小屋の中では、緊張に堪えきれなくなったのか、ティーゴの旦那が身じろぎをはじめだした。動くな、と言おうかと思ったが、それはそれでいいかと放っておくことにした。ダンヒルは給料分の義務は十分に果たしたのだ。
茂みの向こうからの圧力が瞬間的にふくれあがり、そして唐突に消えた。
奴が気配を消した。動くぞ。
ダンヒルは茂みの向こうに全神経を集中させた。
だから、自分の背後の空気の動きを読むのが遅れた。
(ばかな)
ダンヒルの体が凍り付いた。ありえない。気配はついさっきまであの茂みの向こうにあったはずだ。
(何でお前、そこにいるんだよ)
一瞬で、この距離を移動し背後に回ることができるはずはないのだ。
まさか、まさか、気配だけを空間に残して肉体は別の場所に移動させていたというのか。
背後から口を塞がれたまま、鎖骨越しに鋼の刃で肩口から心臓を貫かれたダンヒルは言葉を発することはできなかった。
(ガンマンが、ナイフを使うのかよ……)
ただ、その不条理な思いが目に抗議の光を宿らせていた。けれど、それを目にしたショウの顔には何の表情もなかった。
「ミリアム、そのまま動くな」
ショウの言葉が聞こえたとき、それがひどく違和感のある声であったとしても、それだけでミリアムは泣き出しそうになった。けれど、ショウが動いてはいけないというので、かすかに首を縦に振った以外には、指一本動かさなかった。
「ティーゴさん、安心してくれ」
ショウの声は抑揚が無くひどく平板で、とても『安心』からはほど遠かった。だからといって、不安をかき立てるような高圧的な波もなく、ただ、静かに事実を告げているようであった。それが、ひどく恐怖を誘っていた。
「あんたの財産は、全部あんたの物だ」
床に這いつくばって、血しぶきを浴びたティーゴは全身を振るわせながら首をバネ仕掛けのオモチャのように何度も振って頷いた。
「だからさ、全部あんたが持っていけるようにしてあるよ」
ショウの言葉には優しささえ感じられた。その顔を見ることができたら、笑っているように見えたのかもしれない。それから、ショウは最後の説明を付け加えた。
「あの世にな」
ティーゴはショウの言葉を理解できなかった。
だとしても、それほど問題はなかった。ショウは、倒れていた男の一人から銃をもぎ取ると、撃鉄を起こし、引き金を引いた。左手が何度か動いたが、銃声は一つしか聞こえなかった。もちろん、3発もの弾丸を浴びたティーゴの命は地上にはなかった。
撃ち終わった銃をショウはまた男に握らせた。焼けた銃身が死体の肌を焼いても、ショウは全く気にしなかった。
「ミリアム、立てるかい」
ショウの言葉は聞き慣れた響きに戻っていた。けれど、ミリアムは動くことが出来なかった。それを、ショウはおびえと受け取ったのだろうか。ごめんな、と寂しそうにつぶやいて、ミリアムのそばにそっとしゃがんだ。ショウの体温を感じたミリアムは、首を振りながらその体にしがみついた。ショウは優しく頭をなでてくれた。ゆっくりと、愛おしむように。
けれど、そんな彼女たちの姿を見つめる目があることにミリアムは気付いていなかった。
破れた心臓は血液を循環させていなかったが、身も心も黒くそまった男の脳はまだ電気信号を交流させていた。
(圧力が消えた……)
さっきまで、全身が地の底に押さえつけるような威圧を感じていたダンヒルの消えゆく意識は、その変化を敏感に読み取っていた。
(名人も、小娘に血迷うってわけかい)
地面に倒れてはいたが、幸い自分の体につぶされていたのは左手で銃を持つ右手は自由だった。震える手で銃を構える。酒浸りの男の手が杯を持つときだけは痙攣が止まるように、血に酔った手は狙いを付ける瞬間だけは静かに定まった。
背中をむけ、右腕で小娘の頭をなでる奴は隙だらけだった。
(煉獄で続きを楽しもうぜ)
唇をねじ曲げて笑いながら、引き金を引く。この距離なら、外しようがないし、防ぎようもない。間近で煙る黒色火薬の発煙が人生最後の嗅覚を満たすはずだった。
しかし、あまりに強烈な刺激がそれを上書きした。
死を目前にした者であったからこそ、極限まで研ぎ澄まされた意識の中でダンヒルは感じとった。瞬間的に金属同士が擦れあい、弾け、融解する匂いを。
(銃弾を、弾いただと?)
驚愕に見開かれたダンヒルの目を、冷たい目が見据えている。
違う。奴の目は銃口を見ていた。奴と小娘の体の間から、黒い銃口がのぞいている。
続けて音が二回響く。
一度目で、ダンヒルの愛銃が砕け散った。堅牢な構造の回転式拳銃であっても、銃口を逆進する弾丸を受け止めることはできなかった。
(は、銃口を狙ってたのかよ……)
ダンヒルの超人的に研ぎ澄まされた感覚は、ショウが左手で抜きはなった銃を脇越しに連射したことまで認識していた。けれど、その鋭敏な知覚も断ち切られた。二度目の銃声が、ダンヒルの眉間を打ち砕いたから。
体のすぐそばで3度の銃声を聞かせたことで、さらに身を固くしたミリアムをいたわるように、ショウは静かに銃をしまった。
血と硝煙の混じった部屋から運び出してから、ショウはミリアムに詫びた。
「ごめんな、ここを調べるのに時間がかかった」
屋敷に乗り込み、ごろつきどもを締め上げ、証拠を消し、全てを焼き払ってきた。
その時間で、大切なものを失うかもしれなかったのに。
「ううん。そんなことない」
ミリアムは、ショウにしがみついたまま答える。
来てくれた。ショウは、地獄の底にだって来てくれた。もうそれだけで、他に何も要らない。
「さぁ、ミリアム。ウィルが待ってる。帰るんだ」
今まで以上に優しく、暖かい声をかけながら、ショウはゆっくりとミリアムを愛馬の背に乗せた。
ショウの匂いがする鞍だから、ミリアムは疑問を抱かずにまたがる。
「クオ、道はわかるな」
賢いショウの愛馬は、短くいなないた。
「じゃあな、ミリアム。今度こそお別れだ」
ショウは鋭く手を振り抜くと、クオの尻を叩く。勢いづいて、馬は走り出した。
「ま、待って、ショウ。待ってよ!」
ミリアムは懸命にクオを止めようとする。けれど、いくら手綱を引こうとクオは軽やかに走り続ける。
「ショウ、やだ、行かないで!」
視界の端で、ショウが別の馬にまたがるのが見えた。
ミリアムは、特別な訓練をしているわけではない。けれど、その時ははっきりと視ることができた。夕日の沈んだ薄暗い空の下で、ショウの眼にも涙が浮かんでいるのを。
双方が遠ざかっていくこともあり、ショウの姿はあっという間に暗がりの中に消えていった。
ミリアムの叫び声が荒野に響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます