1章_3
緊張感とは程遠い空気の中で走り続けて数時間、
クッションに兜を埋めて「パーシヴァルさんの噓吐きぃ……」と半ば
どうやら領地境の検問に着いたらしく、男が数人窓
一人が慌てて馬車に乗り込み、こちらに聞こえないように声を
それに対してオルドは軽く片手を上げ「問題ない、通せ」の一言で
そうして警備が周囲に事情を説明してようやく馬車が走り出せば、オルドがクツクツと笑いだした。
「時間をとらせて悪かった。どうにもうちは警備が
そう話すオルドの口調は言葉とは裏腹にどこか得意気だ。
そもそも、時間をとらせるも何も検問を設けたのは彼自身のはず。それをあえて言うのは、いかに
なんとも分かりやすいその態度に、モアネットがギシと肩を竦めて返した。そのうえ、しばらく進めばまた検問があるのだからこれは堅いにも程があるというもの。
雑談ばかりで馬車を
だがそれほどまでにオルドがこの領地を固め、そして己のテリトリーとして
王宮から
もしかしたら自ら
そんなことをクッションに兜を埋めてウトウトと
オルドの
些か華美過ぎるところも目立つが、それがまたいかにも権力者といった威圧感を感じさせる。自己
中も外観に合ったもので、長い
そんな廊下を歩くオルドは堂々としており、まさに屋敷の
そのうえ通りかかる者達は皆オルドの
なんとも失礼な話ではないか。だがオルドを案じ、彼の返事を聞くや
『玉座に座るためには、こっちの
とは、馬車の中での彼の言葉。
そんなオルドの後ろを歩いていたモアネットがふと足を止めたのは、一行からパーシヴァルだけが外れたからだ。何かあったのか、突如足を止め廊下に並ぶ鎧を
いったいどうしたのかとモアネットが兜を
「どうしたんですか、魔女殺しのパーシヴァルさん」
「……呼び方に
「気のせいですよ、魔女殺しのパーシヴァルさん」
「そうだな、きっと気のせいだな」
「そうですよ、魔女殺しのパーシヴァルさん。それで、本当にどうしたんですか? この鎧に何かありましたか、パーシヴァルの魔女殺しさん」
「ちょっと混ざってきてるぞ、モアネット
「魔女のパーシヴァル殺しさん……」
「もはや何が何だか」
パーシヴァルが
傷一つどころか
だが鎧を眺めるパーシヴァルの表情は
「立派な鎧だな」
「そうですね。確かに立派な鎧ですね」
「だが立派なだけだ。
そう言い切るパーシヴァルに、モアネットが兜の中で目を丸くさせた。
並ぶ鎧は屋敷に箔をつけるためのもの、立派ならばそれで十分ではないか。必要なのは豪華さと威厳、そして屋敷の主の自己顕示欲を満たすこと。可愛さは必要無い。
だというのにパーシヴァルはいまだ鎧を眺め、可愛くないだの
そんなモアネットの怪訝な視線に気付かず、パーシヴァルはしばらく鎧を
まったくわけが分からないとモアネットが兜の中で
「可愛いとも思わないし、
「パーシヴァルさん、いったい何の話をしてるんですか?」
「いや、何でもない」
気にしないでくれとあっさりと話を
そうして屋敷の中を
主の部屋だけあり広く豪華な一室で、飾られている品々は
もっとも、飾ってこそいるがオルドもこの手のものにはさして興味は無いようで、高そうな壺にロバートソンが近付くのを眺め「巣にするか?」と話しかけている。
コレクターが聞いたら
そんなオルドの部屋で、彼に促されてモアネット達がソファーに
「せっかくだからワインでも開けるか。ジーナ、モアネット、何かリクエストはあるか?」
「あら、気になさらないで。オルドが選んでちょうだい」
オルドの申し出にジーナが
その
ここで屋敷と立場に見合わぬ安いワインを出せば、その程度の
つまり今オルドは魔女に
「
「深く考えず、身の
「そうしたいところですが、私はワインを飲めません……」
しょんぼりとモアネットが答えれば、察したジーナが
思わずモアネットが
今までワインは資金源として考えていたが、少しくらい
「モアネットには他の飲み物を用意させる。何が良い?」
「オルド様が選んでくださって構いませんよ」
「そこは
「紅茶が良いです。お砂糖の数は……オルド様が決めてくださって構いませんよ」
せめて砂糖の数ぐらいはとモアネットが魔女らしく告げれば、オルドが苦笑を
次いで部屋の
そうして待つこと少し、部屋に飲み物と
オルドが「夜は豪華に
だがあえて詫びるのは、これもまた彼の見栄なのだ。その分かり
クッキーは適度に甘く
そうしてしばらくは柔らかなソファーと
そんな
「そろそろ説明してもらえるか」
というオルドの言葉だった。
真っ赤なワインが注がれたグラスを片手にする彼は、深い茶色の髪と合わさってまるで
そんな彼を見つめ、モアネットが紅茶を一口飲んでゆっくりと口を開いた。
「
と。
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