1章_1
時間が
モアネットもどことなく
だがいかに故郷といえど、アレクシスとパーシヴァルにとっては針の
だからこそ
きっと分かってくれるに違いない。
そう語るアレクシスの
だが誤解を解いた先については何も言わず、アレクシスもパーシヴァルも
ここまできてしまったのだ。彼等の胸中はさぞや複雑で、
「ずっと考えてたんだ、全て解決したら僕は王位を……」
アレクシスが言いかけ、言葉を濁すように溜息を吐いた。パーシヴァルも同様、思い
そんな二人の様子に、モアネットがギシと
ちなみに、今後を深刻に考えているのはアレクシスとパーシヴァルだけだ。
ジーナはコンチェッタを
この温度差と言ったらないが、お
「そうだモアネット、落ち着いたら
「はい! ジーナさんが来てくれるならロバートソンも喜びます」
「大親友の
片や深刻な空気を
そんな第三者には理解しがたい光景を
密集して並ぶ屋根と、その中に建つ
……そう、これで終わるはずだったのだ。
だというのに市街地に着くや馬車を降りる間もなく
囲む騎士達は誰もが厳しい表情をしており、中には剣を手に
「こんなに手厚く
「え、えぇそうですね……」
両者から漂う威圧感は
むしろこの
もっとも、彼が青ざめるのも当然だ。
『どんな噂が流れているか分かったものじゃないから、まずは王宮に行って誤解を解こう』
そんな考え自体が甘かったのだ。行動も考えも、何もかも後手だったと改めて
なにせ不用意な言動は許すまいと眼光
そんな中、一人の騎士がジーナに対して私語を
だが相手はジーナである。人の
これには逆に騎士の方が
「ジーナさん、
「あら、魔女を名乗るならこれぐらいで臆しちゃ
「いや、今コンチェッタは……」
確かに猫を抱えたまま王宮に向かえば、その姿は余裕を感じさせるだろう。それが使い魔となれば魔女らしい余裕と言えるかもしれない。
「だけど重いなぁ……」
そうモアネットが呟けば、背後を歩いていた騎士が咎めるために
そうして王宮内に連行され、両陛下と対面である。
アレクシスにとって感動の親子の再会……なんてものにならないのは言わずもがな。当然だが持て成しなど何一つ用意されておらず、
王は険しい表情を
三人の様子は
これが王族の威厳か、そうモアネットが心の中で
「アレクシス、お前は自分が何をしたのか分かっているのか?」
そう
だがその言葉すら不快だと言いたげに首を
「国費を使い込んで
「国費を!?」
それに
「今回の旅費は全て俺が
「
追い打ちをかけるような冷ややかな言葉に、パーシヴァルの
彼を動かしているのはアレクシスへの忠誠心だ。だが今目の前に立つ王もまた忠誠心を
だからこそ王から咎められたことが
「アレクシス、お前はしばらく部屋で大人しくしていろ」
「そんな、これから呪いの犯人を見つけるのに……!」
「お前まで魔女だの呪いだのと言っているのか。少しでも
「処罰……」
父親の口から
それを見たパーシヴァルが唸るように彼に
そんな姿をモアネットは兜
仮にここで魔女だと名乗ったとしても
かといってこのままではアレクシスが
それはまずいなぁ……そうモアネットが考えていると、腕の中のコンチェッタが「ヴー」と唸りをあげた。
「……コンチェッタ? ねぇジーナさん、コンチェッタの様子が」
「おいでなすったわね」
冷ややかに笑うジーナの言葉に、モアネットがいったい何が来たのかと問おうとし……、
「モアネットお姉様……!」
と、悲痛な声と共に
「エミリア」
と、その名を呼んだ。
「どうかお願いです。モアネットお姉様に酷いことをなさらないでください……!」
彼はエミリアを
ローデルもまたアレクシスに
……いや、事実すでに夫婦同然なのだろう。本来の立場であれば許されぬ近さで寄り添い合う二人を、両陛下は見守るだけで咎めようともしない。
「お願いです、ローデル様。どうか……」
そうローデルに縋りつくように
その
それに……と、モアネットが僅かに息を吞む。だがそれを
「エミリアは
「……私が?」
「エミリアは少し子供っぽいところがあります。貴女が
提案してくるローデルの口調は
まるでエミリアが王女になる姿を、自分の
そんな分かりやすい二人の姿をモアネットがぼんやりと眺めれば、願うようにこちらを見つめてくるエミリアと視線が合った。普段は愛らしく
ポトン、
と頭に、もとい
エミリアが小さく悲鳴をあげる。それどころか隣に立つローデルも
だが生憎と兜を
「ロバートソン」
毛の生えた八本の足、ふっくらとしたお
まさに蜘蛛といったその姿にモアネットが兜の中で瞳を輝かせれば、彼は糸を
ふかふかのコンチェッタの頭に、まるで
それと同時にロバートソンに小さく感謝を告げるのは、あの瞬間、ローデルの提案に
まったく、なんて愛らしくて手のかかる妹だろうか。
仕方ない、私がそばに居て支えてやろう……。
と、なんでそんなことを思ったのか、冷静になった今では理由が分からない。……わけではない、理由は分かる。分かるからこそ、モアネットはローデルに寄り添うエミリアに視線をやった。
「
「そんな、お姉様……どうして」
「だって私は
魔女は気まぐれ。いかに王族の提案といえど命令といえど、そして可愛い妹の願いといえど、気分がのらなければ
だから今はっきりと
「私は今、エミリアを支えるよりアレクシス様の
そうモアネットが告げれば、エミリアが悲痛そうな表情を
元より魔女だ呪いだとアレクシスとパーシヴァルが……
注がれるその視線は鎧を
見れば彼女は愛でるような
「コンチェッタとロバートソンを預かるわ、新米魔女さん」
と告げてきた。
モアネットに魔女として
それを察してモアネットが頷き、コンチェッタとその頭に乗ったロバートソンをジーナに
そんな一人と二
その靄に命じられるようにポシェットへと手を伸ばし、中からペンと羊皮紙を取り出した。
「おい、何をしている!」
そう声を
もっとも腕といえど鉄の鎧だ。摑まれたところで痛みはないが、反動で羊皮紙が鉄で
「おいやめろ! モアネット
とは、咄嗟にあがったパーシヴァルの声。
見れば数人に取り押さえられている彼は、それでも身を
その光景に、
そんなはっきりとしない思いのまま、モアネットが
だがさすが日々
だが予想していた
目の前で金の
「パーシヴァルさん……」
モアネットがその名を呼ぶも、彼は振り返ることも答えることもしない。
いくらパーシヴァルが鍛えられた騎士とはいえ、彼が押さえているのもまた同じ騎士だ。元々の
「パーシヴァル、お前なに考えてるんだ。どうしてあんな王子につく……!」
そう騎士が問うあたり顔見知りなのか。もしかしたら親しい仲だったのかもしれない。元よりパーシヴァルは騎士として勤めていたのだから、この場には共に日々を過ごした仲間が居てもおかしくない。
掛けられる言葉にパーシヴァルがどんな表情を浮かべたのか、彼の背後にいるモアネットには分からない。それでも「騎士の忠誠心はどうした」という言葉に、彼の肩が
「
低い打撃の音が
その背に、そして今度はパーシヴァルに
彼を呪うのは私だ。
私以外が彼を傷つけるなんて許さない。
「私のものに手を出すな!」
吠えるように声を荒らげると共にモアネットが右の手っ
一瞬にして熱に似た痛みが走る。だがそれを小さな呻きだけに止め、強引にペンを引くと共に
「アレクシス!」
彼女はモアネットの行動を見るや、腕に
『
と、モアネットの声が周囲に響く。
次の瞬間周囲にいた者達が呻き声をあげ、まるで何かに
起き上がろうともがく者もいるが、顔を上げるのが
その圧巻とさえ言える光景の中で立っている者はと言えば、右手から血を垂らし荒い息を
呻き声だけが続き
「行きましょう。とにかくここから逃げなきゃ!」
「そうね。ひとまず別の場所に行きましょうか。パーシヴァル、あんた立っていられるんだから、アレクシスを連れてきてちょうだい」
「……は、はい。王子、今はまず退きましょう」
ジーナに命じられ、パーシヴァルが慌ててアレクシスのもとへと駆け寄る。アレクシスは伏せこそしないが足元が
そんな中、コンチェッタが先導するように走り出した。その頭にはロバートソン。二匹はまるで
そんな二匹を追いかけ、モアネットは足早に部屋を後にした。……
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