03. 主張
INTERVAL
『世の中には二種類の人間がいる』
このような文句を時折耳にすることがある。
特定の基準に基づいて、人を二通りに分類する行為。
けれど人間は日々変化する生き物だ。昨日Aと判定された人物がBに振り分けられる可能性は充分に有り得る話。当人の在り方次第で結果は変わる。
まして、現在地球上にはおよろ六十億人もの人間が存在している。十人十色どころではない。巨大な数を二分したとして、さらに細分化していけば分類は多岐に渡るだろう。二種類の枠組みだけでは千差万別の人間を分けきれない。
だとして。
状況に応じて変容しやすい人間の価値観でもって、絶対の基準と呼べるものはあるのか。
吉明は明確な一つの基準を知っている。
小難しい理論は必要ない。
『自分という人間』と『それ以外の人間』
どこまで行ったとしても、それだけは変わることがない。
人間というのは自身の欲望を優先する自己中心的な存在である。
何事もまず自分を至上とする。他者が最上位となることは有り得ない。あるいは、他人のために行動したい自分のために生きることしかできない。
そういうふうにできている。善悪では測れない純然たる事実がある。
そしてこれは、自己中心的な性質を持つ一人の人間の、身勝手な解釈に過ぎない。
12:46 a.m.
ぼやけていた視界は全体的に白かった。
徐々に焦点が合う。目の前には壁、ではなく天井がある。背中に柔らかいベッドの感触。清潔感のある独特な匂い。吉明がいるのは保健室だった。
首を巡らせようとして頬の痛む。それに連鎖するように保健室で寝かされている理由を思い出した。バスケットボールが顔面に直撃を受けて気絶したのだ。
スポーツとは必ずしも安全を保証されたものではない。怪我や不注意の事故は避けられないものである。
問題なのは、今回の出来事が偶然であると断言できないことだった。
誰にだって好き嫌いがある。嫌いであれば遠ざけたり攻撃をするかもしれない。褒められた行いではないが流れ自体は自然なものだ。クラスの男子が吉明を快く思わないように、吉明にも嫌いなものはある。素直に納得はできないが文句を言いたいわけではなかった。
人が人を傷つけるのは日常茶飯事のこと。集団生活をする以上、何事もなく過ぎていくことはない。だから吉明は否定も肯定もしない。事実として受け入れることができる。そういうふうに諦めが付いている。
けれど、それでは納得しない人物がいた。
勢いよくドアが開いた。足音がベッドへ近づく。
吉明の視界に映ったのは、やはり彼女だった。
岩崎遥佳。
走って駆けつけたのか、呼吸が少し乱れている。
「体育の途中で倒れたって聞いた、ボールが顔にぶつかったって……。大丈夫なの?」
「平気。偶然ボールが当たって気を失ってた。……それだけだよ」
唇が微かに痛むが問題なく口は動いた。それ以外の要因はないと主張するように淡々と告げる。
岩崎が見せたのは訝しげな表情。ベッドの横にあった椅子に座ると、居住まいを正して、今一度問いかけた。
「――本当にそれだけ?」
「本人が、そう言ってるんだけど」
「何か隠してるように見える」
「どうして……そう言い切れるんだよ」
「勘」
あまりにも断言するので返す言葉を失った。
吉明の身を、吉明以上に案じてくれている。それこそ過保護なまでに。
いつだって岩崎はそうだった。
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