ゲーム世界は異世界より救うのに時間がかかる

 いつものカレー屋の地下。

 広大な白くて照明もないのになぜか明るい、空の見える地下室。

 そこでソファーに寝っ転がって、大画面でゲームしている俺。


「レベル低い勇者って大変だよな」


 やっているのは普通のターン制RPG。やはりJRPGはこれが好き。

 ムービー中にボタン押すやつ大嫌い。


「先生にもそんな時期があっただろう?」


「めっちゃ前だな。超ぼんやりしてるよ」


 別のソファーでヘスティアが見ている。

 こいつも店休日で暇なのだ。


「あの、勇者様。昨日からずっとごろごろして、ゲームしかしていないような気がしますが」


 フィオナがおやつを食べながら話す。

 ちょっと精神的疲れが見えたので、カレー屋に住まわせている。

 担当世界は平和になったので問題なし。ヘスティアが女神界に口利きした。


「クリアしていないんだから当然だろ。いま中盤くらいだな」


 ゲームはショートカットして魔王城に行けないから、異世界より時間がかかる。

 行ってもレベルが足りない。ストーリーを楽しみたい派なのでいいけどさ。


「働けと言っているんじゃあないかな?」


「俺は週休六日制なんだよ。金なんていくらでも作れる」


 異世界を救うことが楽しいのであって、現代社会に対して何かしたいわけじゃない。

 社会の役に立とうとは思わない。なんかつまらないのさ。


「いくらでもというのは?」


「錬金術もできるからな。そのへんの燃えないごみ全部ダイヤか金塊にすればいい」


 コントローラーをダイヤ、純金、氷、フランスパンに変えて、最後に戻す。


「器用だろう? ああやって横着してぐーたらしているんだよ。私も困っている」


「カレー屋を手伝うとか……」


「私の店だから却下で。というか、先生は私より料理がうまいんだよ……自信がなくなるから却下している」


「たまーに異世界の食材とか持ってきてやってるだろ」


「それは感謝しているよ」


 カレーは全てをカレーにする。だがカレーとして美味いかまずいかは別問題。

 新作カレーはこうしてできています。


「フィオナもくつろいでいいぞ。まだ魔力と加護が安定していない」


「いえ、勇者様のおかげで回復しました」


「嘘は良くないな。君は元々魔力が不安定だね。加護が毎回変わるのもそのせいだ」


 体を調べた結果。魔力を不安定にさせ、超強力な加護を引き当てることができるように体質改善を施されていた。

 ちょいと複雑なんで、本人の回復を優先させていたが。


「ガチャみたいな体質なんだな」


「急に俗っぽくなったねえ」


「でもご迷惑をおかけするわけには」


「いいんだよ好きでやってんだから。さて、魔力のコントロールか。俺が教えてやってもいいが……」


 そこで通信室から音がする。どっかの女神がかけているのだろう。


「悪いね先生」


「いいから出てこい。なんかあったのかもしれないぜ」


 そこまで気を遣わなくてもいいってのに。

 飲み物持ってきておやつタイム続行。


「んー展開がマンネリしてやがる。格ゲーで気分変えるか」


「かくげー?」


「教えてやる。ちゃんとスティックコンもあるぞ」


 とりあえず女神には魔力より格ゲーを教えよう。

 対戦相手を作りたい。ヘスティアは俺と戦える、数少ないゲーマー女神だ。


「簡単なやつからいくぞ。スティックで移動。ボタンで攻撃」


 初心者相手なので基本からゆっくりレクチャー。

 フィオナは真面目だからちゃんと聞いてくれる。


「よし、魔力と連動させよう」


 魔法と機械の融合くらい容易い。魔力による操作も可能に変更。


「これで遊びながら魔力コントロールの訓練もできる」


「流石ですね」


「遊びには本気なのさ。俺がいないときもやっとけ。魔法についてちょっと調べておく」


「ありがとうございます」


「いえいえ、対戦相手がほしいだけさ」


 しばらくフィオナと遊んでいるが、ヘスティアが帰ってこない。


「おーい。早くしないとおやつなくなるぞー」


 とりあえず通信魔法で声をかける。全部食うと拗ねるし。


「悪いね先生。昔の教え子の相談に乗っていて……そうだ先生、明日はお暇かな?」


「明日? 日曜だし暇だけど……俺魔法について調べたいんだよ」


「だったらベストな異世界がピンチだよ」


 次に救う異世界が決まった瞬間である。

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