新しい甘味を求めて

空音ココロ

空から降ってきたどら焼きは……

 歩道を歩いている時に空からどら焼きが降って来た。

 「どこから落ちてきたのか? そしてこれは本当にどら焼きなのか?」

 見た目、感触は間違いなくどら焼きだ。

 茶色い塊が落ちてきたのが見えたので思わずキャッチした。

 空を見上げてみるがマンションのベランダから落としたという気配はない。まず高い建物自体が無い。鳥が咥えたにしてはキレイな形だ。

 

 次に思い浮かぶのは「このどら焼きは食べられるのか?」という事だった。

 どら焼きファンとしては鑑定したくなる。どこの店で作られたのか? 店が分からずとも材料、製法、等々…… 

 しかし外観だけで判断するのはとても難しい。

 ふかふかの生地に包まれてどんな餡が入っているのだろうか?


 そして味は?

 舌の上でテイスティングしなければ、真の力を判定する事は出来ない。舌触り、最初に触れた瞬間から口の中で噛んでいくる時の変化。想像しているだけで出てくる唾液を飲み込みゴクリと喉が鳴る。

「割ってみるだけならいいかな?」

 私は恐る恐る左右に開くように折っていく。カステラの生地が少しずつ離れていき餡が顔をのぞかせた。

「小豆の粒あんだ」

 少しとろりとしていて、割れ目から餡が落ちてしまいそうになる。その姿を見ていると鼻息も荒くなり自分が興奮しているのが分かった。


 周りには誰もいない。今これを口に運んだところで不審人物にはならないだろう。

 私はどら焼きを一口食べた。

 これは、子リス屋のどら焼きだ! このとろける餡子、ふっくらとした生地、程よい甘さ。噛むほどに口の中で混ざって旨味が解放されていく。


 空から一枚の紙が降りてきた。

 アンケート用紙?

 思いの丈を記入する。美辞麗句が並ぶがしょうがない。本当のことを書くとそうなってしまうのだ。

 スポットライトが当たり、アンケート用紙が回収される代わりに紙袋が降りてきた。

「新しい甘味を求めて宇宙から来ました。このどら焼きは素晴らしい。ご協力ありがとうございました。お礼にこちらのお菓子を差し上げます」

 紙袋の中身を受け取るとライトは消えて元に戻る。紙袋の中にはカラフルな色をした丸いものが入っている。試しに一口食べるとサクサクとした触感、ほんのりと甘くて美味しい。これだけのお菓子を作る宇宙人に認められるとは子リス屋は素晴らしいな。

 別に自分が作ったわけじゃないけど誇らしげな気持ちになる。

 周りに人がいるかはもう関係ない。私は宇宙人から貰ったお菓子を口に運びながら再び歩道を歩いて行った。 

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