第2話 新しいお店


リアス王国最東の街「エスト」。

東の隣国である魔国との境界にあるため、その周囲は強固な外壁に囲まれている。


街には東、西、そして南に門があり、この3つの門と北の領主館を真ん中で十字に結ぶように大通りがある。大通りにはきらびやかな店が建ち並んでいるが、これらの店は主に貴族や大商人向けの高級な店である。

そのため、庶民向けの安価な店や利益を追求しない職人の店は大通りからは外れた中通りに店を構えている。ちなみに出店なども中通りに存在する。


南東地区の中通りにある新しいお店。

「碧の木」という看板がつき、その名のとおり美しい碧色の木を使って造られた木造の真新しい店。

2階建てになっており、1階を店舗に2階を住宅として使っているようである。

外からは何の店かわからないが、何やら甘い匂いが道まで漂ってきている。


今、その店の前には5人の子どもが集まっている。少年少女というような子どもから、まだ幼児と呼ばれるような小さな子どもまでいる。また、年齢だけでなく種族までも様々だ。人族だけでなく獣人族やエルフまでいる。小さいからだろうか、とても可愛い。




「本当に店が建ってる。」

「ねぇ、私たちの秘密基地ってここよね?間違えてないわよね?」

「んなわけねぇだろ。この俺が秘密基地の場所を間違うわけねぇ。右は婆さんの花屋。左は爺さんの靴屋。ほら、あってんじゃねぇか。」

「だけど、ねぇ…。」


大きい二人の子どもが店の前で騒いでいる。男の子の方は人族で女の子の方は獣人族のようだ。話からすると、どうやらこの場所に店が建ってることが信じられないらしい。

だが無理もない。何故ならここは長らく空き地であり、近所の子ども達の遊び場となっていたからだ。しかも、彼らは昨日もこの場所で日が暮れるまで遊んでいたのである。つまり、この店は夜の間にひっそりと建てられたということである。普通に考えてありえない。


「でもお店があるのは本当だもん。ミーナのおめめ嘘ついてないよ?」

「お店あるー。リーにも見えるー。」

「でも、お店あると遊べないね。ジャンにいサラねえ、どうするの?」


チビ達も驚いているようだ。自分のことをミーナと呼んだ女の子は人族。リーと呼んだ男の子はエルフ族。最後の落ち着いた二人より少し年上の男の子は竜人族のようだ。


「俺が抗議してきてやる!」

「ちょっと止めなさいよ。お店の人に迷惑よ。」


先ほどジャン兄と呼ばれた少年が店に乗り込もうとしたのを同じくサラ姉と呼ばれた少女が止めている。小さくても獣人族。ジャンが物理的に止められている。だけどお嬢さん。その位置ちょっと危ないですよ。綺麗に絞まってますね。ジャンくんの生命的危機です。


「お店に迷惑かけちゃいけないのよ。あなただって東通りの噂聞いたことあるでしょ?お店に迷惑かけて借金奴隷になったって。ここの地区の人たちは優しいけど、新しく来た人までそうとは限らないわ。ここは一度帰って話し合いましょう。ね。」


借金奴隷といわれてジャンや他の子どもたちも怖じけついてしまったようだ。とりあえず、一度帰って話し合おう。そう決めて店の前から立ち去ろうとしたが、少し遅かったようである。


「うるさいなぁ。何か僕に用事?」


子どもたちが立ち去るまえに店の扉が開き、中から人が出てきてしまった。

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