第3話 青年
中から出てきた人は10代後半ぐらいの青年だった。180くらいはありそうな長身だが、小柄であるからか、そこまで大きくは見えない。長い前髪に隠された童顔な顔立ちと、彼から仄かに香る甘い匂いも影響しているのだろう。
「ねぇ、僕に何か用事でもあるの?」
急なことであったため固まってしまった子ども達に向けて彼はもう一度同じ質問を繰り返した。先ほどはうっとおしいとでも言いたげな声であったが、小さい子どもがいることがわかったからか今度は少し優しめに聞いている。
「おおお俺はジャン。こいつらのリーダーだ。この場所は俺たちの遊び場だったんだぞ。わかったなら早く出ていくんだな!」
急に出てきて吃驚してしまったのか、ジャンは謎の虚勢を張ってしまった。うん、カッコつけたい時期ってあるよね。かわいいかわいい。
「ジャン!ダメよ!何てこというの!」
そしてすぐに怒られた。
「でもここ意外に俺たちの遊べる場所はねぇし、出ていってもらうのが一番いいだろ?」
「迷惑かけちゃダメって言ったじゃないっ!もうっバカ~!」
「ぐふぉぉっ」
そしてさらに殴られた。獣人族の力で殴られたジャンは立つことができない。サラWIN!
しかし、まわりのチビ達は特に気にした様子がない。彼らにとっては2人がこうなのは『いつものこと』なのである。
チビ達3人組はそんなことよりも、初めてみる青年に興味津々なのである。
「ミーナはミーナだよ。お兄ちゃんお名前は~?」
「レイヤだよ。」
「レイにぃ?リーはリーなのー。」
「アレンです。よっよろしくお願いします。」
「よろしく。」
荒れている二人の隣でほのぼの空間が構築されていく。
「サラ、っお前……ちょっとまて…」
「バカバカバカ~っ」
「ぐふぉぉぉぉぉ!!!」
上の2人が仲良く(?)している間に、ちび達3人はレイヤと交流を深めていた。いつのまにかミーナとリーはレイヤの背中に乗っている。そのとなりでアレンはレイヤを怒らせてはいないか、二人は危なくないかとハラハラしている。
「それでねー。リーたちはねー。遊ぶのー。」
「いつも一緒に遊んでるの。だから今日も一緒に遊ぶんだもん。えへへー」
「二人とも降りて。ダメだよ。迷惑かけちゃダメなんだよ。ね。」
「「いーやー」」
「えぇ~。」
「別にいいよ。気にしないし。アレンも適当にすれば?子どもはもっと気楽に生きるといいよ。」
「「きーらーくー」」
「二人とも絶対意味わかってないよね。はぁ。」
アレン。何気に一番苦労人かもしれない。
「ねぇ、遊べる場所があればいいんでしょ。」
ミーナとリーを背中からおろして、三人と向かい合ってレイヤが話し出した。少し声を抑えて話したため、内緒話のようでちび達が楽しみだしている。こそこそっと道の真ん中で話し合う彼ら。ほのぼのですねぇ。
「うん、そーだよ。ミーナね、ミーナたちが遊べるひみちゅきちが欲しいの。」
「そー。ひみちゅきちー。リーたちのひみちゅきちー。」
「ミーナ、リリー。秘密基地だよ。ひみつきち。」
「「ひみちゅきちー。」」
「…………そうだね。ひみちゅきちだね。」
まだ小さくて舌ったらずな二人にアレンは正しい言葉を教えようとしたが、諦めたようだ。大丈夫。大きくなったらちゃんと言えるようになるさ。可愛いは正義!さあ復唱しよう。可愛いは正義!!
「まぁいいや。そのひみちゅきちっていうの?僕が用意してあげるよ。それならここに店があってもいいでしょ?」
レイヤもひみちゅきちに乗ってしまったらしい。こうなったら今後は本当にひみちゅきちで通すしかない。
「いいのー?」
「うん。いいよ。じゃあ行こうか。」
「うん!」
「わーいー。」
「あの………」
「アレンもおいで。」
そう言ってレイヤはミーナとリーの手を引いてお店のなかに入っていく。ちなみにアレンはリーのもう一方の手をつないでいる。最年少ちびエルフは小さくてもエルフ。両手を掴んでいないと何をしでかすかわからないのだ。
「君たち二人も、来るならおいで。でないと置いていくよ?」
レイヤに声をかけられて、二人はようやく辺りを見渡し、現状を把握したようだ。サラが恥ずかしそうにジャンを締め上げていた手を外した。ジャンはレイヤに対して何か言いたげであったが、ちび達が楽しそうにしているので、黙ってついていくことにしたらしい。
カランカラン♪
店の扉についた鐘が子ども達を優しく迎えいれてくれている。
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