真実3
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3日前。帰宅したスレイに、仕事を放り投げたシーアは抱きついた。勢い良く抱き着いたシーアを受け止めることもなく、黙ってスレイは立っていた。そして低い声で一言。
「女に会ってたの?」
それがどうした。腹立たしさを隠さずに言うと、どうやら怒っていると分かったシーアが黙った。黙っていれば良いのだ。口を開けばイライラするが、黙っていれば綺麗で可愛らしい女性なのだ。
力を入れずにシーアの腕は掴み、引き離す。すると強く掴んだわけでもなかったのだが、抵抗することなく手を離した。さすがのシーアでも怒っているスレイに対して、抵抗するのは良くないと理解出来たようだ。
機嫌の悪いスレイに関わらない方が良いことは、この屋敷に住む誰もが分かっている。そして、何処へ向かうのかも知っている。シーアも何も言わず、ついてくることもない。
黙って向かう場所は地下。そこへ向かうのはスレイの他、数人程度だ。そこへ行く理由もなければ、それらに関わりたくないからだ。スレイはそこへ、1日1回は訪れる。用事がなくても、様子を見に行くのだ。
しかし、その日はストレス解消のために向かった。ストレス解消方法は様々だ。多くは暴力を振るうだけだが、ときどき男女関係なく性的暴力を行うこともある。
相手の気持ちや意思は関係ない。何故なら、地下にいるのは全て奴隷なのだから。地下へと続く階段を下りた先にある扉。コックはその扉の前に奴隷用の料理を置く。中には決して入らない。好んで奴隷のいる地下へ入ろうとは考えない。
それに、料理は決められた奴隷が取りにくる。扉は奴隷が出られないように鍵がかけられているが、扉の下が料理が出し入れできるように開くようになっているのだ。料理の出し入れは出来るが、人が入ることの出来ない大きさ。だからそこから奴隷が出ることはない。
――今日は彼女が来る日だ。
何時に来るのかは分からない。現在は午前11時。もしかすると、早ければそろそろ来るかもしれない。もしも来るのならば、地下の者たちに気づかれてはいけない。この国では良くても、彼女の住む国では犯罪だ。知られてしまえば、二度と彼女は会ってくれないだろう。
それだけは嫌だった。知られないためには、隠し続けなくてはいけない。そのためには、全員が黙っている必要がある。とは言っても、この屋敷の者は話してはいけないことは何かを理解しているため、話す心配はないだろう。1人を除いて。
その1人には言い聞かせなくてはならない。そう考えて、屋敷の中を探す。何処で仕事をしているかなんてスレイは知らない。メイドと執事が何処で誰が仕事をするのかを決めているので、スレイは仕事場を決めるときはその場にいないため知らないのだ。
誰かに聞けば良いのだが、手を止めさせるのも悪いと考えて、自ら探す。何人かのメイドと執事に客人がくることを告げ、探していると2階の窓をメイド長と一緒に拭いているところを見つけた。
どうやら、スレイには気づいていないようだ。別に気がついてほしいわけでもないので気にすることはない。2人の後ろからスレイは声をかけた。
「あら、スレイ様。気がつかず申し訳ありません」
「構わないよ。それより、これから客人が来るんだ。もし来たら客室に案内をしてほしい。私はそれまで書類を片づけてしまうよ」
「分かりました」
「それと、シーア」
「はい! 私にその客人のお茶菓子を用意しろって言いに来てくれたんですよね!?」
首を横に振る。そんなことをさせるはずがない。それをさせてしまえば、シーアは持ってきた飲み物をスピカにかけるだろう。たとえ、それが熱かろうが気にすることなく。絶対と言っても良い。
それだけはさせない。それに、彼女はあることないこと話してしまうだろう。地下にいる奴隷たちのこと、自分はスレイと付き合っており、結婚もする予定。シーアの中では何故かそうなっているため、スピカを見たら自慢するかのごとく話すだろう。
「お前は客人に姿を見せるな。客室にも絶対に近づくな」
「どうして? 良いじゃないですか」
「言うことを聞けなかったら……殺す」
低い声で言うとシーアは目を見開いて黙った。その体は僅かに震えている。恐怖からくる震えだ。スレイは、やると言ったらやるのだ。それを知っているから震えているのだ。
そのまま俯いてしまったシーアを見ていたスレイは、メイド長の声に視線をそらした。メイド長を見ると、彼女の真剣な眼差しをしていた。
「では、シーアは客室から一番離れた風呂場を掃除させましょう」
風呂場と言っても、まるで温泉施設のように広いのだ。あまりの広さに、3日に一度だけ使用される。今日がその日の為、これから数人で掃除をするのだ。そこにシーアを加えれば、夕方まで離れることは出来ない。
それを分かっているから、そこに加えるのだ。スレイは頷くと、自室へ向かって歩き出した。後ろでは2人の話し声が聞こえる。流石のシーアでも言うことを聞くようだ。いくらなんでも殺されたくはないだろう。メイド長の言葉を素直に聞いている。
大人しくしていてくれれば良いのだ。スレイは掃除が終わるまで姿を現さないであろうシーアに安心した。
自室に入ってからは1人黙々と書類を片づけていった。背後に大きな窓はあるのだが、見えるのは木々だけだ。スピカが来たとしても分からないので、誰かが呼びにくるか書類を片づけ終わるまで自室から出ないつもりでいた。
書類を片づけていると、ノック音が聞こえた。時間を確認すると、長い針が6を指していた。返事をすると、入って来たのは執事だった。手に何も持っていないことから、スピカが来たのだろうと予想することが出来た。
「スレイ様。お客様がおいでになりました」
「ああ。今行く」
予想通りだった。書類は途中だったが、あとでも構わない。イスから立ち上がり、扉へと向かう。部屋から出ると、執事が扉を閉めた。
そのまま執事はスレイの後ろをついてこようとするが、仕事に戻って良いと言うと、一度頭を下げてスレイを見送った。
スレイは階段を下りながら外を見た。門の近くに馬車が止まっているのが見えた。馭者の姿も見える。外で待っているのなら、門の中に入って待っていれば良いのだが、以前断られたことがあるため何も言わない。気にせずに中に入って休めば良いと思うのだが、馭者は待つことも仕事だからと中には入ろうとしないのだ。
客室は階段の左側通路の2つめの部屋だ。足音をたてずに扉の前まで進むと、ノックをして扉を開いた。部屋にはソファに座るスピカと、お茶菓子を持ってきたメイド長がいた。
テーブルには2人分の紅茶の入ったカップと、クッキーが乗った皿が置かれていた。そろそろスレイが来るだろうと予想して持ってきたのだと分かる。
スレイがスピカの向かいのソファに座ると、メイド長は一度頭を下げて部屋を出て行った。部屋に残ったのは、スレイとスピカの2人だけ。
「待たせてしまって申し訳ありません」
「いいえ、こちらこそお待たせしてしまい申し訳ありません」
そう言ったスピカはメイド長と何かを話していたのか、とても楽しそうに見えた。何を話していたかなんて、今来たばかりのスレイには分からない。
「私、城以外で龍馬をはじめて見ました」
龍馬。それは、馬のような姿をした体が鱗に覆われた生き物だ。スレイがいつも乗る場所を引く馬がそうだ。ウェスイフール王国にいる龍馬は、1頭だけだ。
スピカもまさか城以外で龍馬を見れるとは思っていなかったようで、馬車に乗っていたときの話しをしてくれた。
城に龍馬はいるが、龍馬が引く馬車に乗ったことはなかったのだ。普通の馬が引く馬車とは違い、早く過ぎ去る景色。そして、今まで一度も訪れたことのない国へ向かうことが楽しかったのだと言った。
ウェスイフール王国に入って、奴隷をはじめて見て衝撃を受けたというスピカに、ここにはいないと嘘をついた、その言葉に安心したスピカだったが、本当はこの屋敷の地下にいるのだ。そのことをスピカが知ることはないだろう。
他にも今まで一番楽しかったことや、美味しかったものの話しを楽しそうにするスピカ。スレイは黙って聞いていたが、スピカの膝で何かが動いたことに気づき、そちらへ視線を向けた。そのことにスピカも気がついたようだ。
「この子は私の愛鳥のポポ。伝書鳩でもあるんですよ」
今まで膝の上で眠っていたようだ。目を開き、スレイを見て一声鳴いた。もしも今後、急用の用事があればポポに手紙を持って行ってもらえば良いと考えて、屋敷の場所を覚えてもらうために連れて来たようだ。こちらからの急用は伝えることは出来ないが、彼女からの急用はポポから届くのだ。
急用はそのときにならなければ分からないが、ポポが届けにくれば自分が必要とされているということになると思うと、スレイは嬉しく思った。
それからは、少し遅めの昼食を一緒にとり、スピカと様々な話しをした。スレイの両親が2年前に事故で亡くなった話しや、仕事の話し。両親のあとをついで商人をしていること。
人を使っているので、自分は交渉するために遠出をしたり、売上や交渉に関する書類をまとめることが多い。書類をまとめるだけなら、忙しそうには思えないが、あちこちから売上に関するものや、トラブル、置いて欲しい商品、新しく持って来てほしい商品などが書かれた書類に目を通してサインをするだけでもかなり時間がかかるのだ。
スピカは、自分が今医学の本を読んでいることを話した。自分が病弱だからということもあるが、将来的に他者を治療することの出来る医者になりたいと考えていたのだ。
本だけではなく、ときどき病院に行き、直接話しを聞くこともある。それだけ、スピカは本気だったのだ。魔法では治すことの出来ないものを、治せる仕事をしたかったのだ。
実現にはまだ遠いと言って笑うスピカに、スレイは「時間なんて関係ないですよ。スピカさんが頑張っていることは、話しを聞いているだけでも分かります。私はスピカさんの夢が叶うように願っています」と答えた。
それを聞いてスピカは嬉しそうに微笑んで、「ありがとうございます。私、絶対実現してみせます」と言った。
そのあとは、スレイがスピカに屋敷内を案内した。キッチンや書斎。スレイの自室兼仕事部屋。
書斎はスピカが興味を持つような本も多く置いていた。城よりは本の数は少なかったが、見たことのない本ばかりだった。両親が商人をしていたから、それを継いでスレイも承認をしているため、他の国に行ったときに見たことのない本を購入しているのかもしれない。
本を読みたいが、読んでいる時間はない。せっかくきたのだから、話しをしたい。本を読んで話しをする時間を削りたくはない。読みたいのなら、借りれば良い。しかし、それは出来ない。何故なら、ヴェルリオ王国の何処にも置いていない本だからだ。図書館で借りてきたと言ってもすぐにバレてしまう。
置かれていない本だということも、図書館へ行っていないということもすぐに分かってしまうのだから。国内でスピカが何をしていたかなんて調べようと思えば簡単に知られてしまう。
もしも、また屋敷へ来る機会があればそのときに少しずつ読めば良い。だが、それは何時になるか分からない。近くの本屋で取り寄せてもらえば良いのだが、それも何時届くのか分からない。それならば、取り寄せはしない。何時届くかも分からない本をずっと待ってはいられないから。
それからひと通り屋敷内を案内されたスピカは客室へと戻ってきていた。案内されながら、スピカはあることを確認していた。それは、奴隷がいるかどうかということだ。
ウェスイフール王国には多くの奴隷がいる。そして、多くの家に1人は必ずといっても良い程いるのだ。いない家もあるのだが、少ない。だからスピカは、この屋敷にも奴隷がいるのではないかと思い、気づかれないように確かめていたのだ。たとえ、スレイが奴隷はいないと言っても、自分の目で確かめなければ不安だったのだ。
だが、何処にも奴隷はいなかった。スピカは安心した。もしも奴隷がいたら、結婚したいと両親に言ったとしても認めてもらえない可能性が高い。ウェスイフール王国の人間というだけで、良い顔はされないのだろうが。
「どうかなさいましたか?」
「いいえ。今日はとても楽しかったと思いまして」
太陽が沈みはじめた窓の外を見ながら言うスピカに、それはよかったと呟いててスレイも外を見た。スピカはそろそろ帰らなければ、両親や兄妹が心配するだろう。
暗くなってからの帰宅では、何処に行っていたのかも問われるだろう。それに、スピカは病弱だ。今の様子からは、具合が悪そうには見えない。しかし、もしかするとこのまま長居することによって体調崩してしまうかもしれないのだ。昼頃に来たときと、日が落ちてからの温度差がある。そのため、体調を崩しやすい。
「楽しいと、時間が過ぎるのが早くて困ります」
そう言って立ち上がるスピカ。そろそろ帰るのだろう。外にいる馭者も待っているだけといっても、疲れているだろうし、彼も家に帰りたいだろう。
スピカより先に扉を開けるスレイにお礼を言って廊下へでる。ゆっくりと暗くなっていく外へ向かって、2人は並んで歩いた。メイドや執事とすれ違いはするが、そこにシーアの姿はなかった。
彼女はまだ仕事をしているのか、言われた通り姿を見せないのか。どちらかは分からないが、姿を見せないのは良いことだ。ここでシーアが現れたら、あれだけ言っていたにも関わらずスピカに言ってはいけないことを言ってしまうかもしれない。
外にでて、馭者が馬車の扉を開き、スピカが乗り込む。「気をつけてと」声をかけて、馬車が見えなくなるまでスレイは黙って見送っていた。
馬車に乗り、スピカが帰宅してもシーアはすぐには姿を現さなかった。スレイが自室に戻り、10分程がたった頃にメイド長と共にやって来た。そのときスレイは、執務机で書類仕事をしていた。夕飯には少々早いため、呼びに来たわけではないということは、手にしているものからも分かる。
メイド長はクッキーの乗った皿を持ち、シーアはコーヒーの入ったカップを持っていた。それらをスレイの執務机の上に置いた。置かれていた書類から少し離れた場所に置かれたそれらは、スレイが書類仕事に集中して手をぶつけることのないように置かれたのだ。
何かを言いたそうにしているシーアと目が合ったが、お互い何も言うことはなかった。もしかすると、何処かの窓からスピカの姿が見えたのかもしれない。だから、それに対して何かを言いたいのだろうと思った。しかし、何も言うことなく2人は退出してしまった。
スピカが使ったカップなどは、すでに下げられているし、この部屋で話しをしていたわけでもないので2人が持って行くものもない。ここへコーヒーとクッキーを持ってくるのも1人で良かったはずなのに、2人できたのは仕事が落ち着いたことと、変わったことがないかの確認だろう。シーアは一度見ただけで、元々この屋敷にあった物なのか、今貰ったものなのかが分かるのだ。それだけ記憶力があると言っても良いが、それは物に対してだけなのかもしれない。何故なら、言われたことを守らないからだ。
それから5ヶ月程。スレイとスピカは直接会うことは一度もなかった。忙しいということもあり、時間を作ることが出来なかったのだ。それでも、手紙のやりとりは忘れなかった。
その日も、窓を背にして執務机に向かい書類仕事をしていた。前日まで5日程帰宅していなかったため、その間に溜まった仕事を片づけていたのだ。
そろそろ昼食になるから、あと3つの書類に目を通してサインを書いたら休憩しようと考えていたのだが、出来なかった。聞こえてきた音。本来ならば聞こえるはずのないそれに、驚いて勢いよく振り返った。いったいそこには何がいるのかと思ったのだ。何故ならここは2階なのだ。ノック出来るはずもない。
しかし、振り返ってみると納得してしまった。人間だったらノックは出来ない。魔法を使ったり何かを召喚したり、石などを投げればノック出来ないこともないのだが。
そこにいたのは、一度見たことのある生き物だった。僅かに出ている窓枠に足をつき、バランスをとっている。イスから立ち上がり、ゆっくりと窓を開く。外開きのため、それは一度飛ぶとすぐに元の場所に足をついてスレイに近づいた。首を傾げてスレイを見ると一声鳴いた。
「たしか……ポポでしたっけ?」
「ポポッポー」
頭を上下に動かしながら泣くポポは、どうやら名前覚えていたことが嬉しかったようだ。頭を上下したあと、翼を広げて羽ばたいた。足が窓枠から離れていなかったので、何かを伝えるための行動だと分かる。
しかし、何が言いたいのかはスレイには分からない。鳥の言葉が分かるわけではないのだ。もしかすると、スピカならば分かったのかもしれない。鳥の言葉が分かるというわけではなく、愛鳥をだから何を伝えたいか分かるだろうと、まだ羽ばたいているポポを見ながら思った。
そして、何故ここにポポがいるのかと疑問に思った。窓から外を見ても林の中にスピカはいないし、下を見てもいない。表に来ているのであれば、メイドや執事の誰かが教えにくるだろうが、それすらもない。ならば、ポポが1羽できたということになる。
では、何故ポポが1羽できたのか。スピカはポポを紹介してくれたとき、何と言っていたか。それを思い出して、ここにポポがいる理由が分かった。
伝書鳩。急用があれば、ポポに手紙を運んでもらう。屋敷の場所を覚えてもらうために連れてきた。スピカはそう言っていた。今ここにポポがいるということは、急用ということだ。ポポは足にある小さな筒に手紙が入っていることを教えるために羽ばたいていたのだろう。
羽ばたくことにより、足についている筒が見えることに今更ながらに気がつく。ポポの頭を軽く撫でて、筒から手紙を取り出す。その間、ポポは騒ぐことなく大人しくしていた。
手紙を読んだら返事を書いて、ポポに持たせなくてはいけないだろう。だから今もポポは飛ばずにいるのだ。急用という手紙の内容とはいったい何なのか。丸められていた手紙を伸ばして文字を読む。
『急でごめんなさい。家族に貴方のことが知られてしまいました。もしよろしければ、明日……早い時間ですが、7時の家族が揃っている朝食で紹介したいのですが、こちらに来ていただくことは可能でしょうか?』
余程急いでいたのだろう。いつものスピカの綺麗な文字ではなかった。急に家族に紹介したいというのは、時間をあけてしまうと何か対策をされてしまうのかもしれないからだろう。対策をされる前に、こちらが行動を起こせば良いとスピカは考えたのだろう。
それに、明日はとくに仕事もなかったので、残るであろう書類を片づけたり、部屋の掃除でもしようと考えていたのだ。だが、家族に紹介したいと言われ、断る理由もなかった。直接会って、付き合っていることを告げるには丁度良い。
返事を書くために机へと向かい、メモ用紙を手に取った。一番小さいメモ用紙だったが、二つ折りにして丸めなければ筒には入らないだろう。書類も片づけないといけなかったが、先に返事を書くことにする。
『こんにちは。明日、朝7時より少し前にそちらへ着くように馬車で向かいます。明日は仕事が休みですので、気になさらないでください。それでは、明日はよろしくお願いします』
そう書いてからスレイは、何がよろしくなのだろうかと首を傾げてしまった。スピカと会えるのだから、楽しみにしていると書けば良かったのではないかと思うが、何か違うのではないかと思った。結局、これで良いと思うことにして、手紙を二つ折りにして丸めると、ポポの足についている筒に入れた。
入るか心配だったが、それは難なく入れることが出来た。一度ポポの頭を撫でると、手紙を受け取ったので、スピカの元に戻ろうと羽ばたいたポポに言った。
「気をつけて帰るんだよ。君より大きな鳥や獣もいるから襲われないようにね」
「ポッポポー」
まるで返事をするように一度鳴くと、ポポは飛び立った。二度程旋回すると、ヴェルリオ王国方向へと姿を消した。窓を閉めると、イスに座ることなく扉へと向かった。
明日、朝早くから出かけることになったため、馬車の手配をしなくてはいけない。それに、もう昼食になるから食堂に行けば用意されているかもしれない。そう思い、スレイは自室を出た。
食堂に行くと、数人のメイドと執事が集まっていた。交代で食事をとるためだ。そして、1人のメイドがスレイを呼びに行こうとしていたようで、スレイの姿を見ると昼食の準備が出来たことを伝えてきた。
用意されている席につくと、まだ仕事をしているであろう昼食を食べるメイドと執事を呼びに行くため数人が食堂を出て行った。間もなくメイド長が入ってくるが、シーアの姿は見えない。最近はメイド長と一緒にいることが多いシーアがいないということは、メイド長と交代で昼食をとるのだろう。
スレイの隣に座るメイド長に、スレイは食事の手を止めて声をかけた。他のメイドや執事に言うのも良いのだが、適当な者を頼まれると困る。だから、言うだけでいつもと同じ者を頼んでくれるであろうメイド長か、良くスレイの元に来る執事――執事長に頼むのだ。
「明日、朝からヴェルオウルに行く。7時にはついていないといけないから、馬車の手配をしておいてくれ」
「分かりました」
昼食を食べ終わってからでも手配は遅くはないので、スレイは手配を急がせるわけでもなく昼食をとる。食べながらこのあとのことを考える。出来るだけ多くの書類を片づけたら、明日のために早く就寝して体調を万全にしようと。
書類に集中していればすぐに日も沈み、夕食の時間になるだろう。部屋の掃除はなるべく自分でしたいが、今回はメイドたちに頼んでも良い。もしくは、明日でなくても良いのだ。そう思いスレイは最後の一口を食べた。今日もコックの料理は美味しかった。
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