選定と淘汰と花束を③

「ろ……に、きろ……いい加減起きろ」


戦いの途中に意識が飛んだ私が倒れていたのは、鎧を全て外してラフな格好になったジュンの膝の上だった。

顔を横に向けた先には、ジュンの魔力を測れない程増幅させた剣が立て掛けてあり、その向こうにある外は星が点々と輝いている。

全身が痛むのに構わず軋む体を起こして座ると、ジュンはスっとベッドから立ち上がり、手に取った剣を肩から掛け掛ける。


「神王陛下がお呼びだ、今はこの城の地下に居る。さっさと行け」


「……分かった」


「その態度は神王陛下に見せるなよ、難しい時期だとは思うが……」


「分かったって」


困った顔で溜息を吐くジュンと別行動になり、城の廊下でひたすら階段を探す。

一応廊下を端から端まで歩いてはみたものの、地下に下りる階段らしきものはない。


「ストレルカ」


床に向けて光の矢を叩き込んで穴を開け、トンと床を蹴って大穴に飛び込む。

真っ暗な空間に落ちた瓦礫が音を立てて水に落ちる音がして、遅れて水柱が少しだけ足を濡らす。

浅く水が張る地下に着地して足で水を掻き分けながら歩いていると、突然足首を何かに掴まれ、先程まで踏んでいた床からは想像出来ないほど深い場所に引き込まれる。


「模倣魔法……千変せんぺん霹靂かみとき


翼を形成していた魔力を解き放って対処しようとしたが、足を掴んでいる手はビクともせず、より一層掴む力を強める。


「いっ……っ」


水圧と酸素不足で意識が遠退いていって、残光を残して遠くなる稲妻が指先に触れて消える。

それがどうにもあの雷龍と重なって胸を貫き、穴の空いた場所から魔力とは違う何かが吹き出す。


それはジュンがヨルム以外を沈黙させた時に放ったものにも似ていて、何ともあやふやな力が渦巻く。

まるで私の形が不確かで、自分が疑わしくなる程に違う力が蔓延はびこり、腰のナイフを強く強く光らせる。


「人間ってそんなものなんだな、結局自分で何も出来なくて、辛くなったら何にでもすがって助かろうとする。それが人間の咎」


「それが分かっただけでも貴女は立派なのよ、人間は誰もそれに気付くことがない。他の種族と共存する貴女だから気付いた事、もう何も悩まずに胸を張って。夢を持ち続けて生きる、成し遂げられるか分からないけど、頑張る姿は美しいものよ」


「人間はだからこそ輝き続けられるのか……なら、それを信じて歩み続けるのも、悪くないな」


「それに気付いてくれたなら半人前って所かな、後は誰かを愛して信じる事が出来たらもう1人前。時が経つのは本当に早くて困るわ、貴女は私と同じ運命を歩まないで」


意識は落ちないが、瞼を開く事も出来ない水底で誰かに抱きしめられ、水面に向かって上昇していくのが分かる。

再び浅く水が張った床に戻って来て、私を抱いていた腕が離れていき、その手を掴もうと伸ばす。


だが、薄暗い地下では後ろ姿もまともに見えず、白を基調とした剣の鞘しか確認出来なかった。

ぱしゃぱしゃと音を立てて近付いてきた誰かが、顔の前でしゃがみ込む。


「神王陛下……さっきのは」


「さっきの? もしかして、貴女を守る女神様でも見えたの?」


優しく微笑んだ神王陛下に頭を撫でられ、闇に消えた白鞘の虚像を求めて闇を見る。

水が落ちる音が心地良く、ひんやりとした神王陛下の手が頬を撫でる。


「ふふっ、誰かと似ていて上手く生きれないのね。さぁ、お帰り。貴女はもう大丈夫よ」


「あぁ、ありがとう」

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