選定と淘汰と花束を①

帝都が崩壊してから一夜明けた朝、早速会議が行われている議題は、誰を生かし、誰を殺すのかだった。

ジュンが神王陛下への報告の為に不在の中、代わりに遣わされた中央の将が半分以上の席を埋めている。制圧部隊である私たちと言えば、側近の代表であるナハト。パレス王国の最古参であるガルドナル。この戦闘で1番の功労者であるヨルム。そして先遣部隊の司令官である私の4人だけだった。


3側近と将の全員参加を求めたが断固拒否とされ、更にはこの国の処分は多数決で決すると言い出した。

たった4人ではどの決議案も権利を勝ち取る事が出来ず、この国の主導権、軍事権などの主な権利を失った。だが、今から始まる権利だけは何とか勝ち取らなければいけない。


「続いて平民や奴隷、スラムの人間の権利を各国の労働……」


「待て戦後処理長。この権利だけは我々パレスが持たねば、今すぐこの地を守りの要として戦う所存だが」


椅子から立ち上がって正面の老将たちを睨み、ざわつき始めた場に追い打ちをかける。


「文句があるならその腰の剣を抜け、まさか飾りではあるまいな」


「新参者ならまだ笑って許してやろう。だがな、亡国の王族風情が大きな口を叩くな。元王族とだけで貴様は将に選ばれただけである事を忘れるな!」


「そちらこそ、祖先の栄光だけで選ばれている事を自覚しろ。口はいらん、騎士として掲げる誇りがあるなら剣で語れ」


「ぐっ……貴様、身の程を弁えぬか! 何の地位も持たぬ小娘が、ここは貴様の国ではないのだぞ!」


「ガルドナルさん、全騎士に戦争の準備をさせてくれ。ヨルムとナハトは私と一緒にここの老耄おいぼれを片付けるぞ」


「神王陛下がこんな事を看過すると……」


「そこまでだクライネ、神王陛下からここの権利は全てお前に託す事の許可を頂いた」


ナイフを抜いた手を掴まれて投げられ、足音を立てずに着地をしてジュンを睨む。


「何故戻って来た、七星が入る程の事じゃない。そこを退いてもらえないか」


「動くなクライネ、私とて全てに納得してはいない。だが、神王陛下は間違えない」


影から姿を現したセルマが私の首の前で切っ先を止め、七星の2人を見た老将たちがその場で硬直する。


「私は言ったぞジュン、邪魔をするならこの地を……」


「この黒と白を1人で超えていけるなら構わん、だがお前など1人でも十分過ぎだ」


「1人じゃないのよ〜、ヨルムちゃんもナハトちゃんも居るからね〜」


ヨルムが猛毒で形成された剣をジュンの背中に向け、ナハトが右手の槍をセルマの背中に向ける。

だが、誰よりも先に動いたのはこの場に居る誰かではなく、壁を突き破って飛来した大きな斧だった。


左手で斧を掴んで防いだタイミングに合わせ、反対の壁からチェリーが壁を突き破って現れる。

槍で薙ぎ払おうと魔力を纏わせた一撃を放ったチェリーだが、セルマが軽々と弾き飛ばしてから組み伏せる。


「リュリュ!」


「ルーンヌィ・スヴィエート!」


今度は斧が空けた壁から滑り込んで来たリュリュが、珍しく剣を使ってセルマを弾き飛ばす。

月の光のような一閃を剣で受け切ったセルマが素早く切り返し、起き上がろうとしたチェリーを逃がさない。


それを見て動いたジュンはヨルムの隙を突き、反転して大きな剣をヨルムに浴びせる。

全てが一瞬で到達する技の掛け合いを見た中央の将たちは黙り込み、誰も手を出せずに突っ立っている。


「神王陛下の決定に何か不満でもあるのかクライネ、貴様に全権は渡ったのだぞ」


「不満も何も、神王陛下の力を行使しないと手に入れられない権利ならば。この私の誇りと力は、この帝国の為に振るうことは出来ない」


「セルマは帰って神王陛下に報告を。後は私が事後の始末をする」


「やり過ぎるなよベネトナシュ」


そう忠告を言い残して影の中に消えた白騎士が離脱し、幾らジュンでもこの状況はどうしようもないだろう。

だが自らこの環境にしたのは、恐らく確実に私たち全員を圧倒出来ると言う確信があるのだろう。


「シルフィード、加減はするなよこいつら相手に。だが殺すな」


「もぅ、昔からずっと我儘なんだから。でもそんな我儘も叶えちゃいたいわ、私の可愛い王様」

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