World Of Dawn⑤

人集りで出来た特設ステージの中央で、あの日何も言えなかった覇王と向かい合い、お互いが得意とする得物を向け合い、徐々に高まる緊張ではち切れる直前、その空気を感じ取った覇王が大きな斧を地面に突き刺して飛び出す。

それに応じる為に私もナイフを地面に突き刺し、丸太のように太くて重い腕から繰り出される拳を避け、横腹目掛けて足を振る。


大きな隙を作った覇王の横腹に蹴りが完璧に入った手応えはあったが、全くもの応じしないその巨体を捻り、ガードした腕ごと私の体を吹き飛ばす。

大きく飛んで壁に叩きつけられたが、咄嗟に風魔法で衝撃を殺したのが功を奏し、殆ど二次被害は防ぐことが出来た。


翼を展開して特設ステージの中に戻り、翼を消してから覇王と再び向かい合う。


「力の差は歴然だな小さきものよ、所詮は逆賊か」


「逆賊上等、直に逆転するんだからな」


「その前に全員死すのにか、面白い事を言う」


「そういう事を言うと、大抵死んでしまうぞ」


風で加速を生んで飛び出し、直前でフレアを放って目を眩ませ、覇王の背後に突き刺さっていた斧を掴み、身体能力増強を施した腕で斧を振るう。

地面を抉った事を考えると外れたと分かり、斧から手を離して空に逃げたが、既に空で待ち構えていた覇王の拳が私の顔目掛けて振り下ろされる。


広げていた翼に風が当たって体が煽られ、覇王の魔力が乗った拳が顔の横を通り過ぎる。

反転して覇王の腕を足場にしてナイフを拾い上げ、魔力とは違う場所にある不思議な力で、アイネのナイフを短剣に姿を変える。


「閉じた瞼に映る我が弱さを知る雷龍よ、清き矢もて降りすさべ……ベルカ!」


アイネのストレルカを基礎にして創り上げたオリジナルの魔法は、大きな光を放って覇王に向かい、星が落ちるように空を駆ける。


「ふんっ!」


ベルカを退けようと斧を振るった覇王は1歩も引かず、流石と言うべきか、この帝国1番の勢力を誇る王である事も納得出来る魔力量だ。

だが、そこで私も引く気はさらさら無い。


「ストレルカ!」


ベルカをねじ伏せようとする覇王に追い打ちをかける為にベストレルカを連射し続け、遂に覇王の手に握られていた斧が砕け散り、全てを穿つ光の矢が胸に突き刺さる。


「見事だ小娘、だがな……この覇王の膝を折るには全てにおいて威力が足りんな」


「なら、これで仕留める。ブラストルカ!」


ジュンから教えて貰ったブラストと、アイネのストレルカを組み合わせた魔法を受けた覇王が、今度こそ地面に体を打ち付ける。

沈黙した覇王に騎士たちがざわつく中を歩き、ジュンの纏う漆黒の鎧に額を当てて体重を委ねると、手に持っていた短剣を取られる。


「ストレルカ」


咄嗟に背後に振り返ってみると、ジュンの魔法に貫かれた若い騎士が、体に大きな穴を開けて倒れていた。


「殺す気は無かった、最小に抑えた筈だがな」


「ストレルカは完璧に命を奪う為に創られた魔法だって、そう教えてくれたのはジュンさんじゃなかったか」


「そうだったな、だが規則は規則だ。ルール違反は許されん」


「今後こんなものは見たくない、私は少し休んで来る」


「嫌いになるにはもう少しだぞクライネ」


「好きになるには程遠い、本当に上手に出来た世界だよ」


自分の中に沸き起こる苛立ちを自分にぶつけないように歯を食いしばりながら、ずっと胸の中にある、ジュンに対するものではなく、あの死を当然と思っている自分への苛立ちがどんどん積もる。

恐らく降ってきたこの安心感と憎悪は、誰かの不安と愛の辻褄合わせなのだろう。

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