World Of Dawn④

「助走を付けるだけなら、どれだけ後ろに下がっても良い。だが、その代わり必ず高く遠くに飛べ」


落ち続ける体に魔力を纏わせて翼を形成し、魔道棟の窓を蹴り破って荒々しく着地する。

割れたガラス片を風で集めて端っこに片付け、ジュンにそう言われた時を思い出す。


今私が言った言葉を聞いたナハトは一体どんな顔をしているのか気になったが、代わりに丁度到着した7人の顔を見る。

ヨルム、ジャンヌ、チェリー、リュリュ、ガルドナル、ターニャ、アイラス、それぞれが王都を取り戻す為に、この3年をどのような思いで過ごして来たか、同じ気持ちを抱いていた私には誰よりも分かっている。


下ろしていた髪を後ろでひとつに結んで踵を返し、喜びに電撃が走る腕を抑えながら歩く。

神王陛下からの勅命のひとつである覇王が治める国の偵察、帝国領の最大最強勢力であるここを見て、この国の今を見るという任務は3年の時を掛けて漸く終わりを迎えた。


「ストレルカ」


集合地にこの魔道棟を選んだ理由、それは唯一ここから玉座が見える場所であり、魔道研究の為に魔獣が多く収監されている。

放たれた光の矢は玉座のある王の間とを繋ぐ橋を落とし、混乱と王の命令を遮断する。


全員がそれを合図に一斉に走り出し、覇王が潜ませていた伏兵を片付ける、廊下の先にはジュンが立っていて、2つの通路から押し寄せる帝国兵を無力化している。


「こっちだ、退路は確保してやった」


「流石と言うべきですか黒騎士。いえ、裏切りの凶星ネメシス


「裏切ったのは貴様らだろう、この国の真の支配者を忘れたか。三流騎士ミツェルバ」


少数の兵を引き連れて現れた騎士にジュンは軽く魔法を放つが、それを容易く切り伏せる。

特に大した魔法でもないからか、ジュンは剣も抜かずに転がっている騎士が握っていた剣を拾い上げ、襲い掛かる雑兵を気絶させる。


「まずは1番大きな勢力であるここを屈服させる、その為には覇王を支持するお前達が邪魔だ。下級の騎士は殺すなよ貴様ら、勅命を果たす」


「分かった。それじゃあ競走だな、この3年で教わった事を見せるよ」


「ふんっ、そう言ってすぐに伸されるなよ。まず1人だ……どうした、ぼうっとしていると勝負にならないぞ」


「強くなったのは私だけじゃないって事か、もっと強さを追い求めないとな」


帝国の繁栄を支えて来た将を瞬殺したジュンは、血で濡れて使い物にならなくなった剣を捨て、次の敵を求めてゆっくりと歩き出す。

魔道棟の窓を開けて3人に視線を送り、頷いてから魔力の翼を広げ、まず騎士が有事の際に集まる中央広間に向かう。


「泣いていた日々を、何とか持ち堪えて歩いてきた、今なら私は全てを救える。そうだろアイネさん……さぁ、踊ろう、涙が枯れるまで!」


「私たちが必ずその先へ導いてみせます、何度も溺れそうになったけど、皆で手を取って微かな光となって来ました。だからこそ、クライネ様はその先へ」


「さっきまでの恥じらいは何だったんだろうねナハト、って今はからかいたいけど我慢するよ。私もクライネはその先へ行くべきだと思ってるからね」


「リュリュはクライネもナハトもチェリーも皆が好き、だからこそその先へ! つまりは遊ぼー!」


4方向に分かれて大広間の天井を突き破って突入すると、案の定広大な広間に4つの将が率いる部隊が集まっていた。

雷を纏ったまま真下に居た騎士に拳をぶつけるが、まだ若い騎士にも関わらず一撃を受け切られる。


「クライネ様! 逃しました」


「砕けなぁ!」


力強い一撃を放った女騎士の斬撃を受け流し、反撃に切り替えようと体を捻ったが、下の青年が動いたのが視界に入った。


「どこを見ている!」


「っっ……」


「ミーチ!」


横から飛来した光の剣が若い騎士の剣を阻み、魔法を放ったナハトが女騎士を攫って壁に叩き付ける。

すぐに乱戦に陥った広間の騒ぎを聞きつけた他の将も姿を現し、反対側の壁が崩れて黒い鎧も姿を現す。


その右手に握られた神の加護が授けられた剣に刺さった将を消し飛ばし、私に合図の代わりに魔力を放つ。

ナイフを腰から抜いて名も知らない若い騎士を斬り捨て、大広間の天井に空いた穴に近付く。


「神王陛下からの勅命を受け、黒騎士とその娘であるクライネがこの国を一時的に預かる。この勅命に異を唱える者は前に歩み出ろ、不要な殺生を神王陛下は望まん」


「おいおい、今更表に出て来といて俺らが広げた領地を持ってくたぁ、言ってる事がめちゃくちゃじゃねえのか?」


静まり返った大広間の扉を荒々しく開けたのは、私がこの帝国にくだった日に謁見した、人類連合総大将の覇王だった。

その筋骨隆々な体に相応しい大きな斧を携え、覇王の向かい側に集まったナハトたちを睨む。


「なら提案だ、私と貴様で一騎討ちをする。負ければ命は無く、勝った方は全てを手に入れる。代表者以外は決闘中に手を出さない、そして敗者は一切の反抗をしない」


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