世界を飲み込む獣⑦
大きな魔力を放出してふらふらになった私の前に、突如として現れた獣の耳が付いたスタイルの良い女性は、私に顔を近付けて鼻を数回鳴らしてから首筋を舐める。
「アォォーーーン!」
突然空に向かって遠吠えを発し、もふもふの尻尾を勢い良く振り、杖を手に出して軽く振る。
すると足が地面から離れ、謎の女性と一緒にどこかに飛んでいく。
それを見て少し離れた場所に居たナハトが遅れて飛び出し、チェリーとリュリュは引き続き降り注ぐ地面を砕く。
あっという間に後退していたジャンヌたちを飛び越え、翼を出そうと躊躇ったヨルムを置き去りにする。
「頑張ってナハトちゃん、クライネちゃんは頼んだわ〜!」
「止まりなさい! 警告を無視続けるのなきゃっ!」
光の球を飛ばされたナハトは急降下して魔弾を避け、殆ど直角に方向を変えて追撃を再開する。
「執拗いのね〜、ミーちゃんも何故か追ってこないし〜」
にこにことした顔を崩さずにそう呟く女性は、手首に付けている手枷を鳴らして、千切れた鎖ごと腕を振る。
次の瞬間、いつの間にか前に回り込んでいたナハトの剣が鎖に絡め取られる。
「胡蝶の構え」
そう呟いたナハトはいつも使っている腰の剣に手を添え、勢い良く神速の刃を鞘から走らせる。
刃の軌道に合わせて女性は杖を動かしたが、突然揺らいだ刀身が形を変え、槍となって意表を突いて杖を森の中に弾き落とす。
「あらぁ〜、混ざりものが居ただなんて〜。ロキちゃんに報告ね〜、今日はさよならばいば〜い、Tschüss」
杖を弾かれた事によってバランスを崩した女性に、ナハトは切り返して追撃を放ったが、私を押して森へと降下していった。
離される間際にもう1度舐められた首にナハトの手が添えられ、落ちないように腰を支えられる。
高所で投げ出された恐怖と舐められた悪寒でナハトにしがみつくと、舐められた箇所を念入りに布で擦られる。
摩擦で少し熱くなってきた首を気にしながらも、怖さで手を離す事が出来ない。
「あぁ……また汚された、上書きしますねクライネ様」
「待って下さい、もう首を舐められるのは……」
「早くしないとこれ以上密着してると、私変な気分になりますよ。もう半分以上なってるので意味は無いですが、それよりも汚された事に憤りを感じます」
「そ、それよりも。あれ凄かったですね、胡蝶の構えってやふっ……やふ、やふ……」
ナハトを褒めて話を逸らそうと奮闘したが、既に私の言葉など耳に入っておらず、念入りに舐められた箇所以外も舐められる。
舐められている間は黙って我慢しておかなければ、声を漏らして煽ってしまう為声を上げない事だけに集中する。
「満足しましたかナハトさん、私はもう十分です」
「まだ物足りませんが……皆さんを心配させる訳にはいかないですし、仕方がありませんね。ですが、クライネ様の絶対権は、この私が主張します」
「えっ、いや私のものですよ。私の体ですから、それに私はもう1度国の頂点に返り咲かなければなりません、私は国民皆のものですし」
「……そうですね。行きましょうか」
「はい、そろそろ飛べるようにならないとですね。そしたらどこにでも1人で行けるのに」
「飛べるようになる必要は無いですよ、私がいつもお傍でどこまでも連れて行きます。クライネ様が私を見てくれるのなら、何処へだって行ける気がします」
「はい、私も皆さんとなら、どこまででも行ける気がします」
「私はクライネ様とチェリーとリュリュが居れば行けます、他なんて必要ありません」
返答を許さないと言う様に私を音速で運び、デルタイル帝国国境に向かう。
加速する直前に以前感じた黒い魔力が首筋を掠めた様な気がしたが、舐められ過ぎて敏感になっていただけなのか、それは一瞬で消え去っていった。
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