世界を飲み込む獣⑥

砦から発ってから2日。緊張を切らさずに進軍した騎士に英気は残っておらず、物資の無い行軍は過酷を極めた。

漸く辿り着いたデルタイル帝国の国境で、国境警備の下に送った使者を待つ。


「待遇がどうなるか、予想は出来ますが不安ですね。前回の戦で、私たちの功はそれ程大きくありません。ですが同盟国には大きな打撃をナハトさんが与えてくれました、皆さんの安全は私が何としてでも押し切ります」


「クライネ様にはこれ以上無理をさせられません、私たちが不甲斐ないばかりにこの様な結果になってしまいました。次は私たち家臣団が頑張る番です、必ずクライネ様の安全を御守りします」


徹底抗戦をしようと口を開こうとしたが、横から掛けられた声に遮られる。


「只今戻りました」


左に首を向けると、使者として送っていた騎士が跪いていて、書状を両手で差し出していた。

書状を受け取って中身を見てみるが、肝心な何と書いてあるかが学のない私には全く分からない。


肩を私に付けたナハトが書状を覗き込み、内容を声に出して読み進める。


「纏めますと、賊軍を国に入れるは望ましくない。夜明けまでに国境から立ち去らなければ、侵攻と受け取ると書いてあります」


「話と違います、以前送った書状では喜んで受け入れると……」


ぞんざいな扱いに書状を持つ手に力が入り、紙に皺を付けながら憤りで体が震える。

直接談判しようと関所に歩くと、足を置こうとしていた目の前の地面が浮き上がり、壁を作る様に天に伸びていく。


突然の天変地異を唖然として見上げていると、翼を形成したナハトに抱えられて空に舞い上がり、隆起した地面から距離を置く。

何が起こったか分からずに唯眺めていると、壁の下が地面から浮き上がり、関所ごと国境の壁を飲み込んで街の民家ギリギリまで大きな堀が作られる。


「あれは……口、天から口が……」


絶句しているナハトが空を見上げて天から落ちてくる牙をから目を離さず、見たままの光景を口に出して地上にゆっくりと着地する。

地面から浮いたのが下顎骨かがくこつで、あの空から落ちて来ているのが上顎骨じょうがくこつであれば、この世界を容易く飲み込んでしまうだろう。


そんな大きさの物体が突然現れたかと思うと突然綺麗さっぱり姿を消してしまって、空中に残された地面が一気に地上目掛けて落下を始める。

即座に翼を広げて地面が落下する前に下を潜ったナハトに続き、チェリーとリュリュも地面の向こう側に行ってしまう。


「皆さん退避して下さい! あの地面はあった場所に戻るとは限りません」


槍を携えて私の前に歩み出たヨルムとガルドナルに並び、アイラスとパラザリアがそれぞれの武器を構え、降り注ぐ地面に向けてありったけの魔法を打ち込む。

魔力を拳に乗せて正拳突きをするパラザリアの魔法に、アイラスが氷の槍を乗せて威力を高める。


ガルドナルが放ったレーヴァテインが地面の表面を削ぎ落とし、それに続いてヨルムの毒が地面にまとわり付き、燃え広がる火の様に溶かしていく。


有効な一撃を放てないと判断したジャンヌは騎士を誘導し、出来るだけ被害が出ないように距離を離す。

壁の向こう側で民家を守る3人の姿を確認して、握り締めていた拳を開いて集中して魔力を高める。


「間に合わないわね〜、クライネちゃんだけでも……」


「力を貸して下さいアイネさん!」


一か八か、出るかも分からない魔法が出る事を願ってナイフを振るうと、胸に雷が走った様に痛みが襲い、光を放ったナイフから雷が放出され、地面が粒子になるまで細かく砕き切る。

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