笑顔の女神⑥
先に到着していたガルドナル将軍が指揮する防衛隊に迎えられ、着々と迎撃準備が進められている砦に入り、休憩を許してくれないまま2回戦に向けて備える。
先程の砦で罠を多く使ってしまった事から、今回ではそれが警戒されるため、恐らく長期戦を帝国兵も視野に入れているだろう。
その為、それを逆手に取り逆に打って出ると言う判断を下した軍師の策を実行するべく、いくつにも分かれた隊がそれぞれの場所で準備をする。
皆自分が戦果を上げるべく、互いに殺伐とした雰囲気を砦に満たし、騎士らしくない愚行を犯している今なら、とてもじゃないが勝てる見込みが無い。
砦の外の全体が見える場所で、パレス王国の軍旗を掲げて馬に跨り、注目を集める為にナハトに爆発の魔法を放たせる。
空に打ち上げられた魔法が爆発し、喧騒に包まれていた砦が静まり返ると、皆が私の方に視線を向ける。
「ここが文字通り、最後の砦です。私たち騎士は、戦果を上げるべく戦うのではありません。国を、国民を、愛する者を守る為に戦うのです。欲によって失われた命は、あなたたちが何度生まれ変わろうと報われないままです。ならば、あなたたちは獣の本能としての死ではなく、人として死を与えて下さい」
「クライネ様、少し出過ぎです。今1番に兵刃が届くのは貴女様なのですよ、もう砦に戻らなければ……」
「皆さん、笑いましょう! 悲しみも!」
「聖王を御守りしろ! 帝国兵に人としての死を!」
誰かがそう口ずさんだのか、その声は徐々に周囲に伝染し、殺伐としていた嫌な空気は国を守るべく立ち上がる、凛とした騎士のものになっていた。
馬を反転させて帝国兵の方に向かおうとするが、私の前に馬を出したナハトは、槍を突き出して腰から剣を抜く。
「仕方の無いクライネ様、離れないで下さいね。このナハトが御守りしますから、全力で行きます」
「仕方の無いは余計です」
周囲に光る騎馬隊を出現させたナハトは、光の騎士団を前方に並ばせ、帝国兵の陣を切り崩す。
大人数で群がる帝国兵に串刺しにされた光の騎士は、雷となって魔力を放出し、敵を焼き尽くして消え去る。
騎士団が壊滅する頃には本隊が到着したが、3000まで減った帝国兵に対してパレスは800人と、未だ圧倒的な差がある。
このままここで全員の命を引き換えにしたら、どれだけの数を減らせるか、限りある魔力でどれ程上手く、かつ効率的に立ち回る事が出来るか、全てにおいての能力が試されるこの戦で、今後の立場が変わるだろう。
「私も魔法を使えるように教えて下さいナハトさん、確かに今までの記憶を辿ると、使えているのかも知れません」
「魔法は、イメージだけで可能です。ですが、使えるものは人それぞれです。水だけの者も居れば、火と水が併用出来る人も居ます」
「なら、1つひとつイメージしていきます。時間稼ぎお願いします」
「戦場の真ん中という事を忘れないで下さい、他の者の邪魔にならない立ち回りは続けて下さい」
まずは炎をイメージして手を出すが、掌には何の変化も無い。
次に水、植物、大地、光、闇、全て試したが、どれも私の前に現れない。
「出ないですナハトさん」
「使えない人も居ます、と言うか人間は使える人の方が異例です。大抵の人は些細な事が切っ掛けで勝手に出ます、例えば好きな物を思い浮かべて下さい」
私の前に立ち塞がりながら説明をするナハトは、槍に雷を乗せて貫いた者を焼いたり、時には遠くの敵に雷を飛ばしたりして攻撃している。
好きな物で、魔法になりそうなものを思い浮かべていくと、雷で出来た大きなドラゴンが上空で形成される。
それを見た帝国兵とパレス兵は、どちらも戦神が舞い降りたと錯覚し、勢いを増していく。
「凄い量の魔力ですよクライネ様、何を思い浮かべたんですか?」
「……あ、アイネさん……です。まさか出るだなんて、別にたまたまです。多分いくつも同時に考えたので、たまたまです」
空をゆったりと旋回するドラゴンを見上げていると、その隣に人影が1つ浮いていた。
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