笑顔の女神⑦
私が出現させた雷のドラゴンを、右手で撫でながら降りて来た女性は、私の足から上に視線を這わせ、私の左目だけに目線を合わせる。
右手で軽々と膨大な量の魔力で作られたドラゴンを消し、私目掛けて静かに美しく歩いて来る。
その前にナハトが立ち塞がるも、肩に手を乗せて退けようとする。
退かないナハトを金色の瞳で睨み、突如現れたライオンにナハトを攫わせる。
何らかの敵対行動があると読んでいたチェリーが大きなライオンに飛び掛るが、ナハトを口から離したライオンの咆哮で、容赦無く吹き飛ばされる。
少し遅れてリュリュが地面に斧を叩き付けると、大地が大きく隆起し女性とライオンに向かって突き進んでいく。
それを片足で軽々と止めた女性が、ライオンを脇に座らせ右掌を体の前に突き出す。
「待ちなさい、私は貴女たちと戦う気は無いわ。そっちがその気ならやるけど」
「手を出さない方が良さそうですクライネ様、天と地よりも実力に差があります。神格が私よりも遥かに上です」
構えを解いたナハトが私の隣に立つと、チェリーとリュリュも構えを解いてしまう。
突然の敵対行動に不安が残りながらも、目の前の女性の話を聞く為に、握っていたナイフを元の場所に戻す。
「私はイシュタルよ、トールに頼まれて来てみたけど、この有様は何なのかしら?」
「帝国が侵攻を始めたんです、私の判断が駄目だったみたいで」
「まぁ良いわ、数で不利だろうと思ったからトールは私にわざわざ借りを作ったのよ。それ相応の働きくらいしてあげるわ。それを除いても、私は戦いたくてうずうずしてたの」
「神が人の戦に干渉することは許されていません、貴女は……」
「貴女も神よ、トールもね。今時あの
「理由はどうあれ助かります、イシュタルさんでしたよね。アイネさんが頼んだなら信用出来ます、力を貸して下さい」
返事をせずに飛び上がったイシュタルは、右手を軽く振り上げ、空を切り裂く様に手を振り下ろす。
その直後、イシュタルの上空から雷が轟音を響かせ、広範囲に渡って帝国兵を焼き尽くす。
目視だけでも2000は確実に減り、第2波の雷で、完全に目の前から帝国兵が消え去る。
「凄い……これが神の力なのですね」
「私と同じ神とは思えない程の力です、どうしたらそんなに大きな魔法が撃てるのか」
「こんなにあっさり終わって良いのですか、これが戦だとは思えません。人を人としての行いだとは……」
「なら死にたかった? 綺麗事で成り立つ世界なら、今頃戦争なんて無いし、国境なんて必要無いでしょ? でも神ですら争わないと生きてけない、それなのに人間如きが綺麗事を吐いても良いと思ってた?」
あまりに意外な言葉が出て来た為、私は理解するのに時間を要し、その間に去っていったイシュタルに何も言い返すことが出来なかった。
どんな形であれ、漸く終わりを告げた戦場を見渡すと、地面に転がっていた死者が地面に吸い込まれ、平原の真ん中に立っていた人影が消える。
その後ろ姿はイシュタルに似ていたような気もしたが、今は王城に戻る事だけを考え、用意された馬に跨る。
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