聖断④

森からでも見える程大きな光の柱は大地を揺らし、徐々に細くなって騎士と共に消えていった。

大地を震わせ、空気を切り裂く轟音が響き渡り、森全体の木々や葉が揺れる。


「この森で様子を見ます」


「総員停止!」


ガルドナル将軍の声が静まった森に響き渡り、一斉に後方の騎馬が止まる。

隣に馬を並べたエルが不思議な顔をすると、森の奥を遠い目で眺める。


咄嗟に剣を抜いたガルドナルとエルが側近の三人に切っ先を向け、きょとんとする三人は驚いた顔をする。

だがクローチェとリーリアは剣と斧をすぐに二人に向け返し、突如として味方同士で膠着状態になる。


「四人とも何をしてるのですか」


「そうだよチェリー、リュリュ。将軍に向かって駄目です」


間に割って入ろうとするナハトを手で制したクローチェは、ナハトの胸を押して自分の後ろに隠す。


「やる気が無いなら下がっててナハト、私じゃ倒すのに時間が掛かる。それに将軍とエルさんが相手なら、自分だけで手一杯だから」


「駄目だよチェリー、二人は敵じゃないです」


「でもあっちの二人はやる気だよ、だから、ナハトは私が守るから隠れてて」


「い、いつもみたいに私に任せてチェリー。私が二人を守るから、頑張って守るから。だから、危ない事はしないで」


ナハトは二人と同じ光る槍を右手に、光る剣を左手に落とし、クローチェの脇をすり抜けて両者の間に入る。

それを静かに見守っていたガルドナルとエルが小さく、そして短く息を吐いて踏み込む。


二つの鉄を細腕で受け止めたナハトは容易に吹き飛ばされるが、先回りしていたチェリーとリュリュに受け止められる。

それで何かが切れたチェリーがアイネの様に左手から雷を放ち、今度はガルドナルとエルを同時に吹き飛ばす。


膝を着いたエルに対してものともしていないガルドナルは、手の中の得物を剣から槍に変形させる。

魔法には魔法で応じるように、受け止めていた雷をチェリーに返したガルドナルは槍を突き出し、リュリュが放出した炎を切り裂いて掻き消す。


「将軍が手を出してどうするのですか、貴方が一番落ち着いた判断をしないとだめなんですよ。何故攻撃したのですか」


「殺してやる、お前を絶対に。ナハトとリュリュを傷付けやがって、許さないからな……離せナハト、うぅぅぅ……ガァァァ」


後ろで牙を剥き出しにしながら暴れるチェリーを押さえているヨルムの隣で、泣きそうになりながら必死にリュリュの血をナハトが止めようと止血している。

離れた所からでも確認出来る事は、ガルドナルが反射した雷に焼かれた肉が焦げ、リュリュの体に雷の形をした線が入っている事だけ。


駆け寄ったジャンヌは頭を手で押さえて蹲り、荒くなった息を必死に整えようと深呼吸を繰り返す。


「何をしているんですかあなたたちは! 不安を他にぶつける程幼稚なのですか、愚かな者は今すぐ国に引き返しなさい」


「申し訳ありませんクライネ王、ですが問い質さねばなりません」


「何をですか」


「あの三人は、本当に我々の味方なのでしょうか。私が以前見たエルフの魔法よりも、遥かに大きな魔力が生じました。それを使用した者が近くに居り、その眷属がそこの三人なのです。我々人類連合を消したのがその宿主やどぬしならば、この者たちは味方ではありませんぞ」


「何時の時代も愚かなのは人間だな。私の眷属が世話になったようだ老いぼれ」

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