聖断⑤
荒れた空から降り立ったアイネがガルドナルを睨んで言うと、ガルドナルはすぐに体勢を整えて、持っていた槍を構える。
ガルドナルとエルはクライネの前に立って武器を構え、左手に魔力を溜めて炎を灯す。
ナハトとチェリー、リュリュの武器の光が強くなり、更にはクライネが腰に差していたナイフが雷を纏い始める。
「トール殿、私が幼き頃以来ですな。レンシャル王国元騎士長殿」
「まさかあのひょろひょろの新兵が、今は一国の騎士長とはな、本当に人間とは分からぬものだ。だが、相も変わらず、愚かなのは変わらぬがな」
クライネはあの日見た以来のアイネが目の前に立っている事に体が硬直し、向けられた柔らかで優しい笑顔に何も返す事が出来ないでいた。
だがすぐに視線をガルドナルとエルに向けると、自分の爪で作ったであろう剣をどこからか取り出す。
「お下がり下さいクライネ様。ガルドナル様、私が先陣を切ります」
「いや、エルは見ておれ。あれは格が違う」
「ミズルド、残念だがおぬしを相手にする気は無い。私はこう見えて負けず嫌いだからな、その若いのに負けっぱなしは気に食わん」
「貴方と刃を交えた事など……」
アイネが放った雷をガルドナルがエルの前に出て切り裂き、左手に溜められていた膨大な魔力が炎の槍となってアイネを襲う。
迎撃もせず炎の中を突っ切って来たアイネに吹き飛ばされ、ガルドナルはたった一撃で沈黙する。
「斬ってはおらん、クライネを守る盾ならば殺しはせん。だからそう殺気をみだりに出すな、至極平凡な魔法使い」
剣の刀身をなぞる様に手を当てたエルは、炎を纏わせた剣でアイネに斬り掛かる。
「クライネ様、今すぐ軍を動かし森からお逃げください。連合軍と合流し龍人種の国を落とす事を最優先に。ここは私たちが食い止めます」
「食い止めるか……掠りもせんその飾りの鉄でか? クライネは私のものだ、重圧と身勝手な期待で縛り付けてくれるな」
炎ごと剣を容易く折ったアイネは、倒れているエルの体に尻尾を何度も叩き付ける。
それからクライネ方に歩み寄り、少し離れたところで止まる。
「迎えに来たぞクライネ」
「そうですか、ナハトさんチェリーさん。協力して頂けますか?」
クライネが腰の剣を抜いて切っ先をアイネに向けると、アイネは差し出した手を下げ、大きく溜息を吐く。
アイネが少し下を向いた瞬間ナハトとチェリーが飛び出し、雷を体に纏って目で追えない速さでアイネに肉薄する。
だが全ての斬撃を避けて抱擁で受け止めたアイネは、二人を抱きしめてくるくると踊るように回る。
「しかし、お前たちはまた少し成長したな、クライネを守る任は今のところ出来ておる様で何より。だがナハトは槍から剣に繋げる時に重心が少し浮いておる。チェリーの突きは相も変わらず素晴らしい。だが腰を少し捻り過ぎじゃな、二人とも目立って目には見えん違いだが受けてみると分かるぞ」
そう言って二人をぱっと離したアイネは、雷で槍と剣を作って消える。
いつの間にかナハトとチェリーの腹部を貫いており、地面に倒れ込もうとする二人の体を受け止め、光り始めた地面から雷の柱を放出して、人類連合の先頭を消し飛ばした時と同じ光の中に二人を押し入れる。
「アイネさん!」
「どうしたクライネ」
「貴方を……倒していきます。今ここで、ヨルムさんとジャンヌさん。軍を纏めて森を出てください」
「先にリュリュをやっておくか、二人はもう良いであろう」
ナハトとチェリーを包んでいた雷が消えると、傷を付けられるどころか、傷が全て塞がった状態で出て来る。
同じ様に放り込まれたリュリュも同じ状態で出て来て、ガルドナルから受けた傷が魔法の様に消えて起き上がる。
「トールだ! 久し振りー!」
目を覚ました直後にも関わらず、ぶんぶんと元気に手を振るリュリュに手を振り返したアイネは、クライネと一体一にする為に雷で周りを囲む。
クライネはそれに応えるため、ガルドナルとヨルムに教えて貰ったことを全て思い出し、アイネ目掛けて真っ直ぐ踏み込む。
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