ポベートール①

「クライネ、おぬしは本当にこのまま縛られて良いのか。私と再び旅をして……」


「分かってないですね。私の事も、アイネさんの事も」


クライネは2人に守られながら、先程弾かれたナイフを拾って小さなアイネに刃を振るうが、当然自分自身の剣に阻まれる。

その隙を突いたヨルムが斬り込むが、それをカバーする様に小さなアイネが短刀を当てて逸らす。


「可愛い〜!! トールちゃ〜ん!! 小さいょょょょ〜!!」


だが、2秒前まで張り巡らされていた緊張感を無視したヨルムは、小さなアイネに抱き着いて床を転がる。

あまりにも唐突な出来事に堪らず短刀を落としたアイネは、きょとんとした顔で抱きしめられている。


「アイネさんなら私の選択を止める事は……」


「待て、あれを放っておいて続きをするのか」


左手を顔の前に出して床に剣を刺した偽物のクライネは、どうにも納得の行かない顔でヨルムを指さす。


「あー、良いです放っておいて。すぐ片付けますので少し待って下さいね」


「あ、はい。御願いします、何かすみません」


「いえ、お気になさらず。良かったらお風呂どうぞ」


「あー、そんな気を使わずに。でも折角なので頂きます」


重厚な鎧とクライネの姿が崩れ落ちると、ヨルムの抱きしめていた小さなアイネも消える。

中から出て来たのは幸が薄そうな青年で、パーテーションの向こうで服を脱ぎ始める。


「アイネちゃ〜ん!! 寂しいよ〜!!」


「服着て下さい、今思えば服着てないのはヨルムさんだけですよ」


「変なのに見られた〜、アイネちゃんだけの私なのに〜」


「酷いっすね、自分一応ポベートールって神なんすけど。ま、今の悪夢見せたのも自分っすけどね」


そう言って浴場に入ったポべートールを見送り、駄々をこねるヨルムが鱗を纏うのを気長に待つ。


「分かりました、今日は一緒に寝ましょう。ジャンヌさんと三人で」


「わ、私もですか。私は兵舎で大丈夫です」


「駄目です、私のベッドで寝て下さい」


「ありがと〜二人とも大好き〜」


座り込んでヨルムと頭の撫で合いをしていると、ポベートールが濡れた体から水を吹き飛ばす。


「いやーどーもです。昨日から飛びっぱなしだったんでー」


「それは知りません、それよりも聞きたいことがあります。何故私とアイネさんの姿を?」


「俺悪夢とか見せる神なんすけど、あんたの中の恐れがあんた自身、そしてトールだったって事なんすよねー」


「私が私を恐れていると言うのですか? それにアイネさんも」


「そっすね。詳しく言えば自分の黒い感情、そしてトールの幼少期の姿と言う事は過去っすね」


そう言われて自分に問い掛けようとすると、背後のドアがノックされる。

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