答えだらけ④

王城に帰還後、クライネは疲れを取る為にひとりで湯に浸かっていると、衣服を鱗に戻したヨルムが入って来る。

それに続いて薄い衣服を着たジャンヌが、布を持って浴室に入ってくる。


「来ちゃったわ〜クライネちゃん、お背中流そうかしら〜」


「クライネ様良ろしければお体を洗わせて頂きます」


鱗を完全に人肌に変えたヨルムが、準備万端と言う様に石鹸を持つ。


「大丈夫ですよ、自分で出来ますから。来てくれただけで嬉しいですし、労力を使わせる訳にもいきません」


「何言ってるのクライネちゃん、毎日一緒に入って成長を確かめるものでしょ〜?」


「そんなの駄目です不純です、私はただ背中を流すだけだって聞いたから……」


「ジャンヌちゃんはまだまだ発展途上かな〜?」


「ヨルムさん、出ていってもらいますよ」


ジャンヌの体を触ろうと手を伸ばしていたヨルムは、残念そうに手を下ろして石鹸を泡立て始める。

クライネたちのやり取りを見て、隣で苦笑していたジャンヌの視線の先に目をやると、クライネが浸かっているお湯に向けられていた。


「お湯が珍しいですか?」


「え? あ、はい。私は川での水浴びしかした事が無いので、と言うか石鹸なんて富裕層が使うもので、ましてやお風呂なんて貴族しか入れないものですし。取り敢えず、全てが初めてで落ち着きません」


「お湯に入ってみますか? 私はそろそろ出るのでお二人でゆっくりどうぞ、出たら私の部屋まで来て下さい」


そう言ってクライネは浴室から出て服を着ると、ジャンヌの服の上に十字架の首飾りが置いてあった。

それを手に取ってみると、目の前が真っ暗になって頭の中で映像が流れる。


多くの戦場を駆け回り、そして勝利を収めるジャンヌの姿。

そんな快進撃の末に投獄され、最後には灰になるまで焼かれて川に流される。


そこの川に現れたアイネが灰を全て拾い集め、歌を歌って新たな命に変える。

ジャンヌと同じ姿の少女が川に立ち尽くしていて、夕闇に沈む街の景色を見ながら涙を流す。


「どうしたのクライネ」


「え?」


聞き慣れた声に振り向くと、漆黒の鎧を身に纏った自分が居た。

不気味な笑みを浮かべたそれは、黒い刀身の剣を抜いて腕を引く。


自分の服の中にあるアイネのナイフを抜き、突き出された切っ先に刃を当てて軌道を逸らす。

だが、剣をくるりと手の中で回した目の前の自分は、突きから斬撃に切り替わった一撃が、浅く肩を掠める。


「くっ、離れて!」


痛みに耐える為に奥歯を鳴らしてナイフを振るうが、黒の剣に容易くナイフを弾かれる。


「死になさい!」


「死ぬのは貴女よ〜」


割り込んで来たヨルムは鋭い爪が生えた右腕を振り下ろし、防御姿勢をとったもう一人のクライネを弾き飛ばす。


「邪魔だ三流ドラゴン」


「ん〜? 邪魔しに来たんだも〜ん。邪魔なのは当然よ〜」


「ならば死ね!」


「させません!」


ヨルムの背後に隠れていたジャンヌの突きが黒い鎧の胸を貫き、もう一人のクライネの動きが一瞬止まる。

だが笑顔を崩さずにそのまま切っ先の方に歩き出し、胸を貫いていた剣が抜けたところで立ち止まる。


穴が空いていた鎧がひとりでに塞がっていき、そこから吹き出た炎から、ロキの力で小さくなった時のアイネが現れる。

3人は目の前に立った2人と、得物が触れるか触れないかの距離を保ったまま睨み合い、狭い空間で慎重に互いの間合いを計り合う。

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