答えだらけ③

城に新兵と防衛隊を少し残して出撃し、所属不明の部隊同士が衝突していると言う場所に向かう。

既に国境警備隊が国境を跨がぬように見張ってはいるが、どちらかが退却すれば確実にこの国に逃げ込む。


そうして追撃戦は最悪街の中にまで及び、最後は残党による村への襲撃や略奪で大勢が死ぬ。

尊い民草が死すのは王家への信頼を落とし、不安を抱かせ国を崩していく。


それを唯一防ぐ事が出来るのが王家のみ、或いはそれに匹敵するカリスマ性の持ち主。

そしてこの国には後者が存在し、騎士団が到着するよりも早くに、各地の争いを沈静化させていた。


「御報告します。所属不明の武装勢力が、国境に向けて南下中との報せが届きました」


伝令兵が持って来た伝令をエルから受け取り、早い馬が揃っている二つの精鋭小隊を先に向かわせる。

軽量化の為に軽装備の騎士が武器以外を投棄し、順番に速度を上げて瞬く間に地平線に消える。


そうして先遣隊を見送ってから暫くした後、それ程大きくもないこの国の国境に到着する。

国境の関所から目視出来る程近くで、倒れている多数の騎士を仲間が肩を貸して撤退していたり、座り込んで休憩している者も居た。


「国境に居たのは先程の使者の仲間、それと賊が交戦したのかも知れませんね。いえ、その可能性しかないですよね」


国境に沿って様子を見ていたエルの隣に並んでそう言うと、確信半分信じたくない気持ちが半分と言った顔をしている。

その難しい事を考えている頬を指で突っつくと、体がびくんと跳ね上がる。


「お、王よ。あまり驚かせないで下さい」


「一人より二人で考えましょう、その方が面白い意見が出そうです」


「そうですね、面白いと言うのは魔法の痕跡があるという事ですか?」


「やっぱり同じ意見でしたね、それも今回使われたのは龍力であり魔力ではないみたいです」


「そこまでお分かりになるとは、感服致します。私に分かるのは魔法が使われたと言う所までですよ」


大きく窪んだ穴から目を離さずに、エルは何かを辿る様に指でなぞる。

その指は国境を越えてパレス王国領内に入り、空に急上昇してぴたっと止まる。


「王の仰る通り、ドラゴンの可能性が非常に高いです。人間では体が耐えられない速度で空を飛び、それに加えて我々にはまだ技術が確立していない痕跡を消すと言う細工がしてあります。私が感じたのはわざと残した痕跡でしょう」


「まだまだ発展していない魔法を辿られないように消す、ですか。本当に面白い事をしてくれます」


「相当な手練の上に魔法を完璧に使いこなす、森精種アールヴの可能性も出て来ました。いえ、魔法の扱いに長ける唯一の種族しか殆ど不可能です」


「稀に森精霊よりも魔法を上手く使う龍人種ドラカが居ます、それも天災並の強力な魔法を使う」


「心当たりが有り、ですか。気分を害さなければお聞かせ下さい」


「アイネ・トール。ドラゴンにして神、私が見たのは炎でしたが。操作が凄く細やかなものでした」


剣を抜いたエルは軽く剣を振り、炎を出して宙に留める。

空中で右に左にゆっくりと動かすも、途中で全て消えてしまう。


「この程度ではありませんよね、精進致します」


「何を言う。我が軍で魔法を操れるのはエル坊だけで、我々はただ放出しか出来ない。若い者の中でも出世頭じゃないか」


周辺を見回っていたガルドナルは2人の研究者の様な話し合いに、少しだけ可笑しさと微笑ましさを感じていた。


「私なんてガルドナル様の足下にも及びません、多少操れたとしても火力が違い過ぎます」


「皆で強くなれば良いじゃないですか、私も剣を覚えたいですから。自分の手でこの国を守りたいです」


ヨルムたちが置いていった黒い刀身の短刀を抜き、宙に浮いている魔法痕の糸を切る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る