9話ー3 絶望を食らう者 ーオロチー
「導師私設要塞に高エネルギー反応!——よ……要塞が——」
「要塞が分離して——いや……まさかこれは……!?」
緊急アラート――
眼前高空の導師施設要塞――ただの要塞であれば、
その算段へ試練が立ち塞がった。
「これ……は……!?——そう言う事ですか。導師は最初からここまで計算して事を……!なんと言う——」
要塞深部――
―—異形の深淵―—
『……姉さん!あれは——導師の狙いは最初から……!!』
「ええ……!導師は最初から赤き吸血鬼と白き魔王の何れかを、その贄にと考えていたという事——その魔族と言う種の特性……負に傾きやすいと言う、彼らの特性を利用すると!」
「……そんな……あれは――【オロチ】!」
巨大なる異形は、クサナギの血脈である
その異形の姿は紛う事なく三神守護宗家が神世の時代より、使命を賭して討滅し続けたこの世界においての闇——〈
「例え【オロチ】が現れてもっっ——」
この戦場で戦う誰もが、口を開けた絶望そのものである深淵に浸蝕されんとする中で――それをかき消す
それを発するは王女——〈
高空の大気を振動させ……生の執念を——生きとし生ける者の熾烈なる
「さぁ、テセラ!アタシが突き崩すっ……着いて来なっ!」
「うんっ、アーエルちゃん!お任せするっ!」
魔の撃滅を宣言した少女と――その標的となった魔の少女。
最悪の顔会わせで始まった二人が、一人の少女のために背を護りながら高空を貫く様に突き進む。
「ウザイしっ……この木偶人形共っ!テセラの……邪魔すん・なーーーっ!!」
「前へ……!レゾンちゃんの所へ……!」
金色の王女の
その周囲・後方を脅かす
さらにその行く手を阻まんとする敵個体が、
ただ王女のためにと断罪天使は舞う。
親しくありたいと願う金色の王女が、前へと進むための道を切り開くために——
が……それを嘲笑う様な、さらなる異常事態の訪れ。
二人の魔法少女が、機械化魔導兵団を蹴散らし進む最中――導師の私設要塞が、ついにその全容を変化させる。
深淵の浸蝕を受けたそれは、ただの不確定な霊的物質から……蛇頭の如き形へ集束——
やがてそれが八本の首を有した、全長が優に数キロを誇る〈八頭の大蛇〉へと変容して行く。
「テセラちゃん……!」
一方、魔法少女達の後方では――
魂を蝕む負の深淵の闇へ……抗う様に最終防衛線を死守し続けるヤサカニの担い手——その弟ロウが、姉より託された
そのコックピット内宙空モニター ——映り込んだ八頭の異形と凛々しき王女を見据え……今にも爆発しそうな想いを押し殺していた。
その熱きヤサカニの戦士へ——思わぬ所から、その背を押す言葉が放たれた。
『行って来い……若造!』
「と……
熱き
『仲間のために手を差し伸べたい――オレ達はその想いに暮れた道を何度も辿って来た。――今がその時ならば若造……大切な家族が進む道を、その手で開いてやれ……!』
かつて自分達が、共に歩んだ者のため――全力を持って戦っていた過去を……
『こちらの指揮はオレに任せろ……!伊達にこのチームをまとめて来てはないぜ!』
『あんたのその熱いハート!……嫌いじゃないよっ!』
『行ってきなさい……!日本と――世界の未来のために!』
かつて日本を守り抜いた誇り高き伝説達の声も、次々と熱き担い手へと向けられて――
「——すんません!……後方、よろしくお願いします!!」
モニター越し……暁の名に相応しき
直後、
高速巡航形態となる守護宗家の疑似霊装の剣を駆り――熱き担い手は、手を差し伸べたいと願う希望の王女の元へ大気を裂く爆轟となって飛んだ。
「さて、こちらも気合を入れるぞ!あの命の深淵との戦いは、この世代の者に課せられた使命!そして――若者が歩む後方の憂いを断つのは我らの役目だっ!」
****
「わざわざ私を笑いに来たか……?
そのアームの先端に、声を放った主――
「今更その様な
「お前じゃない——が、敢えて言わせて貰う。返す言葉も無い……。」
結局は、笑い者にしに来たのかと視線を落とす
囚われの吸血鬼を、鼓舞するかの如き補足が——
「……その目をよく開いて状況を見なさい……レゾン。私が
そういう事ではない――剣の人形は吸血鬼に
『テセラちゃん……!任せて!』
『行かせないって……言ってんだろーーーっっ!テセラ……前へっ!』
『……うん!レゾンちゃん……きっと——きっと助けるからっっ!!』
映し出されたのは、吸血鬼と敵対していたはずの魔法少女達――自分たちがその刃を向け……幾度と無く切り結んだ相手。
彼女らは今――たった一つの目標を目指し、機械化魔族兵団を
その中心には
目指すは……
「——何を……しているんだ……。」
自分の名を呼ぶ金色の王女——その視界を占拠した姿へ抱く苦悶と疑念が……歪む表情となって囚われの吸血鬼を包む。
その赤き少女を見据え、剣の人形はさらに続けた。
「大方あなたは、あの魔王を救い出させて、自分が人柱として消えよう――などと思っていたのでしょう——」
「しかし——すでにあの魔王は、己が責務を果たすため導師
「——っ!?」
絶句する囚われの吸血鬼――
金色の王女は赤き少女を救うと約束し……白き魔王は赤き少女を救って欲しいと懇願した。
だが当の本人である吸血鬼は、全てを諦め絶望のまま己を自虐し……
「——お前の言う通り……私はとんだ
絞り出した言葉――しかし込められた意味は、先に自分で口にした物とはまるで違っていた。
「分かったなら、あなたは成すべき事をなさい。私達は私達でやる事が出来ました。」
導師が消えたなら、命令と言う枷を失った眼前の人形にもはや活動する理由もないはず――と、剣の人形の解へ疑問が沸いた吸血鬼が問い質す。
「やるべき事……?お前達に……?」
「言ったでしょう——私達【
吸血鬼がその言葉に見た物。
それはほんのささやかな、壊れた人形達に
だがそれは同時に、遅すぎる目覚めであった。
「そうか……。」
「そうですわ……。もう貴女方は
すると
「お前は、どちら側だ……?フェアレ・ディアレ……。」
そちらへも浮かんだ疑問を投げた吸血鬼へ、守り人らしい解と――現状優先せねばならぬ点への指摘を返される。
「この地球に住まう命の未来を憂う者――という答えでは不満かしら?……それより——
そんな自分が、今これより取るべき行動を見誤る様な愚かさは……流石に彼女も持ち合わせてはいなかった。
「……大切……ああ、あるさ。私はあの子に――王女テセラにこれほどまで慕われている……。そしてこのままでは、私に
そしてふと己が体内の変化に気付く赤き少女。
高貴なる吸血鬼は、ただのエネルギー補給的な吸血など行わない。
吸血――それは即ち、血を捧げる者の魂を
その血はいつしか、吸血した主と高次元で一心同体となり——いつ如何なる時もその存在を感じ取る事が可能となる。
少女が気付いたのは、吸血した覚えの無い女性の魂――しかし……自分の血脈に追加されているそれの正体と経緯には、想定していた思考が過ぎった。
「……ああ、あんたならただで消滅しないだろうと思っていたよ……。気付けなくて申し訳ない——」
「感じるよ、その魂。ありがとう……ならば共に行こう——
血に宿る魂――すでに亡きはずの魔王の意識が、赤き吸血鬼と一つとなって行く。
偉大なる魔王は最後の
魔王の存在を感じた吸血鬼は、自分を支える内なる魂の力を高め……命を燃焼させる。
その身を
「多くの者に助けられ――そしてテセラが私を救おうとしている!ならばこの身――この命、たかが不逞なる闇如きにくれてやる訳にはいかない!」
たった少しの間でいい――きっと王女は自分の所へ駆けつける。
それまでの間〈
そう宿した思考は、最早生きる事を諦めた囚われの少女の欠片も見当たらない。
そして――
赤き魔法少女の金色の王女にも匹敵する、膨大な
「我が名はレゾン・オルフェスっ!
命の咆哮が、不逞なる闇さえ弾き飛ばす様に放たれた。
今赤き吸血鬼と一体となる、魔王の魂に刻まれる
魔界史上、古の伝説に準える最強にして究極の存在……
己の全てを懸けた
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