9話ー2 道を切り開く 大和と戦乙女
「このまま突撃するつもりですか……!?」
「……
地球から遥かに離れた
「ですが……このまま進めば戦力が分断されかねない。未だ機械化魔族兵団の勢いは——」
「是非も無し——じゃがそれは、あの者達も重々承知しておる……。今我らに出来る事は見届ける事じゃ……。」
「——それに……よく見るがよい。絶望の中で戦う者たちの表情か?あれが。」
促されるままモニターを注視する懐刀——己の思考が杞憂である事実を目の当たりにした。
そのモニターへ映り込む王女を支える者達。
戦国の英雄の血を継ぎし未来の子孫達——皆双眸に宿るは絶望などでは無い……前へと踏み出し、希望を招来せんとするそれ。
「……ふぅ……私の杞憂——ですかね?」
「……杞憂——じゃろ?」
「信長殿も信頼しておられますね、ご子孫を。彼らの存在はジュノーもさぞ心強い事でしょう……。まさにあなた方の祖国日の本の誇りですね。」
天下布武を勝ち得た地球を祖国に持つマリクト勢の耳を
そのやり取りの最中、強力な魔族兵団に囲まれようと決して屈さぬ表情が……魔界の王らが注視するモニター画面へ映し出される。
希望を背負い……ただ全てを賭けて戦う勇士達――そして、その先頭に立つ魔法少女の視線が目指す物はただ一つ。
赤き吸血鬼が封じられた、導師の私設要塞だけであった。
****
『ロウ隊!【大和】後方に付いて!撃ち
王女が出撃するポイントまでは
その左翼と右翼――舞い踊る様に中空を駆け抜ける影は、
「カグツチ君!可能な限りこちらで打ち払うよっ!」
『承知した!
それを包むは、炎の破壊神【ヒノカグツチ】の膨大なる神霊力……蒼焔が少女の闘気と混ざり吹き荒れる。
さらに両の手……
「クサナギ流閃武闘術――乱舞弐式・双!剣の舞【
蒼焔の烈光が魔族兵団へ一条、二条、三条と、次第に速度を上げ襲撃する様は音速の火焔撃――
爆散する機兵を尽く一掃する閃撃は、二振りの霊剣より放たれ続ける。
左翼で蒼焔が舞えば――右翼では断罪天使の狂気が炸裂する。
「アッハハハッッ!!何だよこれ……入れ食いだしっっ!!」
断罪天使を包む主の力――それは裁きの光。
〈
大型のショルダーガードと、ウエストガードが翼の様に伸び――
背部の機械翼は無数の
「さぁーーーっ!行っくぞぉぉぉっ!カマエル――【
「いいね、いいねぇ!!どっからでもかかって来るし!――まとめて裁きにかけてやるよっ!!」
全方位への十字砲火はそのままに、敵各個に近接する狂気の翼――
霊銃の軌道上に敵の腕が添えられただけの様な、当たる事など最初から皆無であると言わんばかりの近接霊銃防御――
そこからの零距離の裁きを受けて、無事である魔の機兵など存在しなかった。
「あれぇ、もしかしてここから先――通れるとか思ってるっぽい?」
音速で飛翔する四番機――
「……魔法少女ら以外は眼中に無しとか――もしかしてオレら……なめられてんじゃね?」
中距離を保ち、砲撃で誘導する弐番機――
「ただのプログラムだ……。いちいち感化されるな……!」
誘導された魔族を待ち構えた様に餌食とする、大型のビームハルバードを振り抜いた壱番機――
尚も攻撃網を突破せんとする
「ともかく撃ち落とすのみです……私的に……!」
国防省の肝いり防衛兵装――宗家の【
だが、そこに搭乗するは
かつて、【
魔法少女達と宗家部隊の猛攻。
押された魔族兵団が
「艦首要塞方向へ!主砲副砲――及び対空砲群斉射!!テセラの道を開きます!」
「了解っ!艦首要塞方向へ……大和、機関最大出力!並びに主砲副砲、対空砲群一斉射始めっ!」
その気を逃すまいとする艦長
艦首を要塞へ向けた最大戦力より放たれる、兵装一斉射が十字砲火と化し――僅かに開いた道を更にこじ開けに掛かる。
突撃を敢行する超戦艦の艦首――開放式ハッチ下ですでに待機する少女へ向け、艦長
「ヤタ天鏡全力展開!同時に艦首上甲ハッチ開放――準備はいいですね!?テセラ!」
「はいっ、
艦長
無数の砲台と主砲となる機械杖の砲を備える姿は、さながら重巡相当の高速戦闘艦の体を成す。
だが……先の
限界まで
その道先案内人がテセラの元へ飛来する。
「テセラちゃん――きっと待ってるはずだよ……彼女が!レゾンちゃんがっ!」
「うん!ありがとう……
王女の表情は揺らがぬ決意に満ち溢れ――案ずるも杞憂であった小さな当主は再び中を舞い……魔族群と切り結ぶ。
「
最大戦力甲板より金色の王女が飛び立ち――彼女を通すため、一時消失させたヤタ天鏡が再び張り巡らされる。
そして魔族兵団の中央、開けた道を進もうとした王女。
その後方より追い越す一陣の風――王女も予想外の姿……断罪天使が眼前で、翼へ大気を孕むように急停止した。
「――っ!あ……の、ヴァンゼッヒ……さん……??」
未だに過去の狂気を引き摺る王女も、断罪の翼へ向けた困惑は隠せない。
が……少女も想定だにしない想いの長が、断罪天使より――否、友人であるクラス委員長の口より迸る。
「はぁぁ~~!?あんた今更何言ってんだ!アタシはアムリエル――あんたのクラスメイト……アムリエル・ヴィシュケだし!?」
「……えっ?」
狂気的な先入観を植え付けられていた金色の王女は、想定外の出来事に時間を停止させ――その王女へ向けて、間髪居れずに断罪天使が言い放つ。
「――けどな……分かってるだろうけど、ちゃんと学園ではアタシを委員長って呼ぶし!?いいなっっ!」
「……うん――うんっ!……ありがと……アーエルちゃん!」
断罪天使の言葉の羅列――
その意味を理解した王女は、刻まれていた狂気の少女への恐れが吹き飛んだ。
耳にしたのは紛う事無く、共にあり——仲睦まじくありたいと願う友人の言葉であったから。
赤き少女を救う作戦——その直前で訪れた願いの成就は、少女の双眸へ溢れんばかりの輝きを呼ぶ事となる。
「テセラ!泣いてる暇――無いだろ!アタシが援護してやる……さっさとあの吸血鬼の所へ行くしっ!!」
友人として初めて交わす断罪天使が放つ言葉は、王女の心を熱く包み込み――溢れた双眸から雫をぐい!と拭う彼女も首肯する。
そして友人と――アーエルと初めて口にする事の叶ったクラス委員長と同時に、向かうべき場所を睨め付けた。
強き力を宿す者達……小さき当主と、断罪天使と――
自分が生きて存在した事で導かれ――因果の中で巡りあった少女達との絆が、金色の王女にとっての掛け替えのない物へと昇華される。
この戦場にある、すべての者の意思が目指すその先に――今囚われる赤き少女へ向け……金色の王女が飛び立った。
赤き命――ただ護りたくて――
****
薄暗い闇に包まれた私――記憶に残る残滓で、必死に状況を掴まんとする。
何が起きた……。
私は魔王を救うためあの次元牢獄に――そこまで浮かんでようやく辿り着いた現状を把握し嘆息……ああ、私は囚われたのかとの思考に至った。
体中がズキズキと痛む。
記憶の残滓が正しければ――牢獄をこじ開けようとしていた矢先、あの声が響いて――
「……ここは……くっ――」
酷い目覚めだ。
開いた自分の眼が見たのは、異様な数のコードに巻き取られる我が身。
両手も、両足も――身動きが取れないとは正にこの事だな。
そこには誰もいない――
私を
「ブラックファイアには、シュウを救って欲しいと
あのめんどくさい魔王……まさか自分で命を絶ったのか?
導師が居ない所を見ると他に答えが浮かばない。
そして自分はこの有様――
「――つくづく私の人生は……上手く運ばん……。」
目覚めて
「全くもって――
ここは間違いなく、導師が用意していたこの地球を滅亡に導く古代の遺物――
聞くつもりはなくとも、あの導師が勝手にひとりごちた内容を……皮肉にも記憶していた。
「これで私は人柱だ……。私がこの地球を――故郷を――」
覚悟はしていた……そのはずなのに、記憶の中にここぞとばかりに蘇る――
最初に私にその身を差し出そうとした、愚かで――そして
まだ魔族としては駆け出しで、未熟な
何が気に入ったのか分からなかったが、似た境遇と知ってからは少し親近感を得た魔王。
最後まで私に仕え続けた、
「……私は――」
そして――この私を救いたい等と言い放ち、何度も何度も切り結んで言葉を投げかけてきた――
「……私はもう――君には会えないのか?……テセラ……――」
涙なんて当に無くしたと――そう思っていた。
けれど今、シスターの事が呼び起こされたあの時の比ではない雫が……熱く私の頬を濡らす。
私にも……まだこんなに溢れる程の涙――残っていたんだな――
「――諦めるつもりですか?」
そして自分以外は誰もいないはずの、
この声――セブン……?
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