――最終章――

ー赤き命 ただ護りたくてー

 9話ー1 大和飛翔!少女の誓いを乗せて



 決意の王女が見据えた先――遥か高空の重装強化された異形の魔族兵団。

 導師の手により機械強化された体躯より、幾重に伸びる超射程火線砲が魔導超戦艦を標的にとらえる。


 しかし未だ、宗家最大戦力それ錨鎖びょうさを海底に打ち付けたまま。


れい 艦長!本艦はアークデーモン級——超射程火線砲の射程圏内……ロックされています!このままでは——」


 鳴り響くアラート――小さな当主桜花が魔法少女システム調整中の今……超射程火線砲の直撃は致命的。

 だが――

 艦長 れいが必殺の指揮を繰り出した――


右舷うげん錨鎖びょうさを切って!取り舵後サイド・スラスター全開!――フレックス・ウイング展開と同時にアップトリムプラス20、機関最大!【大和】……飛翔せよっ!!」


 主・複並列偏心機関デユアル・ロータリック・リアクターに火を入れるも――左舷錨鎖さげんびょうさは海中で船体を繋ぎ止める。

 機関出力上昇と共に限界まで伸びる錨鎖を中心に、200mを越える船体が高波をともない……海面でコマの様な急旋回アクセルターンを始めた。

 さらに同時展開される左右の巨大魔導翼フレックスウイング……大気を孕む様に広がるそれを展開した最大戦力――今しがた船体が存在した海面で、巨大な水柱を上げる超射程火線砲の閃条を寸ででかわし切る。


左舷錨鎖さげんびょうさ切断っ!このまま敵兵団の前に出ますっ!!」


 旋回しつつ……海洋艦であるはずの最大戦力が——その船首を海面より浮上させ——

 魔導超戦艦が……地球の大空を舞う。

 金色の王女テセラが救いを望む赤き少女レゾンの存在と、地球の命運を賭けて――



 ****



「……待っとれや~!すぐに調整、終わらせたるさかいなぁ……!」


「あぁ——早くするしっ!敵はすぐ目の前だぞ……!」


 気持ちも逸る断罪天使ヴァンゼッヒ——イライラの募る腕組みのまま、機関長であり魔鷲ましゅうを纏める棟梁カナちゃんさん。

 が……慕うヴァチカンの聖騎士エルハンドの指示とあれば、勝手が出来ずただ宗家の調整を甘んじざるをえない少女。

 しかしその実——すでに心をかれ始めている金色の王女……そのためになりたいと言う一心が、逸る気持ちを加速させていた。


「急いで下さい——シリウさん……カナちゃんさん……!」


 断罪天使に隣り合うクサナギ当主――彼女をしてさえ焦りが顔を覗かせる。

 王女への思いは断罪天使に引けを取らぬ彼女も、視線はモニターを埋め尽くす異形へ注がれる。


 その二人をかたわらで見守る少女――この宗家最大戦力に残ると言い出した八汰薙 若菜やたなぎ わかな

 戦う力無く……祈るのみである少女の双眸には、親しき王女への助力を望む二人の友人——その胸中が何者よりも理解出来ている。


少女にとっては、自らの祈りを戦う力を有する友人に託す以外に道が無いのだ。


「艦長!敵グレーターデーモン級――第二波射撃体勢に移行……マズイです!」


 巨大な船体を高空へ羽ばたかせる宗家最大戦力大和——内包される古の技術大系ロスト・エイジ・テクノロジーと魔導技術の本懐は、何もエネルギーや動力機関だけではない。


 純地球製である震空物質オルゴ・リッドの一種――エネルギーろ過用触媒にも使われる物質【人工オリハルコン】と呼称されるモノ。

 金属単体の名ではないそれは、震空物質オルゴ・リッド含有がんゆうし精製された物質全体を指し——元になる物質が金属以外でもオリハルコンとして扱われる。


 それらは震空物質オルゴ・リッドを含有した状態で高圧縮生成され、原子配列を自在に調整できる技術——そこへ様々な特性を待たせる事が可能なオーバーテクノロジー。

 主に兵器や宇宙設備に使用される【人工オリハルコン】では、元になる金属の原子配列を変化させ強固にした分厚さや重量を大幅に減少させる事ができ……同じ体積では強度を大幅に増強――体積を減少させても元より軽量に仕上げる事が可能となるのだ。


 宗家最大戦力大和の船体は、ほぼ全体をオリハルコンに相当する金属で建造……外観に対して内部は海洋から宇宙航行に必要な強度や設備を最小限に内包させる、外観で想像出来る領域を超える程軽量且つ高性能に仕上げられている。

 建造における基準に関しては、この時代以前より存在する恒星間航行を可能とする各種宇宙船及び軍用艦などに準じ――宇宙間は愚か、位相次元への突入さえも可能としているのだ。


 軽量に仕上がる船体を生かし、敵魔族兵団へ向かう魔導超戦艦――その艦橋へ響くオペレーターの声……それはさらなる戦慄を呼ぶ。


「——グレーターデーモン級射撃体勢……待ってください!対象が標的を変更——これは——」


「射撃目標変更!……この方角——です……!!」


 艦長 れい の記憶に残る惨劇が明滅めいめつする。

 友を奪い――世界に崩壊をもたらした悲劇、人造魔生命災害バイオ・デビル・ハザードの記憶。

 ギリリと歯噛みし……二度と繰り返させぬとの気合いと共に、れいが——吼えた。


「くっ……!導師が最後にここを狙う様にと、プログラムでもしたのでしょう——」


「【大和】最大戦速っっ……本土と敵砲の射線軸に割り込ませて!船体を盾にしますっ!ここで撃たせてなるものですかっ!!」


「了解っす!【大和】最大戦速で射線軸上へっ!」


 操舵を担当するのは、これまた【真鷲組ましゅうぐみ】の若衆。

 ブリッジを含む各セクション二十余名……いずれも艦船運行に特化した真鷲ましゅうのスペシャリスト達――果ては宇宙へもその企業の手を伸ばす職人集団は、あらゆる専門分野で守護宗家をサポートする。

 最大戦力大和運用が艦長 れいの思い通りとなるのは、正にこの職人達あってこそなのである。


 グレーターデーモン級より放たれる長射程集束火線砲は、最大戦力大和の突撃をあざ笑うかの様に発射――が……寸での所で巨大な船体に旋回ブレーキを掛け、射線に割り込み盾とする。


反統一場粒子ネガ・クインテシオン――重力子グラビトン単一粒子障壁ソリッド・フィールド緊急展開!!」


「……フィールド――っ!?ダメだフィールドが安定しねぇ……!」


 【反統一場粒子ネガ・クインテシオン】の最大出力放出は、電磁エネルギーエレクトロ・マグネイト弱い相互エネルギーウイークボソン……及び強い相互エネルギーグルーオンが大気中で猛威を振るう。

 大気圏内使用により、自然への深刻な汚染ダメージを与える化学反応の猛威――それを回避するための重力子エネルギーグラビトン単一粒子障壁ソリッド・フィールド展開である。


 しかし……正・反違わず電磁及び強弱相互作用を平行励起させ始めて安定する【統一場粒子クインテシオン】は、充分な防御障壁としては役不足――それ故の〔ヤタ天鏡〕であった。

 小さな当主の奥義〔ヤタ天鏡〕は、神霊の加護所以の絶対防壁であり――粒子状態如何いかんに関わらず絶対防御が可能なのだ。


「射線をらせれば構いません……!左舷へピンポイント展開――日本を撃たせないでっっ!!」


 第二射――

 魔導強化された異形の放つ破壊の閃条が天より降り注ぎ、暁の大地が危険に晒された――が、フィールドを緊急展開した宗家最大戦力……まさに刹那のタイミングで、展開された障壁が破壊の閃条を捻じ曲げる。

 防御フィールドの粒子と反応した破壊の閃条は、あらぬ方向へ拡散されつつ――大気と粒子の反応する爆業を伴い霧散する。


 それでも逸らしきれぬ火線砲が齎す破壊は、フィールドを抜ける直撃打となり――船体を掠め様に衝撃と爆発を生み……最大戦力船体へ無数の傷を刻んでいく。


「……か……艦首左舷上方及び……船体中央下部に被弾……!ダメージレベルC……!」


「ダメージコントロール!急いでっ!」


 高度もすでにそれなりに達する船体は、被弾箇所へ急な減圧が発生するも……速やかな事故修復が開始され、高空を行く上で支障の無いレベルへ保たれる。

 【ミストルフィールド】……マイクロサイズの霧状機械群ナノマシンミストが、機械設備や兵装へのダメージ状況を察知し補修するシステム――【人工オリハルコン】材質にのみ機能すると言う、特殊自己修復機能をフル回転させ修復を敢行する。


 しかしいかに自己修復機能を有していたとて、嵐の様に降り注ぐ破壊の閃条――〔ヤタ天鏡〕を欠くこの状況……これ以上のダメージは致命傷は必至であった。


 すでに距離を詰め、標的を最大戦力へ変更した大兵団……続く閃条第三射の脅威が襲う中――


「取り舵いっぱい、船体反転――主砲右舷へ!主砲副砲、前門斉射……えーーっ!!」


 主砲副砲群の一斉射――攻撃においても重力子グラビトンエネルギーの単一運用。

 爆業と供に放たれた、世界で最強を謳われた46cm三連装砲――この魔導強化した艦においては凝縮された単一粒子である重力子グラビトンを、フィールド運用同様に充填し……放たれる。

 主砲斉射が上位種アークデーモン群を捉え……確かにそれらを爆炎に包んだ――


 だが――


「目標――高エネルギー反応多数……!超集束火線砲群――来ます!」


「再度フィールド展開!……なんとしてでも日本を守りますっっ!」


 そこにはこの超戦艦の名を関する艦が、涙をみ水底へ沈んだ時の想いを――祖国を守らんとするその想いを、受け継ぐ様に奮闘する者達の姿があった。


 そして――

 超戦艦【大和】の名に籠められし意味……大和――ヤマト……【ヤマトタケルノミコト】。

 日本神話にて――【ヤマタノオロチ】を打ち倒した【スサノオノミコト】が、その蛇神の尾より持ち帰り……【ヤマトタケルノミコト】に授けし魔を払う剣を【アメノムラクモ】と呼称した。


 その魔を払う剣――対魔霊剣アメノムラクモを手にするのは――


 無数の轟音が大気を切り裂き、超戦艦がその餌食となる――かに見えた刹那、放たれた魔族兵団の砲は強力無比なよって全てが相殺された。


「クサナギ流閃舞闘術・守護の零式――【ヤタ天鏡】……天津炎王霊壁あまつえんおうれいへき……!!」


しゅの護り――守護霊天使エール・オブ・セラフィム……!!」


 超戦艦を包むのは、巨大な蒼き炎壁と銀嶺ぎんれいの光翼――調整を終えた二人の魔法少女から放たれた……強力にして絶対防御の御力の顕現であった。

 しかし――二人の少女のその身に纏うは、体躯を上回るサイズの機械外郭……オペレーションD・A・M・Dダムドで金色の王女の纏った物と同種――

 【戦乙女形態ヴァルキュリア・モード】……魔法少女システムM・S・Ⅱの拡張機能であった。


「――間に合いましたか!」


『ギリギリだったな、姉さん……!だが――これからが反撃だ!』


「その通り、ここからが反撃です!――ロウ隊、発艦せよっ!」


『よっしゃーっ待ってましたっ!八汰薙やたなぎ ロウ 、【日の都の暁ライジング・サン】――発艦っ!!』


 危機一髪のタイミング――研究室からのシリウからの通信に、胸をで下ろすと同時にすかさず意識を切り替え通信を飛ばすヤサカニ裏当主。

 船体とも――射出用カタパルトへ【ヤタガラス】……次いで機動兵装六式暁型各機が運ばれ――順次発艦を開始。

 待ちわびた八汰薙の担い手弟ロウが、かの伝説達を引き連れ……魔族兵団が襲来する大空に出撃したのだ。


 それと同じくしたタイミング――突如その魔族兵団後方……高空の大気に光学的なゆがみが、只ならぬ不穏と供にを現出させた。


「……兵団後方――巨大な物体が位相より出現します……!……これ……は――」


 現れたる物……全長1000m長に達する一個の島の様な姿――

 だが、そこに居た者達は確証などなくとも……その存在が何であるか――すでに察していた。


 それをモニターで視認した者……宗家最大戦力大和艦内――研究室で安静を言い渡される吸血鬼の使い魔ブラックファイアは、ただ切実なる願いを吐露していた。


「あれが……導師ギュアネスの私設要塞。あの中に我がマスターが――」


「――の様だな……!ブラックファイア……君の知る情報をくれ!想定される残存戦力を把握したい!」


 八汰薙兄シリウの言葉に首肯する吸血鬼の使い魔ブラックファイア――彼は今手を拱いているしかない故に、その願いを託せる者へと託す。

 彼の願い全ては……今力を有し――戦場へ赴いて吸血鬼をを救わんとする、金色の王女とその信頼に足る者達へ賭けるしかないのだ。


「各員このまま敵中央へ突撃っ!――テセラの道を……吸血鬼レゾンまでの道を切り開きますっ!!」


 最後の一手――王女が吸血鬼のもとへ向かうため、宗家の部隊は突撃を敢行する。

 そしてその状況を遥か魔界の魔王達も、リアルタイムで固唾かたずみながら見守るのだった。

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