8話ー7 その災い・穿つために
『皆さんご覧の通りこの
時は
【
『この事からも、【
この非常な事態の最中――場にそぐわぬ間延びした声が響く。
アリス代行が地球と魔界衝突回避任務――オペレーション
その代表者――太陽系内各方面を統括する者達と関係者。
それらと惑星間通信を経て協議する議題は、太陽系の命運を握る――
一同は複数のモニター映像を介し、地上と地球圏より離れたコロニー施設とのリアルタイム通信により相対していた。
『――しかし、いくら火急の事態とはいえ、【
『そもそも大元を
この太陽系内、恐らくは
事は急を争う状況であるにも関わらず、一方的な私論が飛び交う――私利私欲にまみれた答弁会場と化した会議の場。
「……あ……あのぅ~、今はそんな話をしている場合では~……――」
各国関係者の一部は地上出身者であるが、会議に混迷を来たすのは決まって地上人であった。
アリス代行であるブリュンヒルデの性分では、この私論の答弁会を律するには少々――否……あまりにも無力であった。
――だが刹那……その場に響く声が、
「――大元を
声の出所は星の守護代行の少女――が、少女特有のゆるふわであった表情が別人となり、全てを見透かす神の
「何もこれより全ての【
神の
事実、この現代において宇宙在住の地上人が地球圏全域の防備・警戒を担当している。
導師はその抜け穴――安全よりもコスト優先の、ローコストな抜け穴だらけの防備を
今の声に反論を唱えられる者は、その会議にほぼ存在していなかった。
『なるほど――状況は理解しました。確かに我らとて真の故郷が滅亡する様を、指をくわえて見ている程愚かではありません。』
当然とも言える言葉がモニター中央へ座する男より放たれる。
恒星系――そもそも星々とは、ただ一つで存在している物などない。
一つの惑星の消滅は、恒星系の存在に
宇宙に住まう者であれば、その身に刻まれた真理である。
『――いいでしょう……他の関係各位には通達しておきます。【
この場を
『それでいいか?リリス……。』
リリスと呼ばれたのは、今
リヴァハ・ロードレス・シャンティアー――
アリスの姉妹であり、同族であり、一心同体である少女を模した聖なる書物でいう所の人類に智を与えし蛇――この世界において世界を監視する高位存在……【観測者】である。
「――フフン……全く、偉くなったものじゃなお主は……。その高き
「……太陽系中央評議会代表――クオン・サイガ議長殿よ……。」
中央評議会代表――
太陽系内……木星圏を中心とした火星圏より外縁を統制する機関の代表者――その彼へ向けた
『悪いが、アンタにそう呼ばれるのは違和感しかないな。――頼むから普通に接してくれるか……?』
代表者達が一同に介する場で繰り広げられる会話は、昔馴染みのじゃれ合い――そこが、緊急の臨時会議の場である事も霞む様な言葉の応酬。
が――馴染みのやり取りの中にあって、事の重大さも把握する地球外の代表……すかさずその制限解除の了承が必要な、もう一人の人物へ話を振る。
『クサナギ
『ハイ……。異存無しです。』
クサナギ統制官――それは月面上、今は一時的にシステム大半を休眠させている【
古代遺跡の統制管理の任を賜るのが彼と――そのパートナーの役目である。
そして――彼らは言わずと知れた、クサナギ
「――これで必要な承認は揃った。であれば、すぐにでも動けるじゃろ?クサナギ
その一部解除を心待ちにしていた者――クサナギ家表門当主、
「すぐにでも……!各代表の方々……誠に感謝いたします……!」
「……うむ!では
突然現れた上、世話を焼いてから悪態の後――
しかし口にする悪態に反する様な対応……実の所自らが愛する人類の危機にいてもたってもいられないだけと言う、素直になれないツンデレ観測者――その一言に尽きる存在であった。
「お話は終わりましたか~~?も~~ぅ、リリス様はいつも私の体を突然奪うんです~~。……私も心の準備と言うものが~――」
プンプンと頬を膨らませ……いつもゆるふわな
それを見るや、リリスに気圧されたまま押し黙っていた関係者が……皆一様に緊張から解放され崩れ落ちた。
一部の大物達を除いては――。
必要な承認を取りつけた交渉術の
『兄貴っ……!
今も36万キロ彼方――月面の神殿で任をこなす
その心情を
「ああ……!任せておけ……!」
――かつて世界を救う
彼の強さと勇敢さを継ぐ
だがまだ子供の域を抜けない彼女――さらにその友人達が全ての力を発揮出来る、絶好の機会を作り出すのは大人の役目。
それは
****
すでに日本海上空に位置する高空――出現した異形の軍勢が。蒼き星の天空を瘴気の限りで淀ませる。
導師ギュアネスは死してなお……この地球に害成す災いを
「ウラジオストク管制へ通達!直ちに対津波用岸殻防壁展開、同時に沿岸周辺へ警報発令要請!急いでっっ!!」
ここウラジオストクも、宇宙時代――地球外国家と往来する、宇宙船関連の受け入れを行える重要拠点の役目を果たしている。
それにより、日本近海の数ある海洋軍事港としても、万全の防備を備えていた。
『こちら日本国所属、三神守護宗家よりウラジオストク管制へ、緊急防備パターンAを発令願います!繰り返す――』
その意を受け……ウラジオストク管制は了承と共に、沿岸を守る絶壁を展開した。
沿岸部全域にせり上がる巨大な岸殻防壁は、この様な有事に対する守護の盾。
さらに沿岸部への緊急警報が発令され、各建造物も防御隔壁で遮断され――
事態急変の恐れへの事前通告は、沿岸の軍関係者並びに住民の避難・待機と言う行動へ素晴らしきスピードを生んでいた。
「ウラジオストク――岸殻防壁展開確認!
「分かりました……!……シリウ……二人の調整は……!?」
今しがた調整に取り掛かったばかり――百も承知であるも強行手段を敢行するため、その意も込め
『――悪いな、姉さん!いくらなんでもそれを聞くには早すぎる……!——どうせこのまま、敵部隊前へ躍り出る気だろっ!?出来るだけ間に合わせる……行ってくれ!!』
さしもの
姉の意を見事に察し、調整のペースを上げる。
さらにそこへ――
『零はん!その調整、ウチも参加したる!ちょうど
「頼みます!」
カナちゃんさん率いる【
魔導技術の補完によって稼働を現実の物としているが――やはり、相手は日本が
古の技術を手足の様に操る職人集団の真骨頂である。
主機関を始め、宇宙航行に必要な〔複〕主機関と超広域量子レーダー、恒星間通信を想定した量子ネットワークシステム——次いで艦内……
さらに――
46cm三連装主砲及び副砲と対空兵装群は、エネルギーとして
正に彼らの助力無しには、この超戦艦を動かす事もままならないのだ。
異形襲来に合わせ全力の抜錨準備が進む中——
その主砲前方――開閉式甲板内、大人達の支援を受け最後の最後で、吸血鬼の
『テセラちゃん!シリウさんや、カナちゃんさんが頑張ってくれてる!テセラちゃんも少しだけ我慢だよ!』
「うんっ!私の出番は一番最後……皆が繋いでくれる最後の一手……!」
ただ共にありたいと願う少女の――赤き吸血鬼の元へ向かうため、少女は心を研ぎ澄ます。
「ローディ君—— 一緒に戦ってね!私はあの子を……レゾンちゃんを必ず救いたいのっ!」
「……ああ!テセラがジュノーとして立ち上がったんだ――王女に仕える従者として……その決意に応えられないのでは、ボクもここにいる意味も無いと言う物——」
「君の想いに応える……ボクの全力で!」
「うん……必ずだよ——あなたの全力でねっ……!」
王女の肩口に浮かぶ量子体の
その宣言が意図するところ……それは、異界の使い魔が王女にすらひた隠す真実の姿。
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