8話ー6 マガ・フォース・レイアー
重い沈黙――成すべき事はすでに理解している。
だが、それを
皆……心が――魂がへし折られそうになった。
が――それを
「……まさか、あなたに
その主の御使いである少女が放った言葉。
そこには、大人たちも目を覚まさせる内容が含まれる。
彼女とて未だ初頭を数える幼き年――その少女にそこまで
ヤサカニ
『――どうだ、そろそろ動く時間だろう?そのための手も用意してきたが……必要か……?』
「全く……人が悪いですよ?
通信者はほかでも無い、クサナギ表門当主の
当然その用意した手も察しがついている。
彼の行いは決して、悪気から出た物ではない事も知っている。
むしろクサナギ
必要な物・必要な用件、そして必要な場。
あらゆる事象に対し、空気を絶妙に読む事で最高の結果を招来する、宗家内にて呼称される二つ名は【
その場にいる者たち――この事態を収束するべく、その心を再び
――ただひとりを除いて――
「おいテセラ……!あんたはまだ――」
「アーエルちゃん……!」
言い寄る天使の少女を宥める様に、
断罪天使も理解している。
慈愛に満ちた王女が、これまで一体何を目標としてこの戦いを越えてきたのか――そして自分が何ゆえ彼女に
が―― 一刻の
だからこそ……他の者に先んじて自ら嫌われ者の役を買って出ている――いや、そう体が動いてしまう。
それを感じ取った宗家の支援者達も、必要以上に介入せず――子供達の自立心と友情に賭けていた。
彼らもまた――そうして数多の逆境を越えて来たから。
その皆の思いが……沈黙に沈む小さき少女へ――ささやかな決意を呼び起こす。
「……
振り絞る……それでも消え入りそうな声は未だ僅かであるも――前に進もうとする意志。
その鼓動を感じた
「
そして開かれた魔界への臨時特殊回線。
事の成り行きを見守るため、魔王ミネルバと信長勢は未だ
『……地球の皆さん……なにかご相談ですか?非常事態は聞き及んでおります――大した事は出来ませんが――』
「火急の用件としてご対応願います、ミネルバ卿。少しで構いません――お時間を……妹君と言葉をかわして頂けますか?」
開く映像回線に映る異界の
『ジュノー……私と話したいと言う事ですが――大丈夫ですか……?』
言葉を交わす――そう告げられ入れ替わる姿……しかし
そしてはたりはたりと零れ落ちるは、双眸へ溢れんばかりに湛えた雫――
麗しき魔王はすでに何らかを察している――それでも優しく……努めて優しく彼方の妹へ言葉を投げかける。
「――姉様。私、ジョルカさんを――姉様の大切なお友達と、レゾンちゃんを助けたいと思ってた……。……でも、ジョルカさんは――」
言葉を
小さな少女が背負う、果て無き慈愛故の悲しき試練を物語る様に――
「――ジョルカさんは、私が救えると思ってた……救いたかった……!だけど――だけどジョルカさんは……っっ――」
『ありがとうジュノー……。やはりあなたへ私達の最愛の友人――シスターテセラの名を贈ったのは間違いではありませんでした……。あなたが流すその涙は、あのシスターが最後に流した物と同じ――無限の慈愛そのものです……。』
彼方より届いた自分さえ包み込む慈愛の言葉で、ハッ!と顔を上げた王女が視界に止めたその回線の先――優しく言葉を紡いでいた、自分の姉である偉大な存在が……自分と同じように双眸へ輝きを湛えていた。
『――だからこそ、貴女に伝えたい事があります。貴女に与えたもう一つの――テセラという名前をもった友人の事――』
双眸を閉じる美の化身と称された魔王は――最愛の妹へ、最愛の友人シスターテセラの言葉を……そして彼女が抱いた切実なる願いを語って行く。
『彼女が命を顧みず望んだ世界……。それは地球の魔族と、この魔界の魔族が手を取り合い――地球の正人類と日の当たる世界を歩く事……。そう……今のあなたと赤き吸血鬼――レゾンが共に、地球の人々と歩まんとする輝ける未来です。』
『……そして、ジョルカも決してあなたを恨んだりはしません。――だってあなたは、彼女が私達と望んだ、未来そのものなのですから……。』
数天文単位彼方より響く優しき魔王の言葉は、今の王女の悲しみを癒すには充分であった。
――そして――
『どうかお願いです、ジュノー……あの吸血鬼の少女を――レゾン・オルフェスを助けてあげて下さい……。あのシスターが命がけで護らんとしていた……いと小さき吸血鬼の少女を!』
「――姉……さま。シスターテセラは、レゾンちゃんを……護ってた……の?」
『ええ……。けれどレゾンは、導師に利用され――そしてシスターも――』
語られた言葉が点と点を繋ぐ様に、真実への道筋を照らし出す。
二人の魔王とシスター ――
地球の小さき魔族――
シスターが命を賭して護った命――
シスターテセラの願い、ジョルカ・イムルの願い――姉であるミネルバの願い。
そして全てを託され……シスターの名を宿した自分へと繋がる真実までの道。
やがて
そして――地球を
「……こ……これは……!?」
突如として増大する気配へ只ならぬ反応を示す、
ある一つの存在覚醒の胎動……しかし、それは未だかつてこの宇宙で観測された例が存在しない力。
太陽系の歴史上、光に属する覚醒者の例は幾つか記憶にも新しい地球勢――だが……魔界に於ける歴史記述上、その存在すら確認されていないモノ――
正の力に対称性を持つ魔の波動を感じ取る
――それが遂に……新たなる覚醒の狼煙を上げた――
『私はもう、悲しみに囚われない――私はこの眼で……前を見ます……!!』
それは波動――宇宙を構成する【
かつてない魔の胎動が、誇り高き超戦艦内部より放出される。
無意識下で王女の放った【霊言】――人類が上位覚醒者へ昇華した時に発すると言われる魂の宣言。
だが――この宇宙において……魔族と言う種には未だその存在すら確認されていないはずであった。
その魔族へ――歴史上初めてとなる覚醒者が……今ここに誕生した。
「まさか……テセラちゃん……が!?」
【霊言】は先天・後天的問わず、覚醒者であれば感じ取れるとされ——
魔族である王女の上位種への覚醒は、まさに新たな時代到来を物語る奇跡の事態と言えるのだ。
霊言を放ったばかりの覚醒者——双眸を濡らした輝きを振り払う王女は最愛の姉へ……その心の全てを乗せて宣言する。
「姉さま……!私はテセラ——けど同時にジュノー・ヴァルナグスです!……私が魔界の希望であるなら……姉さまの妹ジュノーとして——姉さま達の想いを背負って行きます!」
「そして——シスターテセラが願った未来を、姫夜摩テセラとして目指すため……これから手を取り会いたい彼女を——レゾンちゃんを助けに行きますっ!!」
そこに居たのは魔王ミネルバを
『——頼みます……ジュノー……。』
最愛の姉へ強き首肯を送る第二王女はその身を
「私は今から、
猛き宣言が凛々しき双眸の王女より放たれ——同時に反応した心強き支える者達。
零した雫を振り払い立ち上がった王女の想いを拒否する者など、この場に存在するはずもなかった。
そして……まず動くはヤサカニ裏門当主――この事態に対応するため、即席の策を講じる。
「
「ちょっ!?なんであたしまで……そもそもこの
「すでにエルハンド卿より許可を取り付けています。元々アリス代理より許可を得た技術……調整そのものはどうとでもなります。エルハンド卿も、卿からの指示と言えば本人も納得するでしょうとの言伝です!」
「……なっ……いつの間に!?」
断罪天使の抗議も空を切る電光石火の手回し——そして出された
「シリウには二人の霊導機調整を任せます!
「了解だ、姉さん……!今は四の五の言えぬ状況——こちらも可及的速やかに対応する!」
その返す双眸で、八汰薙の希望の片割れである弟へ向くヤサカニ裏当主が……その青年の熱き情熱をさらに滾らせる命を放つ。
「ロウ……!あなたに【ヤタガラス】を任せます!二人の調整が済むまでは、王女の事——任せます!」
「お……おう!任せろ姉さん!……テセラちゃんは必ず、オレが護って見せるぜ!!」
叩き付けられた命は
「【
「了解した!」
「ちゃんと指揮して見せろよ!若造っ!」
「……うわ——なんか
「……だから
「こらっっ!なんであんたはすぐに、歳の話を蒸し返すかな!?」
流石にこの様な窮地であろうとも、見せる余裕は名だたる猛者の証——
必要な任務を各員に飛ばし、
が……そのタイミングに合わせたかの様に鳴り響くアラート――高空に強化型野良魔族反応が多数現れる。
「
艦橋を任された
その反応は、明らかにオペレーション
奇しくも裏当主の予感は的中する事となる。
「すぐに【大和】を出します!艦長権限はシリウから私に……それと魔導機関始動後――本来の【
「——っ!り……了解です!!」
本来の【
裏当主が発した言葉はあのクサナギ
「機関出力同調急ぎなさいっ……!同調後——デユアル・ロータック・リアクター臨界起動!!」
金色の王女が立ち上がり……それに同調した支える者達が、己が信念の元然るべき任へと向かう。
しかしそれをあざ笑うかの様に、蒼き天空を埋め尽くさんとする異形の勢力。
襲い来る地球滅亡を
この地球の安寧を招来する使者——金色の魔法少女とその仲間達が今飛び立つ。
ラストミッション――
オペレーション
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