ー魔族の希望 宇宙と重なりし魔の者ー
8話ー1 託されし力 クロノギア
導師ギュアネス――自らの策に
それは、地球と魔界の衝突回避を目指して戦い続けた者達にとって——揺るぎなき勝利に他ならない。
「……策が崩壊したとて……!」
しかし——その事実も
彼女達にとっては、導師の命に従いただそのために働く事が全て——それ以外の選択肢はどありえない……存在しえないのだ。
「セブン——これが最後だろう……。付き合ってやる……。」
「……よけいな気遣いを……。」
自分と同じ劣等感と——ただの道具としてしか存在出来ない姿に、
すでに吸血鬼も、己がやるべき事に対し覚悟が決まっている。
――だからせめて、ただの道具として生まれた少女に手を差し伸べたかった。
失墜し——要塞内で失望の奈落へ堕とされた
その制御から外れた人造魔生命機兵——それらが空域に何の指示も無く浮遊する中始まる、主力の少女達だけの戦い。
全てを無くした喪失感さえも込められた、背水の陣と言える流れる様な連携――王女は防戦一方となった。
「そんな——導師の策はもう意味が無いのに……!?」
「セブンさん……レゾンちゃん、どうして!?どうしてこんな——!?」
魔界の衝突回避が確実となった今、もはや自分と導師の軍勢が争う意味は皆無——が、それでも止まらぬ連携はさらに激しさを増した。
魔法少女として成長著しい金色の王女――その彼女でさえ手も足も出ぬ程の攻勢……襲う強襲は共に反発し合っていた姿を吹き飛ばす、長年共にあるかの如き戦友のそれ。
この両者の阿吽の呼吸は文字通りの脅威である。
「悪いな……テセラ。――お前と同じだ……これはただのお節介に過ぎない。」
赤き突撃は王女の懐を
――自分と同じ。
――ただのお節介。
その言葉が意味する物――魔導人形達を身やる金色の王女の双眸へ映り込む、兵器としての存在価値しか与えられなかった少女達。
何度か見たはずの無機質な表情――が、それを忘却させる程に歪むそこには……悲しみとも、諦めとも取れる意志が確かに宿る。
――そして王女は理解した。
今……眼前の赤き吸血鬼は、自分が彼女にした様に――今度は彼女が
吸血鬼の高潔にして思慮深き崇高なる意志――それが王女の内に眠る慈愛と、魔族としての……王族に連なる者としての誇りを目覚めさせた。
「レゾンちゃん……やっぱりあなたは強くて気高く――誇り高き吸血鬼だったんだね……。」
自分が彼女に手を差し伸べた事は間違いではなかった。
その想い――全力で答えたいと、王女の魂は決断を下す。
その想いへ答えるための――唯一の力開放の決断を――
「……信長さん……!策はすでに
戦況の行方を黙して静観していた、魔界に座する策を打ち破りし魔王へ通信を飛ばす。
『……是非もなし!皆まで言うなジュノー嬢……その力はそなたの強き慈愛に託したのじゃ……。それを
『伝えてやるがいい……!そなたの友を想う……意志の力を――救いたいと願うその敵対する者達に!』
魔王信長の視界に飛び込む、首肯を返した少女の双眸は……すでに少女の域を軽々と凌駕し――慈愛と誇りが魔王の如き
直後――王女は広域への
突如として襲う衝撃――防御障壁を展開しつつ導師の主力も弾かれた勢いを殺す様に体勢を立て直し……王女の放つ圧力の先を睨め付ける。
「ローディ君!……無茶するけど――力を貸して……!」
「……ああ、行こう!我が慈愛の
それは今までの無茶のレベルではない事を悟る……
そして――
魔王信長より託された、本来最悪の状況をひっくり返すために与えられた秘策――その起点となるモノを内包する、輸送機コンテナ部ハッチが開放され……その操縦者である
『――こちらは準備万端!行けっ……テセラちゃん!』
ロウの言葉を合図とし金色の王女は
展開される
が――
「――まさか!?させません……!」
起こる事態を視界に捉え、かつて王女と最初に出会った時の様な戦慄を覚えた剣の人形――しかし、あの時とは比べるまでも無く強大な力の本流……させじと王女への突撃を敢行する。
「……邪魔……させないし!!」
しかしそれよりも速く反応した断罪天使――強襲虚しく後方へと弾かれる。
「――いいぜ!……テセラ……そのままやっちゃいなっ!」
断罪天使の言葉に首肯を返す王女は、最後の秘策発動に移る――が、それは本来導師の策に綻びが生じた時点で不要の物。
それでも――レゾンの意志に……想いに答えるために王女は力発動の
「
王女を囲む
術式へ取り込まれるそれは、本来であれば魔界における
『ジュノー嬢……そなたの想いに必ず答えてくれる……!この
魔光が周辺空域へ余す事放たれる。
その中心には金色の王女――もはや姿さえ確認出来なくなっていた。
「――はは……マジか。アタシでもこれは――」
その爆光の中心――只ならぬ気配を感じる銀翼の断罪天使。
狂気を全面に押し出す彼女でさえ、表情から余裕を吹き飛ばす寸前。
収束する爆光――否、その収束した光は王女の姿を取る。
その姿は――
王女の手足を中心に、魔導機械式と思われる鎧――近しい表現ではパワードスーツと称するのが相応しい魔導甲冑……それが中空へ魔光の気炎を吐き滞空する。
背後に
上半身は半物質・半透明の防護シェルが王女の身を守り……肩口から手足と背部に掛けて重なる様に配されるは機械式魔導甲冑。
そこへ幾重に薄く延びるドレススカートを模した姿勢制御サブスラスター ――大型対空砲台群の存在も相まって、その様相は天空を駆ける重巡洋艦……さらに言えば高速戦艦とも取れる。
そしてその手には――
「――本当にあなたは達は……いつもそう――自分たちだけで全てを背負って……。けどその想い――
王女の両の手に収まるは、片刃の魔導刀剣と超射程バスターライフル――視界へそれらを捉えたヤサカニ
当主
二人の体内に埋め込まれた二つの禁忌……武装化した
「……テセラ……それが君の本気か……。」
変貌した力を目の当たりにするも……赤き吸血鬼は多くを語らず――ただ研ぎ澄ませた心を
「――セブン!テセラの力……これを破るには骨が折れる!私が手を貸してやるから――お前も、王女の想いに答えてみせろ……!」
「あなたに言われるまでもありません!越えてみせましょう……希望に選ばれし魔族のその真価をっ……!!」
そして――
今までの激戦が吹き飛ぶかの様な魂の衝突――天の魔族より選ばれた
かたや
最後方……
だが――
吸血鬼と魔導人形三人が織り成す波状攻撃――その激しさは今まででも最高潮……隙と言う隙を、互いにカバーしあう敵対勢力はすでに一つの生命体の強襲となり王女を強襲しているはずである。
だがそれを相手取る金色の王女の双眸は、一切の油断無く……すべての攻撃を視界だけでは無い――思考に描いた各々の戦闘パターンが生む流れと、そこから繰り出される物理的な動きが
瞬間に割り出した想定される攻撃全てを、振るう片刃の
「……くっ!近接攻撃だけではない――魔導式対空砲火の火力も侮れん!」
「厄介ですね!私達の連携も所詮は付け焼刃――しかしあの攻撃連携は、王女と使い魔の信頼その物!」
「――ですがこちらとて、今までの我らではありません!屠りますよ!シルビア、レビン、インテグラ――レゾンの突撃を全力で支援なさい!」
打ち払われた攻撃からの再接敵――
が、それも高火力化した対空砲火で阻まれる魔導人形と吸血鬼――しかし今の敵対勢力には、今までに無い連携……共に戦い続けた戦友の如き繋がりを確かに感じ取る彼女らは、舞う刀剣、重斬刀、四刺刃、半物質化した魔弾を止まる事無く繰り出して行く。
入れ替わる様に王女を強襲する敵対勢力――その一撃一撃へ、今までの偽りの仮面を脱捨てた本質……それぞれの意志を乗せる。
だがそれでも、王女の繰り出した力は操り人形が初めて奮う意志を凌駕した。
王女の繰り出した、
「そう!テセラちゃん……その調子!――攻撃力で
「武術の本質にして基本原理――そしてそれは、テセラちゃんが学んだ……貴女自身の力だよっ!」
視界に繰り広げられる魂の激戦――
「レゾンの支援と言えど、この攻撃は……!一端下がり態勢を――」
「セブンさん!そこは私の射程――逃がしません!ローディ君……クロノストライカー速射モード――同時に
『了解だ、テセラ!
「――くっ、そこはだめだ!セブン、王女の攻撃が行くぞ!注意しろ!」
魂の激突最中、埒も空かぬと後退し体勢をと下がる魔導人形達――が、その後退した空域は、まさにその全域が王女の左手に備わる
後退した魔導人形が体勢を立て直す間すら与えぬ刹那の時間、バスターライフルに備わる射撃形態変換機能をチェンジ――半物質弾頭レールガンモードで追撃に入る王女。
平行して
そこへ貢献するは
「あ~あ。こりゃ凄いわ……。アタシも欲しくなってきたし……。」
眼前の戦闘は正気の沙汰ではない激突――その確たる要因は、王女と震空物質と言う反則的な結びつきが生んだ狂気。
むしろその狂気を体現していたはずの断罪天使も、恐るべき王女の力部分へ嫉妬も辞さぬ感じをチラつかせた。
猛襲と応酬――個の最強と、連携を伴う全の襲撃は最強が圧勝のまま……火砲と魔導刀剣を、吸血鬼と剣の人形へ突きつけ幕を降ろす事となる。
「セブンさん……もう引いて下さい。すでに私達が争う理由が……ありません。」
王女の言葉は全てを失った導師の操り人形達に突き刺さる。
そう――今までは存在すらしていなかった……心へ突き刺さる。
それは同時に……彼女達が、この現世における存在価値を完全に喪失したと言う事実へと変換された。
「――争う理由……か。そう……ですね……もう我々は――我々にはもう、争う理由がありません。それは私達が、存在する理由さえ喪失した――そう言う事ですね……。」
操り人形であった少女は口にした。
初めて生まれた感情と言う物を実感する剣の人形――その感情が最後に感じた無用であると言う現実も含めて、痛いほどに噛みしめた。
剣の人形の言葉へ反論の余地すら見当たらぬ、共にある魔導人形達――口を
――その重苦しい表情を晒す人形へ向け、いつの間にやら戦いの場へ舞い降りていた断罪天使……王女も不意を突かれるフォローを浴びせかけた。
「はぁ~~!?バカじゃないのアンタ……!テセラが言ってるのはそうゆ~事じゃないし!頭があるんなら、ちょっとは考えるしっ……!」
意表を突かれまくった王女が目を剥いた。
自分のセリフにあの
「……えっ!?……ヴァンゼッヒ?さん??ソレハワタシヲ、フォローシテクレタノデスカ??」
「……ばっ!?……あんた、テセラ!そ、そんなんじゃないし――」
「――キヒッ、そーゆー事言うあんたは……とりあえず後で蜂の巣にして――いや、もう作戦は成功したからこの場であんたを――」
「ちょ、だめ!?銃口はだめだよ!?人の額に当てたりなんて事は、だ……だめ~~!!?」
王女が名を呼ぶと、ハッ!と我に返った
そのまま照れ隠しにと、紅潮も覚めやらぬ断罪天使が王女の額へグリグリ銀霊銃を押し当てて――尋常ではない恐怖に躍らされるも……本心に抱く断罪天使の友としての労わりへ感慨を浮かべる王女であった。
敵対者同士の意志と命運―― 一世一代の大勝負。
今繰り広げられた物はそれであったはずが――王女と言う存在の醸し出す暖かで……それでいて親近感すら沸く雰囲気の変貌へ、吸血鬼が心よりの想いを吐露していた。
「……そうか、これもテセラの強さが生み出す世界なんだな……。ハハっ……悪くない……。そう思わないか?魔導人形達?」
王女はしかと目にしていた。
生み出された、戦いの場とはかけ離れた
それは今までの彼女からは想像も出来ぬ、高貴さと優しさを兼ね備えた……高潔なる吸血鬼のそれであった――。
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