7話ー6 策士を穿つ策士
「分かっておられますか?私の役目は、あくまで限られた兵力供給のみ――手出しは致しませんので……。そこはご了承くださいませ。」
「ええ、充分ですよ?それでは貴女も御覧なさい。人類の
反逆の導師側で兵力支援を担う者――あのメガフロート
現在【アリス】の代行者を
「(人類が、因果の流れにおける致命的なミスを犯したのであれば……こちらに付くのも已む無しと思いましたが——これはどうも、
世界の守護者たる使命を持ちし【アリス】の使徒である少女達は、因果を脅かす一方的な武力の
敵対する勢力同士を監視する意味を含めて、双方に付く事で人類の暴挙による無慈悲なる虐殺や破滅を回避する——言わば
しかし――
真に世界の危機が訪れた場合、そのための行動指針を打ち出すのは観測者である【アリス】であり——本来はその指示がなければ行動を起こす事が出来ない。
「(申し訳ありませんが、王女テセラ……後の事は貴女にお任せするしかありません。——ご武運を——)」
故に、ブリュンヒルデ――そしてフェアレ・ディアレと言う存在は監視者の立ち位置を維持し……事の成り行きを、当事者である生命に託すしか無い。
【アリス】の代行者である
****
「……さらに増援!?……いやこの反応は——」
敵部隊後方――
さらなる反応を感知し、
モニター上……高速で飛来する五つの反応を確認——それは真っ直ぐ最大戦力へ向かう軌道を取っている。
「シリウ艦長!敵後方に増援——【
「……導師側主力のお出ましだな……!」
確認された反応から即座に正体を察する
『こちらシリウ!【大和】長距離レーダーで敵主力を確認!
「レゾンちゃん……それにセブンさん達……!」
クールな兄の言葉に反応する
王女の若草色の双眸へ映り込む五つの影は、大気を切り裂き接敵すべく襲い来る。
だが——その影を視認するも、護衛を放棄する事なく輸送機に張り付く王女……それは彼女の思考が、最優先事項を認識している証だった。
「——成長しましたね……テセラ……。」
共に輸送機を護衛する
目覚ましい成長を遂げる少女に賛美を送りつつ、下位種の異形と切り結ぶヤサカニ
自分が今何をすべきか――
決して感情に流される事なく——やるべき事に全力を注ぐ金色の王女の姿は、ヤサカニ裏当主の脳裏へ一つの思考を生み出した。
「……あのミネルバ卿であっても、テセラと同じ選択をする——いえ……あの子は今まさに、ミネルバ卿そのものなのね……。」
それは、王位を頂く者としての使命。
二つの世界の命運を、その小さな双肩に乗せ――成すべき事のために、己の全力を投じる。
すでに王女と呼ばれる少女の器は、王族——それも魔王クラスの存在に相応しき物へと成長を遂げていた。
「……ミネルバ卿と
その確信のまま——裏門当主は輸送機の安全圏到達までの護衛を、万事怠り無く続行するのであった。
****
「ごめんなさい!……今は皆の相手をしている暇は無いの!」
瞬く間に距離を詰める、赤き
が、吸血鬼を前にしながらも
障壁内輸送機パイロットの八汰薙の
しかし——
「インテグラ……!シルビア、レビンと連携し王女包囲網を……!——レゾン・オルフェス!」
「ああ……!」
眼前で繰り出された一瞬のやり取り——王女が事の状況を理解する時間が、僅かな判断ロスとなる。
対立構造にあったはずの
「……うそ……!?何で……セブンさん達と仲が悪かったんじゃ——」
その攻撃の
後方に引けば、改称された三体の
「受けなさい!王女テセラっ!」
残り一体……
思考のロスが、王女の完全な形成不利を呼び込んだ。
「——テセラちゃんっ……!シリウさん……もっと近づけないの!?」
『無理だ!彼女達からすれば、こちらは巨大な動く的でしかない!……残存兵力が多いこの状況では——』
金色の王女も予想だにしない敵対者主力の共闘。
思考の片隅で、敵内部での軋轢を想定していた王女——不意の襲撃をまともに受ける寸前の防衛行動
最大戦力の動力機関に
『ちょっと……!?あれまずくない!?——こっちは彼女達に手出し出来ないし……!ヤバイって……!』
故にその銃口を、人ならざる人形達に向ける事は無い。
刻一刻と削られる猶予——しかし……この時点ではオペレーション
そのタイミング……上空より突如として舞う声が、狂気の嘲笑を敵対者へと浴びせ掛けた。
「おや~……?何~あんたら……えらく仲良しこよししてるし……!クヒッ——」
「大丈夫……あんたらは、すでに裁きの対象——仲良くまとめて主の裁きの餌食だしっっ!」
ゾクリ!と警戒を吹き出す敵対者の少女達——咄嗟に展開する魔導防御障壁。
対する金色の王女を包む
が、不安の入り混じった様な顔を声の響く上空へ向け——
——その射程中心……王女が滞空する空域を標的にした裁きの神槍を——
「テセラっ!あんたはそこ動くなっ!」
「——えっ!?……ちょっ!??」
刹那——千の煌めき……半物質化した
一歩間違えれば、王女をも射抜かんとする裁きの閃条の雨——断罪天使が言うまでも無く、王女は身動きさえも出来ずに戦慄してしまった。
「
辛くも障壁の恩恵で難を逃れる剣の人形——現れた断罪の使徒を視界に捉え驚愕……それは共にあった魔導人形達も同様であった。
その中で……赤き吸血鬼は想定内と言った感の視線を、光の狂気
作戦遂行への暗雲を打ち払う、駆け付けた断罪天使は澄ました表情——王女の隣へ舞う様に居並び、神槍の餌食になりかけた少女の抗議……目尻を潤ませた怒り顔を尻目に告げた。
「あ……アーエ——ヴァンゼッヒさん酷いから!私ちょっとびびったから!?」
「ククッ……あんたにしちゃよく耐えた方だな。見な……そろそろ始まる頃だしっ!」
断罪天使の言葉を合図に始まる起死回生の策。
魔導回線の強制ジャックによるノイズが発生し――現れる影は、不穏を
冷徹をに描いた表情――顔の半分に魔術タトゥーを
生命に反逆を企てし策謀の導師ギュアネス・アイザッハが、その回線を聞く全ての者に対し……愚かなる野望の全容を突き付けた。
『我らに敵対する諸君、よくぞここまで
その言葉が無事ストーンヘンジへの空路を取った他の二機に対し——たった一機……
『我らは、あなた方が輸送する全ての
宗家の策としては、三機に分けるか一機で行くかに対し議論に議論を重ね――
結果――オペレーション
『もうあなた方地球勢も、魔界の者共でも……両世界の衝突を回避する事は不可能。魔界における魔王を三人も欠いた状態では、彼らとて滅亡を待つのみ——ようやく私の悲願が達成されようとしているのです……!』
冷徹なる表情の中、復讐に燃える狂気が
魔界で最高の頭脳を謳う導師が、高らかと笑い勝利に酔いしれた。
――だがそれは、魔界でその瞬間を待ち受けた魔王にとって……秘策を放つ決定的な合図となる。
導師がジャックした魔導回線。
そこへさらなるハッキングによるノイズ。
己が醜悪な野望達成目前の反逆の導師要塞内――彼が視認するモニターへ一人の男が……天下布武を成し遂げし、傲岸不遜なしたり顔の王が映し出された。
「……何者だ……。」
己が勝利の演説を邪魔された反逆の導師——敵意剥き出しの尋問を、モニターに現れた男を叩き付けた。
「勝利に酔いしれるのも悪くはない——が、その様な
反逆の導師を見るや
「……何者かは知らぬが、三下の
明らかな
同時にその回線は金色の王女や宗家の者達に向けても、余す事なく公開されている。
――無論、敵対者の軍勢にも……その映像は流された。
「……なんだ、あの者は……!」
しかし、赤き吸血鬼だけは強い感情の揺らぎもなく――ただ静観するのみであった。
『三下の
「――魔王……だと……?」
『……おおっ!ワシとした事が……ぬかったわ……。まだ名乗りも上げておらなんだのぅ、失敬失敬――』
反逆の導師の聴覚へ突き刺さる三下と蔑んだ者の言葉。
冷徹であったはずの導師――そこに底知れぬ怒りが満ち始める。
その僅かな動揺を見抜く魔王を宣言した男は、
下に見下し、徹底的に
『このままでは失礼に当たる故、こちらも名乗ってやろう……!――その耳にしかと刻め……ワシの名はノブナガ・オダ・ダイロクテン――』
『
一瞬の静寂――それを破ったのは、反逆の導師が吐き出す
「……クククっ……ハッーッハッハッ!なんとも
「――いいえ、
反逆の導師の嘲笑へ被せる様に……
――その偽りなき言葉の羅列は、反逆を企てる愚か者の動揺を激しく揺さぶるには充分過ぎた。
「……バカな……!?そんな事があるはずがない……!私が魔界と
「ええ、信長様は実質戦闘型の魔族とは、無縁の身体で転生しております。――ですが強さとは何も……戦闘能力がモノをいう訳ではない事を――策士である貴殿なら重々心得ているはずですが……いかがですか?」
反逆の嘲笑が崩れ――増長に酔いしれた仮面が剥がれ落ちた。
魔界における随一の策士である自分に……知略と言う武器を用い、真っ向から相対する眼前の存在に
「……ま……まさか――貴様らは……貴様らの力と言うのは――」
「もうお気付きでしょう?我が主君信長公は〔軍勢〕と言う名の力と――それを生み出すことが出来る、魔界でも比類なきカリスマを持ち得た王……。あの荒廃した
崩れ去る導師の策略――導師はその事態に気付けたはずである。
であるが――その様な事が起こりうるはずがないと決めて掛かっていた。
そう――自らが生み出した、思い込みという敵に気付く事が出来なかったのだ。
そして、その事態――導師の策略上、魔王が存在しない事前提の策の中で最重要点……それは
「――ああ、加えて導師殿へお伝えしたい事があります。現在
「そして――
放たれたのは、この状況における決定打――策に溺れた導師が、己でその策のために用立てた私設要塞の中で崩れ落ちた。
地球側でさえも予想だにしない吉報――驚愕と共に、心の重荷が一気に軽くなる宗家面々と魔法少女達。
天下布武の魔王とその懐刀は、反逆の導師を欺くために味方すら欺いたのだ。
「――おのれ!貴様ら……
湧き上がる怒り――導師にとって優位性など欠片も吹き飛ばされた状況。
魔導モニターを未だ席巻するしたり顔の天下布武へ、鬼気迫る形相で殺意の視線を叩きつける崩れ去った導師。
その策士へ向け
隣り合う天下布武の言葉を代弁する様に――
「――我ら新参者です……が、不届きながら
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