7話ー5 悪夢の再来 人造魔生命機兵



『英国近海上空!多数反応出現……野良魔族——これは飛行形態!?グレムリン級小型戦闘種、及びガーゴイル級中型戦闘種を確認!しかしこれは——』


 日の本の最大戦力艦橋より鳴り響く通信へ、あらぬ驚愕がそれを聞く各方面へ弾ける様に伝達される。


 宗家の輸送部隊の到着にあわせたかの様に出現する夥しい数の異形。

 しかし本来、地球に現れる野良魔族はあくまで生命体の形状——【害獣】と言う霊災の扱いである。

 が——眼前へ展開する異形は端々へ機械的な強化を施された人造兵器のそれ。


『テセラ!【日の都の暁ライジング・サン】と共に輸送機の護衛へ!桜花おうか殿は【大和】周囲の近接防御を!』


 各輸送機防衛に付く、ヤサカニ裏当主金色の王女テセラ――そして【日の都の暁ライジング・サン】。

 遠方より現れる増援に対し、射程と威力に勝る魔導超戦艦【大和】で一掃し——対空防御を抜けてくる野良魔族を、クサナギの小さな当主桜花が迎え撃つ布陣。

 が――布陣へ強襲したる異形の群れは、鎧袖一触とは行かぬ手強さを醸し出す。

 相手取る反逆の導師が、策謀の徒たる所以を如何なく発揮していた。


『各員、相手は野良魔族を魔導技術で半機械化しています!今までと同じでいると痛い目を見ますよ!』


 輸送機操縦者にも緊張が走る。

 宗家に属する対魔部隊員により構成されるそれら操縦者は、眼前の襲撃者を睨め付けながら——己に課せられた、輸送任務達成への覚悟を新たにする。


 その三番機—— 一際繊細な操縦を披露する機体コックピット内から、金色の王女へのエールが放たれた。


『テセラちゃん!オレ達が一番危ないポジションだ!けど——こっちは任せなっ!』


 王女への放たれた力強きエール……八汰薙やたなぎの熱血漢――弟のロウである。

 八汰薙やたなぎが誇る担い手達の卓越した操縦技術は、乗る物を選ばない事で知られる。

 クールな兄シリウは魔導超戦艦【大和】の指揮に付き、クサナギの小さな当主と共にあるが——金色の王女が護るべき輸送機操縦を買って出たのは、他でもないロウ本人だった。


「ありがとうございます!ロウさんの機体は私が護ります!……絶対成功させますよ、この任務!」


 宗家襲撃の際——普段のはんなりな友人若菜とのやり取りを吹き飛ばす、勇ましき雄姿を目にしてからという物……王女の憧れの対象はヤンチャな弟の方へと移っていた。

 自分の窮地に駆け付けた騎士ナイト——宗家担い手に受け継がれる〈鋼鉄の白馬ペガサス・オブ・メタル〉を駆る、白馬の騎士ペガサスナイトのインパクトは絶大だったのだろう。

 

 そして入れ替わる立場——金色の王女が護るべき物……護るべきパイロットとなる彼の為、決意と共に輸送機周辺空域を舞う。


 程なく任を全うする為航空を行く三機の輸送機が、半物質化した魔法力弾の雨に包まれる。

 襲来するグレムリン級・ガーゴイル級と称される人造魔生命機兵——個々の戦力は魔法少女にすら劣るが、それが群れを成すなら話は別……構える短・重機関砲に小威力の魔導集束火線砲は、弾幕の雨と言う脅威と化した。


 魔法少女及び宗家側が、今までのままでいれば寝首を掻かれたのは明白——導師サイドの有する軍勢が、と言う牙を剥いたのだから。


「ちょっと!?こいつら普通に砲撃してきてる!?」


 不意を付かれたのは暁を冠する伝説ライジング・サンに属する支部局長殿沙織

 機体を大きく旋回——そのまま小型で纏わりつく様な下位種の群れを、集束火線砲で薙ぎ払う。

 この伝説の女性陣代表——かつては地球でも稀に見る巨大さを有した、【特機】の手綱たづなを握っていた腕は伊達ではない。


「確かに、今までの野良魔族相手と思っていると寝首をかかれるな!」


 同じく暁の伝説ライジング・サンに属する頭脳派警部奨炎も、機関砲の迎撃と同時に近接攻撃——半物質化量子振動ブレードで各個撃破へと持ち込んだ。


「各輸送機を確実にストーンヘンジへ!時間に猶予はないぞ!」


 そして暁の男性陣——もう一角の伝説、機兵教導官闘真の振り被る大斧と一体となるビームハルバード……下位種中位種の区別無く、襲う機兵の群れを霞の如く薙ぎ敵中枢へ切り込んで行く。

 二人の伝説の双角……頭脳派警部奨炎機兵教導官闘真いずれも支部局長殿沙織——さらには現在危機防衛作戦の為、関係各国への輸送防衛部隊臨時航行に関係する許可取り付けに尽力する防衛省長官音鳴……その彼らからすれば、かつての巨大なる機動兵装に比べれば取るに足らぬ手足。

 

 それにかかれば例え野良魔族が著しい強化を施されようと、所詮しょせんは雑魚——襲う機兵の群れが文字通り、薙ぎ払われる霞の様に爆散……輸送機はその度に、前へ前へと送り出されて行く。


 だが――


『敵後方の空域に増援反応——上位種反応……レッサーデーモン級です!』


 導師側の増援——宗家側も想定の範囲である上位種野良魔族・レッサーデーモン級多数出現を確認。

 直後——明らかに下位種を上回る体躯が埋め尽くす空域より……高威力の魔導集束火線砲が無数の閃条となり襲来した。

 その目標とされたのは三番機——八汰薙の弟が操縦する輸送機……そしてそれを護衛する金色の王女である。


「行くよ、ローディ君!」


『ああ!了解した……ボクの素敵な主!』


 王女の言葉に答える創世の使い魔ローデジ——その肩口に寄り添う姿より、魔法術式発動にて量子化……同時に出現する多次元量子跳躍転移陣M・D・Q・S

 魔導文字を散りばめたそこから、大鷲形態へ変化した創世の使い魔が魔法陣と共にその同等数出現——そのまま極大術式発現の合図を放つ。


「テセラ……術式展開をっ!」


 王女の膨大な魔法力マジェクトロンが、空域全体を眩き閃光で満たし——創世の使い魔を形成する無数の量子体へ、無尽蔵とも思えるほどに注がれる。

 高密度に物質化した大鷲の使い魔は、さらにその周囲へ絶対防御障壁を張り巡らせ……その総数から来る障壁密度が巨大なる障壁空間を形成——


超振動ヴィブラス……小宇宙解放クオス・マイクス——魔導回路接続マギウス・ゲイト——」


量子跳躍絶対障壁クオント・ハイペリオ・アブソール・シェイルっっ!!」


 空域を埋める障壁が形成されるか否かの刹那、異形の機兵の放った十字砲火——広域からその一点へ……容赦無き無情が襲い来る。

 しかし——無数の閃条が輸送機の飛行する空域へ到達する事は無い。

 金色の王女がこの時の為に、共にある創世の使い魔と共に編み出した護りの力——かつて赤き少女との決戦時に用意した奥義に対なす、広域絶対防御術式。

 広域集束絶対攻勢術式を、絶対の護りへと変化させた秘策であった。

 

 そして……その術式展開に必要な、属性反応域エレメール・リアクティは三番機護衛に付くと同時に展開を終えている。

 それは金色の王女の恐るべき成長——先の戦いの数々を越え、確実に魔法少女としての力を高めた彼女……もはやこの程度の襲撃に遅れを取る事など無かった。


 再び増援――さらに大量の上位種魔導機兵群。

 すでに出現した大群も、伝説の駆る各機動兵装群と交戦に突入——が、如何に伝説らが鎧袖一触の戦力を奮おうと……増加する増援は重荷となる。


 これ以上の敵増援部隊襲来は、時間の猶予消滅を意味していた。


「——全く、ご丁寧な策だな。二重三重の増援部隊による妨害工作……確かに機動兵装だけではらちが空かない所……。だが――」


 刻一刻と迫る時間猶予消滅——それはクールな兄の思考以前に、守護宗家会議でも戦況変化へ織りこみ済み。

 だが、……その最強を誇った火砲が、古の超技術ロスト・エイジ・テクノロジーによる復活と言う劇的な進化を経てそこにいるのだ。


 すでにその増援部隊に向け、船体を旋回する巨大なる最大戦力——その口火を切るは、古の超技術の咆哮を撒く46センチ三連装砲……砲塔が電磁式モーター音の唸りと共に弧を描く。

 動力である霊力を反転し発生した、反統一場粒子ネガ・クインテシオン——そこより大気圏内仕様として抽出された重力子グラビティーノが、砲身を走る電子の帯へ注がれ——

 充填された 反統一場粒子重力集束砲ネガ・クイント・グラビトン・バスターが、蒼き大地の航空を侵す魔の浸蝕へ向け……巨獣の咆哮の如く放たれた。


「蘇りしその砲火——今がその力を見せる時……!魔導超戦艦【大和】——主砲斉射……ぇぇぇーーーっっ!」


 歴史上に於いてもその巨砲の轟き——甲板に居ようものなら、射撃刹那の圧力と衝撃で軽々と乗組員を吹き飛ばす逸話を晒すそれは……超技術による強化を受けてなお健在。

 放たれた九つの閃条は、歴史上の逸話と比べるまでも無く強力無比——使用されるエネルギーは、地球大気汚染を考慮し重力子グラビティーノのみを抽出したものだが……それを差し引いても桁違い。

 大気を爆豪に包む対魔巨砲の咆哮は、敵後方の増援を一撃で薙ぎ払い——光を捩じ曲げるような帯を描く、高集束状態の重力子グラビティーノが大気の素粒子と反応消滅……粒子干渉で遥か高空の電離層をもかき乱す。


 その最大戦力甲板上で待機中だった小さな当主桜花——事前に知らされて対応済みであったにも関わらず、主砲斉射の轟音と爆風の余波を受け吹き飛ぶ寸前……、クールな兄へ非難を投げつけた。


「……ちょっ、危なっ!?シリウさんこれ——むちゃくちゃ強烈なんですけどっ!?」


 研ぎ澄ませたはずの覚悟が、一瞬で吹き飛ぶほど強烈な衝撃の余波——流石の彼女も可愛い怒り顔をプンプンと振り撒いていた。

 艦橋にいるクールな兄の方へ、非難を投げていた小さな当主——が直後、その可愛い怒り顔も瞬時に凛々しき双眸のそれへ切り替わる。


「艦後方――ガーゴイル級多数!すでに攻撃射程圏内……シリウ艦長!」


「くっ……入り込まれた!対空砲火――こちらへ近付かせるな!」


 向けた視界の先、同方向の遥か後方——数十体のガーゴイル級野良魔族。

 直線状に並ぶ日本最大戦力艦橋が、その攻撃射程圏内に入る。

 刹那――クサナギの誇るへ、炎帝の如き神霊気が舞い降り……蒼炎が噴出す様にその背へ纏われた。


「カグツチ君っっ!」


『承知!』


 襲撃を察知したクールな兄……対空防御を指示を出すもすでに最大戦力のふところ――しかしそれよりも速く……航空を一筋の閃条が貫いた。 


「クサナギ桜花おうかっっ!推して参りますっっ!」


 纏う蒼炎は炎の翼――裂帛の気合が凛々しき少女より放たれると、音速の閃条が無数の異形とすれ違う。

 ――まさに瞬殺……無数の閃きは対魔の剣閃。

 炎の剣閃が魔導機械の異形ガーゴイル級を包んだ瞬間、それらは爆豪と共に一掃される。


「クサナギ流閃舞闘術……乱舞弐式――剣の舞【焔帝乱舞えんていらんぶ】!」


『ありがとう桜花おうかちゃん!だが気を付けてくれ――【ヒノカグツチ】が機関と霊力接続している間、迂闊に離れると【大和】内の彼との接続が切断される!』


「はい!【大和】周辺空域の半径500メートル内ですよね!ご忠告、感謝です!」


 魔導技術の補完にて稼働する船体は、神霊【ヒノカグツチ】の膨大な神霊力を動力の起爆剤とする。

 古代の超技術形態に準じて建造された蘇りし最大戦力大和は、本来その機関運用のために古代技術上における禁忌のエネルギーの一つ統一場粒子を用いるが――技術制限下では炎の破壊神の力を相転移……対なる魔霊力へと変換し、航行を可能としている。

 

 金色の王女と赤き吸血鬼の起こした【惹かれあう者スーパーパートナー】の実証事例――そこに存在する、相反するエネルギー運用上の懸念解消が光明となり……宗家のお抱え技術屋集団真鷲組がギリギリのタイミングで運用可能レベルまで漕ぎ着けた。

 神霊力をダイレクトに魔霊力へ変換――そこから反統一場粒子ネガ・クインテシオンを生成し動力とする……言わば、エネルギー上の制限下における発想の転換の総動員であった。


 英国への震空物質オルゴ・リッド輸送任務は、地球側の想定しえた状況――導師側の魔族兵団との直接対決。

 それはまさに――

 英国近海高空へ広がる様相は、かつての人造魔生命災害バイオ・デビル・ハザードの惨劇を守護宗家の面々の思考へ蘇らせた。


 その最中……導師側に悟られぬ様手配された回線の向こう――遥か数十天文単位の彼方で待ち構える者。

 オペレーションD・A・M・Dダムドの鍵――かつて蒼き星で生涯を駆け抜けた天下人も、必殺の策発動の時を魔界が一世界ティフェレトにて静かに待つ。


「……これ程の激戦になるとは……。まさにジュノー嬢と守護宗家――我らの子孫が頼みの綱じゃ。」


 遠く離れた、生前――とは最早言えないが懐かしき故郷日の本

 その世界の憂う事態に、手をこまねいて見ているしか手段のない天下布武の魔王信長懐刀光秀


「あの導師が己の力に酔いしれ、判断を誤るその瞬間こそ――我らの出番ぞ。……心してかかれよ、光秀!」


「御意にございます……!」


 金色の王女と子孫達の奮闘が導くその――ただひたすらその瞬間のために、天下布武の魔王は座し……心を研ぎ澄ませるのだった。



****



 王女と宗家の部隊……それに対する導師の軍勢が会敵する中。

 程なくして、ストーンヘンジ周辺にも同様の部隊による襲撃――が、こちらは地上部隊で構成された野良魔族集団が群れを成す。


「……エルハンド様!これどうなってんの!?無駄に野良魔族が強化されてるし!……アタシ聞いてないし……!」


 多分に漏れず溢れかえる、魔導機械強化を受けた上位種野良魔族。

 レッサーデーモン級を初めとした軍勢を相手取る、執行部隊最強エルハンドはその状況――主の力の代行者ジューダス・ブレイド配下らと共に討伐に当たりながらも、戦況を見極めるべく鋭き視線を巡らしていた。


 同時に執行部隊最強は反逆の導師が張り巡らす策――その本質をすでに見抜いたのか……共に機械化魔族討伐に当たる断罪天使ヴァンゼッヒへ指示を飛ばした。


「ヴァンゼッヒ……君は魔族の王女の所へ向かい給え!こちらは恐らく足止め程度――敵本隊は確実に、王女と【震空物質オルゴ・リッド】輸送部隊襲撃に向かっている!」


「けどエルハンド様……こっちも充分危険じゃん!それに、部隊の皆は今回アタシの支援のみだって――」


「ヴァンゼッヒ……君は親友の危機を見過ごす様な、義も無き者だったかね?」


 断罪天使の言葉を遮る様に返す執行部隊最強――その聖騎士の問いに少女も言葉を詰まらせる。


「そろそろ自分の気持ちと向き合ってみてはどうかね?君が自分と向き合える日々へ踏み出す――私にとっては、その君の成長こそが切なる願いなのだ。」


 それは、闇の任務に全てを捧げた男の――切実な想い。

 確かに少女はそれを受け取った。

 自分をこの世に繋ぎ留めてくれた恩師の言葉――未だ狂気を心に飼い続ける断罪天使……しかし確実に、偉大な言葉は断罪天使が未来へ向かうその背を押し出した。


「――し……しゃーねえなもう……。まあ、またあの魔王に気圧けおされたくないから行って来ますよ……。」


 明後日を向き変わらずの憎まれ口――だがそれは、陶磁器の様な白き頬が紅潮したのを見せぬため……あこが最強の聖騎士存在が発した言葉は、断罪天使の胸を歓喜に躍らせるには充分過ぎた。


 そして――陽光を反射させて舞う翼。

 世界に仇名す魔を滅する断罪の銀翼ヴァンゼッヒが、決死の作戦に身をゆだねる希望の王女テセラへ向けて――支援と言う名の友情を引っさげ……聖なる雷光と化した。

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