ー発動 光魔危機防衛計画ー
7話ー1 魔王信長、輪廻の果てより
まだ暁の大国が日の本と呼ばれていた時代――
乱れた世を正すため、各地で名を挙げた武将が
その時代にて——後に語り告がれる天下統一を目前に、家臣による謀反により討たれたとされる天下の武将。
――織田信長――
だが守護宗家に伝わる裏歴史書には、世には出る事のない真実が記される。
織田信長という武将がたった一人で戦い続けた闇――その名を【
「——ちょっと待て……!織田信長とは……あの!?」
あまりの衝撃に、普段論的思考で冷静さを失わない
流石の事態に、いつもの論理が通用しないのであろう。
上がる驚愕の声——しかし理解に苦しむ、日の本の歴史からは無縁な
踊る疑問符が脳裏を埋め尽くしていた。
「(あの、
「(あ……あはは。テセラちゃんは知らないよね……。あの人が紛う事なきご本人なら、言わば私達日本人の遠いご先祖様なんだよ……?)」
眼前に現れたる存在が本人であるならば、決して失礼のない様にと……
小さな当主としても教育課程で学んだはずの、名前と容姿が一致しない状況に困惑は隠せない様であるが。
『まあ、皆の者が驚くのも無理はなかろう。だがこの魔界という世界――案外地球という星と存在的に近いかもしれんぞ?』
『なにせ……太陽系に現存する生命の
日本の大地に住む者にとって、天下人を名乗る者の発言が異様な違和感を放つ。
自分達の時代から軽く数百年ほど前、宇宙の文明から抜け落ちていた時代の先祖が太陽系だの——
しかし、違和感を感じながらも不思議となくはないと思えるのは、かつて織田信長という武将が、歴史に残る
『……少なくとも……お主らが
天下人を名乗る者はその口より、
それは即ち——宗家の表に出ぬ裏歴史書の記述が、紛れもない真実である事を示していた。
「——やはり、宗家に伝わる裏歴史書……真実であったと。信長公は【
驚きの中——クサナギ表門当主は、歴史の真意への多分な興味と共に質問を送るが――
『ああ、待て待て。この様な機会はまず無いゆえ、積もる話もあるが——今はもっと大事な事があろう?』
その言葉に現実へ引き戻される宗家面々。
と、しばらく押し黙っていた議長のヤサカニ
「ひとまず転生うんぬんの件はさておき、信長公……あなたがそこに――【魔王】の座に就いている、それが重要なのでしょう?」
にやりと上がる口角と共に、したり顔を浮かべる天下人を名乗る者――その表情は、理知に富む子孫の対応への賞賛である。
その賞賛も程々に事を順を追って進める
『ほほう——流石は三神守護宗家の未来と言われる当主殿であるな。察しの通りじゃ……。結論から言えば、ミネルバ卿の謝罪の意に我らの存在が関与しているな。』
そして天下人を名乗る者は隣り会う画面外——そこへ控える配下を一瞥し、モニター前へ誘導する。
『ここからはお主の出番じゃ……頼むぞ光秀。』
天下人が口にし呼び寄せる者の名——それを知る日の本の子孫達は、最早驚愕が斜め上を遥かに通り越す。
同時に眼前で天下人を名乗った者が、疑い無き本人である事実を否応無しに叩きつけた。
したり顔のままモニター前に座する天下布武の片割れ——現れたる丹精な顔立ちに……すでに馴染んだ風の、魔界に合わせた和装を多分に含む着衣の男性。
『ふぅ……想像はしていましたが、殿を上回る勢いで驚愕されてしまいましたな。私は信長公に使えし、参謀役――明智光秀と申します。まあ、日の本の子孫方はよくご存知でしょうが……。』
ごほん、と必死で未だ驚きの中にありながら、浮かぶ動揺はそのままに話を元に戻そうとするヤサカニ裏当主。
そして……説明が添えられるも、やはりいまいち状況が飲み込めない王女と断罪天使。
「で……では、今回の本題である両世界の防衛作戦名を〔
天下布武の
****
「(……全く……何であたしが……。)」
本国より命が下る。
親愛なるエルハンド様――それはマジですかと問いたくなった。
そもそも学園での生活と言う、めんどうな条件の中での勅命って事もあり――めんどくささがうなぎ上りだ。
てかそもそも、あたしの正規の任務は野良魔族の撃滅――正直マジうざい。
「(確かに主の守りしこの地球がなくなるのは、大問題だけど……。)」
でもしかたなく、この
ここで何やら会議があるらしい。
「(……そこに何であたしまで巻き込むかな……。)」
会議とか大人の仕事だろ……。
あたしは関係ないし、興味ないし。
それもこれも全部あいつのせいだ……。
「(王女テセラ……!)」
考えるだけでイラついてくる。
あぁ――あの面目掛けて霊銃撃ち込んでやろうか……。
「……アーエルちゃん……なんかよからぬ事……
……なんでこんなに
「なっ……別に何も……。
「そお?ならいいんだけど……。あっ……もう少しで会議始まるよ?」
……だからあたしを巻き込むなよ……。
……はぁ……帰りたい……。
****
地球と
『まず最初のプラン、輸送任務について――
まず宙空モニターへ浮かび上がる作戦概要――地球の裏側への最短とされた航路が記され、必要になる各輸送部隊全容が走る電子の羅列でモニター画面を埋め尽くす。
それに合わせた
『この際、想定される導師側戦力……魔法少女と
「追加戦力……もしや上位種の魔導強化魔族では?」
想定された戦力と言う言葉で脳裏に過ぎる心当たりを、もしやと告げるヤサカニ裏当主――その解へまさにと
『ご察しの通り――当方の想定の要因となるのが、導師ギュアネスが魔界で起こした行動の一端です。彼が魔界の動力の要とも言える
『――
魔界の情勢を知らぬ地球勢――であるが、懐刀の公言する内容はある意味世界……引いては宇宙共通とも言える知略策略に関する論議。
同様の面での手腕に定評のあるクサナギの
「確かに魔界には、魔神帝ルシファー殿を初めとする大軍団が
クサナギの表当主へ首肯――そのまま懐刀は、今しがた論じた点に
『そこで、上位種強化魔族が大量投入された場合の対応として――現在守護宗家にてすでに竣工し……海原への出航を心待ちとする、我らが日の本の存在しない最大戦力を海上より護衛に付ける――』
『そちらの最大戦力起動には、
「はい!そちらは私とカグツチ君に任せて下さい。」
クサナギの小さな当主も覚悟は上々――意気揚々と日の本の祖先の男へ首肯と凛々しき双眸を返す。
さらに続ける懐刀は含みを篭めた眼差しを、銀の御髪を指に巻いてくりくり弄り……明後日の方を向く少女をモニター越しで一瞥し――
『――そして万が一、英国マス・ドライブ・サーキットである【ストーンヘンジ】に攻撃の手を向けられた場合の対応として――』
只ならぬ視線を感じた断罪天使が、ギクリとモニターへ向き直り――声を荒げて抗議を返納した。
「ちょ……!?アタシを英国に行かせる気!?冗談じゃない!……つかなんでアタシにそんな――」
断罪天使の強い拒絶には、多分に少女の個人的な事情が含まれているのだが――事を聞き及ぶ小さな当主が、彼女へ最も有効とも言えるしおらしい友人の懇願モードを繰り出し――
「……アーエルちゃん……お願い。想定する被害が被害だけに、対魔専門としては一番あなたが頼りだよ。だから――」
「……あー……しゃーないな……分かったよ。そっちはアタシがやるし。」
小さな当主の懇願モードは、一切的を外さず断罪天使を落としきり――抗議で熱くなりかけた銀嶺の少女は、借りてきた猫の様におとなしくなる。
少女達のやりとりを微笑ましく見守る天下布武の懐刀が、成り行きが集束したのを見計らい事のまとめに移る。
『以上が輸送任務のプランとなります。なにか気になる所は?』
しかし全容を確認したそこで、大きな気がかりにぶち当たったヤサカニ裏当主が、一つの重要点について言及を求める。
「……明智殿……一つとても重要な点が抜けてはいませんか?――仮にも相手は魔界一の頭脳を持つ策謀の導師と呼ばれる者……この策を見抜く事は――」
ヤサカニの当主が言葉にしたのは、今回の件における重要点――この様な事態を引き起こした者の素性において最も危惧すべき要点である。
が、それを聞いた天下布武の懐刀はにやりと己が主君と目を合わし――
『その質問はごもっとも――だが【マリクト】には今、織田信長という魔王が即位している。それはあの導師が魔界より失踪して僅か後より、二年弱の間に起こった劇的な魔界の変化。』
『ですが……あの導師はそんな事は想像だにしていない。当然です――彼の思考は、魔族特有の長き寿命により構築された物――想像だにしない速度の変化に対応出来ない、思い込みの壁が存在します。』
饒舌な懐刀の論議に、さすがの地球勢もその意図を測りかねる。
そこへかつて天下布武に仕え続けた戦国の名参謀が、モニター越しに映る地球勢を一望し――
解へと繋がる決め手を、輝ける未来を生きる子孫へと贈る。
『あなた方はいったい、どれ程の速度で国をまとめ――経済の高度成長へと漕ぎ着けましたか?』
世界とは――ある一定の成長過程を境に、急激なまでの成長を遂げる事で知られ……そこに人の理解の移行が追いつかぬ事が、逆に成長の妨げとなる場合も多分に存在する。
百年にも満たない寿命の中で生きる人類が、行き急いだ結果とも言えるその事象――しかし魔界の魔族における寿命の観点からすれば、その生き急ぐ人類の急激な成長を認識する事は極めて困難な事と言える。
「……そうか!……地球の人類であった信長公が、瞬く間に魔界の【マリクト】を掌握するという想定が出来ない――いや……そもそもそんな魔王が存在するはずがない、という思い込み!つまり導師には……その認識と常識のズレこそが付け入る隙となると!?」
【マリクト】を掌握した魔王が、魔界で名のある者であれば導師にも理解が及ぶ。
だがその【マリクト】に今いるのは、地球は日本の戦国時代――怒涛の勢いで天下まで登りつめようとした歴史に名を残す戦国武将。
導師は恐らくその様な事は知る由もない――ヤサカニ裏当主の思考が研ぎ澄まされ、懐刀の問い掛けから決定的な解を導き出した。
その光景を――子孫が鋭き知性で、状況を読み解く様を目の当たりにしたかつての名武将……織田信長は満足げに語る。
『クククっ……是非もなし。光秀よ……これこそが我らの守り抜こうとした日の本の子孫……この者達なら日の本――ひいては地球の未来を託すに足ると言えるのぅ……。』
そして、最初のプランの決定打――あの策謀の導師を謀る術。
その最も重要である策の起点となる者が、信長公によって指名される。
『この最初のプランが、より確実に成功するために――ティフェレトの王女ジュノー嬢よ……お主が鍵となるのじゃ!』
その指名の先――金色の王女が僅かの驚愕を塗し、しかしその言葉に自ら志願するかの様に……魔王として再輪せし戦国大名へ若草色の瞳を魅せ付ける。
滾る己が意をその輝く双眸へ宿して――
「……はいっ!私に出来る事なら……やってみせます!」
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