6話ー5 西の居城 W-1新呉市
「現時刻より、宗家の指揮系統を、東首都より西の首都へ。
導師ギュアネスの勢力による軍事施設襲撃を受け、再度の襲撃の可能性を
その先に選ばれたのはメガフロート
瀬戸内の島々を見渡す中心地、中四国から南海方面を守護する大型海洋設備。
今回の地球と
そして間もなく開始されようとしている、両世界の防衛計画の最初のミッション――
そのための事前会議が開かれる。
「いえ——ですから何度もお断りした様に、すでに竣工間近ですので。はっ??いや……二番艦は——」
その会議が開かれるはずの
メガフロート施設管理を任される
「はぁ~……いったいどこから聞きつけてきたのよ……。宗家の極秘事項じゃなかったの?」
電話先で局長殿の頭を悩ますのは、世界崩壊の危機を免れて以降——旧世代の思考のまま、未だに瀬戸内近隣で世界の求めぬ無用の長物を作り続ける三流企業。
すでにその企業が生み出す物は、大型ゴミ放置による世界規模の環境汚染拡大を問題視され——世界諸国から再三に渡り製造停止を突き付けられる、時代遅れの産物であった。
その企業のあまりに
「入るぞ……ってまたあの企業の対応か?」
「あっ、
「ていうか、どこからこの情報聞きつけたのかが知りたいわよ……!宗家極秘じゃなかったの!?」
彼は言い様のない面持ちで後悔を顔に浮かべる。
会議に先立ち、必要な事項を確認に来てみれば当の支部局長――彼のパートナーである女性の
「……落ち着け……。ここは瀬戸の中心――その筋で情報屋が動いた可能性もなくはないだろうが、ちょうどそれも含めて確認したい事がある。」
「——まあそもそも、あんな張りボテ企業が建造する代物ではロクな目に遭わん。それを扱って危険を被るのは我々だ……しっかりお断りを入れておいくれ。」
なんとか支部局長のご機嫌を調整した、
「それより、この【新呉市】――警備は万全か?導師の勢力による襲撃前……
その報告に元の調子を取り戻した支部局長女性が、ようやく纏う凛々しき雰囲気に見合う冷静さで返答する。
「それについては問題ないわよ?……あっちは都市部復興中でもあるから、その影響で警備が手薄だったみたい。本来万全な設備体制のメガフロートなら、例えそれが【
支部局長の言葉に逡巡する教導官殿――少しの間を置き、同様の解を得るパートナーへ感嘆を贈った。
「流石だな——やはり、
「でも【新横須賀市】に直接の被害がなかったんでしょ?それを踏まえて考えれば……あの企業に極秘情報が
「ていうか、私の想定が当たってるとしても――ほんとに、何て事してくれてるのよ……星の守り人様方は……。めんどくさいったらありゃしない……。」
パートナーである教導官の言葉に、想定した状況が頭を打ち項垂れる支部局長。
至る結論——
それを悪戯心であえて影響の無い方面へばら撒くのは、【
ただ、現在の頭を悩ます状況が
その守り人への恨み節を、語る言葉へ盛大に盛った支部局長であった。
項垂れたままであるが、今は今後の作戦に向けての重要会議を控える身――パートナー
「それよりも、すぐに会議……始まるんでしょ?——私も少ししたら向かうから。」
彼女に関わらず——多くの大戦を経た者達の経験上、
通常行動を開始したそれらは、人類に対する監視——或いは支援に終始する。
しかし、人類の行動が地球に災い成す物と見なされた場合——状況によっては敵対行動を取る……いわば、地球の最終安全装置の様な物との認識を共有していた。
現段階で何も影響がない――であれば現状最低限監視の対象とされている。
監視対象側である人類にとって、そう捉えるのが最も妥当であった。
少しの間を置き、
すでに各椅子へ座した面々――緊張に彩られる。
まず任務の
次いでサポートを担う魔法少女戦力として、
三神守護宗家より、地球側の作戦立案者 ヤサカニ
そして後方の情報統制とバックアップにあたる、クサナギ家表門当主 クサナギ
日本国防衛省直衛戦力より作戦支援として【
防衛省長官
地球と魔界を救うために集められた、
「それでは作戦前の情報整理として、王女から導師側の魔法少女――レゾンより得た情報を提示いただきます。」
例によってヤサカニ家の
僅かな緊張を宿す王女がおもむろに立ち上がり——導師側戦力であった赤き吸血鬼から得た、己の知り得た情報を口にする。
「え……っと、まず最初に私が彼女から聞いた情報です。現在地球のいずこかに降りてきてる魔王シュウ――ジョルカ・イムルさんについてですが——」
「捕らえられ……導師側の手にあると思います。」
「それは、導師側の仲間という事ではなく?」
ヤサカニ裏門当主の問いへ首肯——それが確信に足る情報と視線送る王女。
「違います。幽閉されていると――レゾンちゃんはその彼女を助けてやってくれと言ってました。」
「分かりました。相手側の策である線も捨て切れませんが、今は王女が対話に成功した吸血鬼の話を信じましょう。」
逡巡……思考内で情報整理の後、まず一つ
少なくとも、導師側の魔王は協力体制にはない事を確認する。
続けて王女が
「あと——
「改称——意味も無く名を変える事などはないでしょう……。ならば少なくとも、導師が
紡がれる情報から今後の作戦への障害に対する策を、順を追って構築していく裏門当主。
事前の情報整理を終え、本題へ移る――が、今回は作戦を立案するにあたっての重要な件を準備している宗家陣営。
それを踏まえた戦略の公表に移る。
「では、この情報を考慮に入れた上で——英国までの輸送路・必要戦力準備・導師側と
「ただその前に、作戦へ参加するメンバー皆へご報告があります。……それは今回、ようやく合同作戦に相応しい状況が確立できたという朗報です。」
議長である当主の言葉——来たかと教導官が反応する。
「
その言葉に首肯する議長である当主……手早くモニターを操作し、宙空に映し出されたそこには――
『みなさん初見の方々は初めまして。私の名は
『今回の合同作戦に当たり、【魔神帝ルシファー】卿の代理として——及ばずながら作戦への支援を行う事となりました。』
宙空モニターを占拠するは女神——それが魔王である事を忘れさせる様な、容姿が凛々しくも
ようやく調整も済み、臨時回線を確立した両世界――魔界側の作戦支援者である魔嬢王の名で知られる女性が、遥か十数天文単位の距離を経て地球側の作戦メンバーと相対する。
それは未だかつて、明確な通信手段を持たなかった地球と魔界——その貴重なコンタクトの瞬間でもあった。
『……そして、せっかくの初の合同作戦会議という場ではありますが――ひとつ……地球の勇士の方々へ謝罪があります。』
一瞬魔王の言葉に表情が
が、それは杞憂に終わり――むしろ次に魔嬢王より語られた言葉で、あらぬ驚愕の事件を知る事となる地球側の面々。
中でも日本を故郷に持つ者に至っては、歩んだ歴史を知る者が皆――全く予想だにしない斜め上の状況へ吹っ飛ばされる事となる。
『両世界の危機回避作戦にあたって、こちらで是非とも協力したいと申し出てくれた勢力がいます。』
『地球側が恐らくこの
続けられた魔王ミネルバの言葉に含まれた、魔界側の協力勢力――宗家の中心となる者達は、内密の策と言う点が引っ掛かり……驚きと疑念を表情へと浮かべる。
『その協力勢力から提示された案の関係上、このタイミングまで明かす事ができず――結果的にあなた方を騙す様な形になり、申し訳ありませんでした。』
この魔界の魔王という存在は、皆が
先の魔神帝に続き、またしても謝罪の念を
「か……顔を上げて下さいミネルバ卿!我が国の古き兵法の中に、敵を
「――ミネルバ卿……もしや協力勢力とはこの日本に精通する者が……?」
裏門当主自らが言葉にした内容――そこへ同時に思考に浮かんだ、想定しうる状況を女神の様な魔王へ問いかける。
その問いへまさにと首肯で応答する
『……では紹介しましょう。百聞は一見――恐らく日の本と言われる国に住まうあなた方なら存じていると思います。……さあ、こちらに――』
――そして……その勢力を代表する者。
女神の様な魔王と入れ替わり、魔界側――モニターを一瞥出来る席に鎮座する姿。
それは一見地球で言えば、十代も中等部クラスの容姿――幼くはなくとも、大人と評するには若すぎる者が映っている。
だが――その者から発せられる魔霊力の高は、そこに今いた女神の様な魔王と同等とも取れる強烈に
モニターを睨め付ける様な双眸――したり顔を浮かべる少年とも取れる男は、尊大な物言いで吊り上がる口よりその名を発した。
同時に——宗家を初めとした日の本の民の聴覚を、その名が強烈に振るわせる。
あり得ない存在が――あり得ない時代に……あり得ない形で現われた。
『おおっ……そなたらが我が子孫となる者達か……!まさに出で立ちも面妖じゃな……!確かにあやつめが収集した情報どおりと言う所か――』
『そなた等ならば過去の歴史なりで知り得ておろう。我が名は信長――魔界の一世界……【マリクト】を治めし魔王、織田信長じゃ……!』
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