6話ー4 宗家絶対防衛戦 (後編)
「アッハハハッッ!……何々~どうしたんだ!?ぜ~んぜん攻撃が届いてないし~……クククっ!」
断罪天使を打ち倒すべく連携にて狂気を相手取る三人の魔導姫――しかし虚しく空を切る自分達の攻撃に、無感情な表情の奥へ
敵は一人――おまけに振るう獲物は遠距離で威力を発揮する短銃。
それを相手に近接戦で有利を奪えず、一撃を見舞う事すら叶わぬ異常な事態。
「なぜ……?攻撃が入らない?」
片刃大太刀の
パワータイプの体躯から繰り出す、重い斬撃が入れば致命傷は免れないはず。
だが――
一撃、また一撃と近接されれば無用の長物となるはずの、二振りの短銃に
打ち下ろし、薙ぎ、切り上げる――そのどの角度の先にも双銃が待ち構え、予定調和の如く払われる。
両手両足に備えた高周波ブレードで舞う
逆に軽さが
「下がりなさい……ガゼル、スプリンテ。私が――」
手を出しあぐねる二人の仲間へ指示を飛ばし―― 一見完全なる非武装を思わせた
しかし後方で断罪天使の出方を
「〔アアアアアアッーー!〕」
その中心……非武装を思わせた魔導姫が
満ちる大気へ余す事無く響く声――音波の共振が満ちる大気より強力な振動エネルギーを生み出し、浮遊するビット状の機械群が疑似
生み出されるは圧縮され……
「受けなさい――
発せられた声と共に、無数の
「うっわ……!何それ欲しい!アタシにそれ
降り注ぐ光弾を回避しながら、周囲に半物質化させた神槍ロンギヌスを生み出し舞う様に
光弾と神槍――共に非物質であるそれらが衝突のたび、電荷の火花と相転移したエネルギーを解き放ちながら高空を埋め尽くす。
進路上の
「遠距離攻撃すら当たらないのは……ちょっと期待外れだしっっ!!」
光弾の魔導姫が視線を叩きつけるよりも速く――銀嶺の翼がその懐を
が――
「……っ!」
狂気を乗せ振りぬいた双銃に一撃の手応えを見ない……断罪天使の思考へ攻撃が空を切った事実が浮かぶ刹那――
すでにそこへ本体をもたぬ光弾の魔導姫――空間転移にて、狂気を眼下に捉える高空へ現れた。
「あなたの攻撃は見抜きました……。我らを人と認識した結果が、
魔導姫本体は転移、しかし周囲に展開されたビット群は狂気を囲んだまま――
「……ちっ!」
油断と悟った狂気の少女は、
そして狂気が……耳を
「私達はただの争いの道具……そのような余裕は敗北を
魔法少女の放つ
その
「あ~ホント……。あんたの言う通り――余裕かましてたらこんな小細工に引っ掛かっちゃったし。」
舞う煙の中で狂気の少女が悪態をつく。
どうも彼女は敵を
いちいち、敵を
「でも残念――確かに狂気は人に向けられない……。けどさ……裁きなら咎人に向けられるんだよねぇ~~キヒッ!」
吊り上がる口角――狂気を宿す少女の独壇場。
敵対者への煽りと共に掲げられた右手……それを合図に展開する膨大な神霊力の法陣。
彼女の背後へ神霊界を直接物質界へと繋ぐゲートが展開され、そして顕現する主の神霊力付与を代行する御使い――【
「主より使わされし
断罪天使の祈りと共に、霊量子を高次元より導く方陣が本人では無い——魔導人形を包んだ。
その眩き後光が三人の人ならざる少女達を照らし——同時に生じる身体の異変へ、人形達が戸惑いを顕とする。
「——なんだ……!?体が——」
「この光は……!?」
眩き後光は断罪天使が祈りを捧げる、偉大なる主の導き——包まれたのは、人では無い……導師に加担する魔導人形達。
それは啓示——銀嶺の少女を守護せし者の天上よりの命。
「……クククッ……アッハハハッ……!これであんたたち三人は罪人決定だしっっ!」
主に守られし純粋なる狂気が三人の魔導人形を視界に捉え——同時に全方位展開を終える断罪の神槍……罪深き咎人を打ち貫くロンギヌス。
「主の守りしこの大地に、災い
総数優に数千の神槍が、標的とされた三人の少女に降り注ぐ。
それはまさに天より降り注ぐ、裁きの鉄槌群である。
クサナギ
ヴァンゼッヒ・シュビラと同じく
まさに各陣営の戦いに、決着が付こうとする中――金色の王女テセラと赤き吸血鬼レゾン。
未だ戦闘中に交わした対話の渦中——宙空へ停滞したままその意をぶつけ合う。
「——ダメだよ……。私……シュウさん……ジョルカさんに頼まれたんだよ?私はレゾンちゃんを助けないといけないんだ……。違う——私が……私が助けたいんだ……!」
魔王シュウと吸血鬼レゾン。
互いが互いを気遣い、救ってやってくれと言う。
だが——金色の王女にとってどちらかを見捨てるなどと言う選択肢は存在しない。
赤き吸血鬼の心に王女の言葉が突き刺さる。
この赤き少女は、
――否、吸血鬼の記憶の片隅……古き記憶の残滓が、該当するたった二人の存在をチラつかせる。
最初に出会った、みすぼらしい少女――そして、シスターテセラ――
「そうか——そうだよな……お前はテセラだ……。大きな器と無限の慈悲を持つ……魔王シュウの友人の——あのシスターテセラの名を継ぐ者なのだからな……。」
吸血鬼が吐露した言葉——先の衝突で聞いたそれと違わぬ内容に反応する王女。
赤き少女が口にし——そして、悲痛の赤眼へ溢れた雫の根幹である存在。
「レゾンちゃん……。魔王さんの昔話——そこに出て来たシスターさん……もしかして会った事が……——」
もはや特殊魔導暗号で通信していた事も忘れ、己へ真摯に向き合う黄金の慈愛を前に——吸血鬼の少女は静かに語る。
「私は——あの昔話の中……恐らくそこにいた。……守られていたんだ。」
「そもそも私の名は彼女――シスターテセラが
王女が白き女性より聞き及んだ昔話。
同じく赤き吸血鬼が聞いたであろうそれ。
そして昔話を語った魔王の想い。
全ての歯車が
――王女は、その想いの果てに導かれた赤き魔法少女へ……
「レゾンちゃん……。私は——あなたと……魔王シュウさんを救い出し……そして、生まれた故郷と育った故郷をを守ります……!」
王女の想い——切なる決意。
すれ違っていた思いが一つの願いとなり——ようやく届くべき相手の心へ運ばれる。
「そう……か……。」
伝わるその想いに答えるかの様に、吸血鬼の
****
オロチ発現による宗家の混乱に乗じた陽動に次ぐ陽動。
周到に仕組まれた導師の策は、
「こんな消耗は予想していませんでした……。あの吸血鬼がもっと戦っていれば——」
刀の魔導人形は
策の成功如何では無い——吸血鬼がまともに戦闘をしていなかった事態に対してである。
三人の同志に至っては、銀嶺の狂気に修復不能寸前まで追い込まれる始末——それはまさに、作戦が完全に失敗した事を意味していた。
「残念ですが——ここは引くとしましょう……。しかし、あなた方は依然窮地である事に変わりはありません。……せいぜい
実質、導師側にとっては
せめてもの悪態を残し——満身創痍の仲間を連れて撤退を余儀無くされた魔導人形達。
そして――
「——すまない……テセラ。導師側にシュウが幽閉されている以上、お前がシュウも救うと言うなら――なおさらお前に味方する事は出来ない。」
金色の王女は理解している。
赤き吸血鬼に自分の切なる意思が伝わったなら、彼女は魔王シュウに危害が加わらない様導師側に戻るしかない。
きっとそう考えるという事は、王女にも予想出来た。
「うん……。少しだけ待ってて……レゾンちゃん。きっと二人を助けるから……。」
出会った頃は会話すら交わせず、すれ違うだけであった二人の少女。
しかし――いつの間にか二人の間には、ほんの少しづつではある——であるがそこに……強き絆が芽生え始めているのを、互いに感じ取っていた。
そして——誓い合う言葉を交わした後、赤き魔法少女も導師側の陣営へ撤退していった。
****
宗家軍事施設、なんとか防衛できました。
そしてレゾンちゃん達が撤退するのを見送ったら、なんだか極度の緊張から解放されて——力が抜け、崩れ落ちてしまう私。
「ふぁ~~、な……何とか守り抜いた~~。」
すると、
「よかった~~、テセラちゃん無事だった~~!宗家の人がオロチ化して、テセラちゃんを襲ったって聞いたから心配したんだよ~~!」
「ちょ……
私を押し倒す、小さな当主様の
当然です——彼女にとって、信を置くはずの宗家内の人間が自分の友達を襲撃した事実……心を痛めないはずはありません。
「大丈夫……大丈夫だから。そんな顔しないで
私はやっぱりと思います。
小さな当主
出会って
「……あ~~何?あたしは忘れ去られる役?……マジキレそうだし……。」
――しまりました……。
うっかり狂気のお友達?を忘却の彼方へ葬り去るところでした。
すると、そんな防衛任務を終えた私達を迎えてくれる人影——私の視界には見慣れない人が歩み寄って来ます。
「お疲れ様
「……あの、宗家の方ですか?」
見慣れぬ男性は年の頃が三十代です——が、どこかそれを遥かに超える……なんと言いますか、貫禄を持ち得た佇まいを感じました。
「そうそうテセラちゃん、この人は
「ふぇっ!?そうなの!すいません初めまして、私は——って……宗家関係の方でしたら私の事知ってるのも当然か。」
「気にすることは無い。そうだね……テセラちゃんの事も守護宗家から詳しく聞き及んでいるが——まあオレは宗家の管轄ではあるも、民間協力企業の機兵部隊所属。」
「——と、オレの事より君達だ。厳しい作戦の只中——休める時には身体を休めておこう。いいね?」
その体軀は10mに届きそうな機動兵装——それを駆る
程なく私達は帰宅が叶う事となるのでした。
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