6話ー3 宗家絶対防衛戦 (前篇)



「ローディ君!……施設まで魔導転移……いける?」


 二人のにない手のおかげで、私は助けられましたが、事態はさらに深刻です。

 いえ、むしろこちらが本命と聞き——私たちは急いで宗家の軍事施設に向かいます。


 私達が遠からず実行する、地球と魔界の衝突回避作戦――その最初で一番肝心な作戦。

 震空物質オルゴ・リッド輸送任務は多くの人の力——中でも三神守護宗家の持てる力全てを借りなければ、私とローディ君だけで任務の成功はあり得ません。


 そのかなめの宗家軍事施設——中枢を東西首都に持っていると、れいさんから聞き及んでます。

 けど、現状どちらを欠いてもきっと作戦は失敗に終わります。


 作戦失敗――それは、地球と魔界衝突回避の希望が断たれるという事です。


「絶対に軍事施設を守らないと……!」


 私の心の中、そこにいつの間にか姉さまの様になりたいと思う一心……多くの人の上に立ち――それを守らんとする、王族のごとき信念が刻まれていました。

 ただの一学童であった時に否定していた、遠い世界の存在の様な感覚――それはまさに自分にとっての紛う事無き現実だったのです。


 けど今は――

 遠い存在でも……決して大切な人とはなばなれになるという意味じゃない事も理解しています。

 だから今は守るべき人達——地球の人類とか魔界の魔族とか関係なく……全ての人の未来のために――

 私は……戦います!



****



 宗家施設上空――現れたる魔量子立体魔法陣M・Q・S・S

 量子長距離跳躍クオント・ディメンディ・ハイペリオルが、臨戦態勢の王女を彼方より呼び寄せる。


 そこにはすでに、導師側の戦力である赤煉せきれんの魔法少女――あの吸血鬼と、魔導姫マガ・マリオンの少女……先に遭遇したコスモ改めセブン以外三人が王女の視界へ飛び込んだ。

 

「——もう導師側の戦力が……!?……あれ……?」


 目にした顔ぶれは全て敵対者――思考へ最大級の警戒と同時に最悪の状況が脳裏をぎった金色の王女テセラ

 しかし、導師側の戦力と施設間に一人の少女が立ちふさがるのを確認し——僅かに警戒レベルを下げ、それに該当する存在を思考から洗い出す。


「……もしかして、桜花おうかちゃん!?」


 金色の王女はクサナギの小さな当主が、魔法少女として戦う機会を一度も目にしていない——ゆえに一瞬その姿に判別がつかないのも無理はない。

 確信を得た王女はすかさず小さな当主桜花の元へ飛来する。


桜花おうかちゃん!」


「大丈夫だよ、テセラちゃん!……まだ戦いは始まっていない!」


桜花おうかちゃん……それが桜花おうかちゃんの……魔法少女の姿——」


 王女がそうが口にしようとした刹那——導師側の戦力と自分達の間に落雷とも思える衝撃と閃光が着弾する。


「……クヒッ……遅いご到着だな……テセラ……!」


 衝撃の着弾地点――巻き上がる煙の中より現れた者。

 それを目にした金色の王女の脳裏へ、学園で襲ったいつぞやの戦慄せんりつが明滅する。


「アーエ……違う——断罪だんざいの魔法少女……ヴァンゼッヒ!?」


「あんたが遅すぎて待ちくたびれたし……ククッ。」


 思いもよらない相手の登場に、咄嗟とっさに身構える王女。

 それを片手で制し——クサナギの小さな当主が、それはもう可愛い怒り顔で断罪だんざいの魔法少女をたしなめた。


「……ちょっと、アーエルちゃん!今日はエルハンドさんの指令できてるんでしょっ!ちゃんと私達の援護をお願いしますよ!?」


 すると——思わぬ事態……。

 狂気が装備を纏ったと言っても過言ではない断罪だんざいの魔法少女が……借りてきた猫の様におとなしくなる。


「……あー……うん。分かってるし……ちゃんと桜花おうかの援護はするから……。でもテセラの援護は——」


 と言う言葉にムッ!と小さな当主がまたも可愛く睨め付けると——まさかの断罪天使、狂気は残るも困り果てた顔で視線を泳がせた。


「わ……分かったよ……必要ならテセラの援護も……する……よ。」


 覚悟の上で舞い降りた金色の王女――しかしあまりの状況の和やかさに、時が止まったかの様に呆けてしまった。


「——あの……桜花おうかちゃんと、その——アーエルちゃんは……お知り合い……?」


 あえて断罪天使をアーエルと呼称し小さな当主へ真意を問う。


「ああっ——えっとね……アーエルちゃんの上司さんはね、表門当主でもある炎羅えんら叔父様と旧知の友人なんだよ☆」


 意外すぎる関係性に、へぇ~とさらに呆けた顔で王女が断罪天使へ視線を寄こし――


「ああぁ!?何だし——何か文句あるかっ!?」


「ヒッ!?」


 断罪天使――狂気の少女がそれ以上直視したら、何をしてくるか分からない程の怒気を王女へ叩きつける。

 しかしを見る限り——恥ずかしさを誤魔化している感は拭えないが。


「そちらの戦力はそれだけか……。ではそろそろ始めよう……。」


 想定していない斜め上を行く事態に、状況の深刻さが頭から完全に抜け落ちていた王女。

 目の前の赤き少女の言葉で、呆けた姿から現実に引き戻される。


「……レゾンちゃん……まさか、待ってくれてたの?」


 だが――その王女の言葉をかき消す赤き疾風しっぷうが舞い、刹那――王女に赤き魔法少女は肉薄した。


「……ちょっ……!?レゾンちゃん……!」


 返答は突撃と言わんばかりの赤き少女——辛くも懐への侵入を回避した王女。

 それが合図となり、せきを切った様に上空へ舞い上がる両陣営。

 地球の最大戦力である少女達と、導師側の誇る最大戦力——相容れぬ者同士の戦いの幕が切って落とされた。



****



「レゾンちゃんの相手はテセラちゃんがするよ!だから——あなたのお相手は私っ!」


 赤き吸血鬼よりも先に王女強襲を狙った魔導姫マガ・マリオン——だが、一歩早くその懐を脅かしたのは討滅の魔装撫子まそうなでしこ

 クサナギが誇る対魔刀剣【アメノムラクモ】を抜き放ち、刀の魔導姫セブンを同じくその刀剣で抑え込む。

 クサナギ裏門当主 桜花おうかにとって、刀剣による近接戦闘はまさに独壇場であった。


「私の邪魔立てするのであれば、あなたから始末します。」


 持ち込まれた鍔迫つばぜり合い——その中でも、例によって無機質な声を初顔の戦力に言い放つ刀の魔導姫。

 同じく刀状の武装を振るう彼女は、させじと巫女を思わす姿の少女を力任せに弾く。


「相手としては、私——相性よさそうだよ?」


 刀の魔導姫の力任せの弾きも、難なく耐え凌ぐ小さな当主――想定しない強敵到来に、またしても無機質な表情の奥で苛立いらだちを募らせた。


「——またしても想定外……とんだ手練てだれですね。」



****



「何だ……?アタシの相手はもしかして雑魚ばっか?——舜殺してやろうか……クヒッ!」


 小さな当主と別方向では、完全に元の調子を取り戻す断罪天使——待ち侘びたと言わんばかりの狂気を容赦なくぶち撒ける

 相手は三体の魔導姫マガ・マリオン——が、そこに劣勢を感じさせる要素など存在していない。

 銀嶺ぎんれいの翼を羽撃はばたかせ——構える両の双銃で狂気の祈り満る弾丸を、マズルフラッシュと共に導師の人形達へと浴びせ掛ける。

 同時にした銀の狂気に、魔導人形達はそれこそと受け取った。


「バカかこいつ——遠距離武装で突撃など……。餌食になりたいのか?」


「愚か……私達全員で——滅す……。」


「囲むよ——ガゼル……スプリンテ……。」


 二人の魔導人形達へ指示を出す、指揮者と思しき魔導姫の少女。

 体躯は他の二人の真ん中程度——長く無造作に伸びた髪と、明らかに非武装に思える姿で距離を保ちつつ、断罪天使の出方をうかがう。


 非武装らしき少女の指示で宙空を駆ける、長身でセミロングヘアーにしなやかながらもパワーで押し切る体躯たいくを持つ魔導人形ガゼル——両手にて構える大型片刃の高周波ブレードで銀の狂気を待ち受ける。


 人形中最も小柄なスプリンテは前髪……後ろ髪を全体的に切り揃えたショートヘアー ——小柄な体躯に見合ったスピード重視の戦術を活かす、両手両足各所に近接用ブレードを装備し同じく狂気の少女に相対する。

 

 待ち構える様に断罪天使の進路上へ舞う、三体の魔導姫マガ・マリオン——その狂気が放つ銃弾よりも早く、銀嶺ぎんれいの少女の懐を強襲した。

 否……近接武装を纏う魔導人形の少女達が先手を奪い、強襲したはずだった――


……誰が決めたし!?クククッ……!」


 肉薄し決着出来ると踏んでいた二人の魔導姫マガ・マリオンの攻撃は、断罪天使の振るった——さらにはを操る少女の技で防がれた。


「こいつ……銃で近接武器を防御——したのか!?」


 そして魔導人形達は晒される事となる。

 主への祈りを狂気の正義に変える、銀嶺ぎんれいの断罪者がもたらす恐るべき光の洗礼に——


「はっ……!この程度じゃあたしは止められないよ!——見せてやる……アタシがしゅよりたまわった――魔を撃滅する力をっ……!」


「エイィィメンッッ……!!」



****



 意志と想いを掲げた魔法少女達は、各々おのおのが切り結ぶべき敵対者と対峙――交戦状態に突入する。

 

 その最中、いつもの突撃が身を潜めた導師側の魔法少女――赤き吸血鬼レゾンは、王女と付かず離れずの距離を保ちつつ……竜の使い魔ブラック・ファイアを主軸にした散発的な砲撃戦を仕掛けていた。


 一見不可解な行動の裏――対峙する王女へ、導師らに悟られる事のない特殊な魔導暗号通信を送る。


『テセラ……聞こえるか?』


「レゾンちゃん……!?」


 見舞われる砲撃を回避し続ける金色の王女。

 突如鼓膜を振るわせた聞きなれぬ魔導暗号通信――声を上げてその送り主を見るも……視線を察した赤き吸血鬼より、アイコンタクトにてこのまま続けろとうながされ戦闘を続行する。


『お前とゆっくり話したい所だが、私は導師の元に戻らねばならん……。こちらから一方的に通信を送る。……そのまま聞いてくれ。』


 本当はゆっくり話したい――それは王女も同じ。

 だが今の状況は、それが叶わぬ事を理解している王女――その赤き吸血鬼の声を聞き漏らすまいと、全神経を聴覚へ集中させる。


『お前が魔王シュウの事をで言うが……彼女は現在――導師ギュアネスに幽閉されている。かつての力を奪われて……今は導師へ手も足も出ない。』


 鼓膜を通してつづられる、自分へ希望を託さんとする白く偉大な女性魔王の今。

 地球と魔界を救うという想いが行動原理であった王女へ、今までに無い激しい情念――込み上げるそれに少女は突き動かされそうになる。

 それは導師と言う存在への激しいいきどおり……〈〉であった。

 

 が、ここでそれを振り撒いたとて徒労に終わる状況――むしろ今重要である、吸血鬼の言葉を……いきどおりに激しく脈打つ胸を抑えながら耳を傾ける。


『これから後の事は、私には分からない――どうするかはお前達しだいだ……。けど……もし叶うなら……私から一つ頼みがある。』


「……えっ!?」


 王女は吸血鬼の予想外の言葉――という発言に、思わず攻撃を停止してしまう。


『私に構う必要はない――あの白き魔王シュウを……どうか救ってやってくれ!あの女は……!』


 王女の脳裏にが明滅し……そしてが呼び起こされる。

 それは吸血鬼との戦いの最中――失った意識が呼び寄せられた高次精神領域界。

 そこで出会った白き魔王――ジョルカ・イムルからの願い。

 吸血鬼が願う想いと相対するかの様な、偉大なる姉ミネルバの……偉大なる親友の願い――『。』と言う切なる願いの言葉が――


「何をしているのです……あの吸血鬼は……!?」


 最初に出鼻を挫かれ――眼前の、巫女を思わせる魔法少女の反撃で……業を煮やす刀の魔導姫。

 導師からの厳命である任務遂行中――相手とにらみ合って動かぬ、気に食わぬ吸血鬼……その戦力の使えぬ惨状にささやかではあるが、感情を顕にし始めていた。


 しかし感情を向けた先は、接敵している者にとっての無防備を晒す方向――さらには今しがた刀剣を交える相手にとって、無視シカトを決め込まれたかと錯覚する態度。

 その隙へ、油断すれば確実に致命打となる正確無比な斬撃を――対魔刀剣をかざした少女が音速の一撃を打ち込む。

 寸でで回避する刀の魔導姫へ……小さな当主は、斬撃に遅れて不満を送りつけた。


「あれ……?もしかして私……められてます?そんな余所見よそみをして、正統なるクサナギ流を相手には出来ませんよ?」


 刀剣を振るっているはずの魔導人形の行動に、今度は小さな当主が苛立ちを浮かべた。

 クサナギの奥義継承者としては、その生い立ちはどうであれ……を持ちて相対するならば ――、刀を交える心積もりであったはずだ。


「どうやらあなたは、武の心をお持ちでない様ですね……。――カグツチ君!」


 武の心――真剣勝負の最中に、剣を交える相手からすら視線を逸らす無礼に対し……もはや敬意を払う価値無しと判断した小さな当主。

 すかさずその身に宿る破壊神――へ力の開放を願う。


「では私は、任務としてあなたを打ち倒させて貰います!」


 大きく後退し、動から静――抜刀の構えへ移行する小さな当主。

 納刀され……その鞘を通し膨大なる破壊の炎の本質が、クサナギの誇る霊導機アメノムラクモへ注ぎ込まれ――蒼炎が霊的な爆炎を伴い少女を包む。


 大気は研ぎ澄まされ――周囲は静寂、しかし舞う蒼炎は爆豪と共に

 静と動が入り乱れるその中心で、凜と構えるクサナギ奥義を継ぎし少女――視線はただ一点……


ぬしよ……いつでもよいぞ!』


 天津神が誇る破壊の神ヒノカグツチの声が合図となり――クサナギ 桜花おうか の最終奥義が無礼なる魔導人形を捉えた。


「クサナギ流閃舞闘術せんぶとうじゅつ……!――零式――討滅奥義……!ヒノカグツチぃぃぃーーーっっ!!」

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