ー宗家襲撃ー
6話ー1 浸蝕のオロチ
「――姉さん……!それはどういう意味だよ……!?」
少女達を送り届け、宗家の中央施設へ帰還しようとした時――二人の若き担い手に届く信じられない様な緊急令。
今まで三神守護宗家を背負い、地球と
その内容は『王女テセラを
宗家の二人の
怒りの
向かうは不可解な指令を飛ばした姉の元――受けた指令内容が内容だけに、普段冷静を装う
早々に会議を終えた守護宗家――名乗りを上げた宗家重鎮の一部を連れ立ち、ヤサカニ
すでに宗家施設駐車場へ待機するBMW――防弾退魔処理を施された大気を無き物とし駆ける黒き要塞が、エンジン音を昂ぶらせ闇を撒く様に並ぶ。
と、広大な敷地にある駐車場の出入り口――厳重なセキュリティを施すゲートを突っ切り……そこへ今しがた大気を後方へ置き去りにし到着した、Rの名を関するモンスターが風に舞う白煙と共に停車する。
モンスターより降り立ったのは
「……姉さん……!どういう事か説明してくれ……!」
普段見せぬ怒りは眉根が歪むほど――荒ぶる心情を押さえ切れぬ
その怒りはまさに
世界を背負う使命を帯びた少女――それを支える誇るべき大人のそれであった。
「……ロウ……。」
浮かぶ困惑の原因は、当主
到着した下の弟も四人乗りの白きスポーツクーペから降車――すぐさま駆け寄った彼も、上の兄と変わらぬ激昂が視線に強く刻まれる。
その光景――想定であればこうなるはずではなかったと、ヤサカニ当主は
「……あなた達、この状況――本当に分かっていないのなら、宗家の
その言葉に、更なる
「ふざけんなよ!姉さんだってテセラちゃんの事を大事に――」
その
「……何してんだよ兄貴!まさか兄貴まで……!」
「……ロウ!……よく見ろ……。全く姉さんの言うとおりだ……。オレ達はまだ宗家の
兄の言葉で
浮かんだ思考の末、姉が今引き連れる重鎮幹部――その内へ……背後へ渦巻く負の情念へようやく思考と視線が向く事となる。
怒りで見えなくなっていた、宗家の幹部クラスの者共。
その目に正気が宿っていない――何者かに
「――こ……これは……オロチ……!?」
オロチ――日本の神話の世界より、【ヤマタノオロチ】で知られる闇の
だがその実態は、この地球と言う星にある負の側面。
地上と宇宙全ての生命が、霊的
深淵の
軽微な物なら救う事も可能であるが、重度の症状であればそれは生命としての死を意味する。
だが、オロチは生命としての死に
三神守護宗家――その力を継ぐ者が永きに渡り、討滅・浄化を行ってきたオロチとは、その【命の闇】全てを指し示しているのだ。
当主
そのまま異常事態に感付くであろう弟達に、小さき少女達身辺警護を任せ――来るさらなる訪れに対応させる算段であった。
しかし二人の弟は状況を読みきれず、さらには激昂に我を忘れ事を見誤りそうになる始末――己が見通しの甘さもまた未熟と、今度は裏当主が盛大に
「……あなた達なら、策の真意に気付くと踏んであえて連絡を取りませんでしたが……。まさか、テセラ達の護衛を離れてまでこちらに抗議に来るとは……。」
彼女にとっては複雑な思い――二人の怒りは金色の王女を思うがゆえのモノ……それを分かっているがゆえ、ただ未熟と責められぬ心境だろう。
姉の嘆息は二人の担い手にも、同時に生んだ失態へ後悔の念を抱かせ――未熟ゆえ犯した
それを見てヤサカニ裏当主は覚悟を決める――
「己の
ヤサカニ裏当主は一人でこの場を押さえるため、自らに戦闘強化の術式を
「恐らくテセラと、魔導機であるローディを孤立させるはずです!——さあっ、急いで!」
裏当主の覚悟――それはオロチによって
****
「
オロチの
一方――
その上先の
「
はんなりな友人の言葉に、笑顔で任せてと返す小さな当主。
しかしその小さな当主も、高位霊格の貴族級魔族との戦闘経験は皆無であった――あったが、その傍に守るべき友人がいる。
小さな当主は、クサナギの伝統に基づき行われた継承の
事が落ち着き、偶然聞いたヤサカニ
その少女が二度と両親に会えないという点において、己が生い立ちと比べようも無い境遇である事を耳にした時――自分と似通う少女へ深い興味が湧き出たと言う。
それより幾ばくかの時が経ち、彼女――
奇しくもそれは最も危険と言える、訪れたる霊災渦中で実現する事となってしまったが。
「カグツチ君、相手はとても強力だよ!……君の力が頼り……だからお願い!力を貸して!」
小さな
天津神の神霊にして破壊神である【ヒノカグツチ】は、その言葉で奮起する。
金色の王女の使い魔にみられる、肩口に控えた量子生命体を形取る――少年を模した姿の破壊の炎神。
主である少女の声に答える様に、量子の波へと移り変わりながら膨大な霊力を蒼炎へと変貌させた。
「
「いくよっ……【アメノムラクモ】起動!魔導装填――【ヒノカグツチ】っ!」
車椅子の少女が輝く
身に付ける可愛さの中へ少し大人びたアクセサリーに彩られた、淡い暖色のワンピース——光に包まれたそれが量子レベルで分解され、変わって現れたる戦う少女の艶姿。
巫女装束を思わせる纏い——日本刀を振るう少女の為に
そして少女の眼前——対魔霊剣【アメノムラクモ】が、蒼炎と共に
その魔装装着を待たずして、異形の咆哮が高らかに響くと――群れを成し……猛然とその闇を振りかざして、蒼き炎に包まれた少女へ襲いかかる。
が、一閃――
疾風が舞い——蒼炎が淡く掻き散らされたそこへ……【
彼女の扱うシステムは、王女テセラと同様の
しかし本来魔法少女のシステム名称に統一性などは無く——開発に携わった【アリス】代行が、クサナギの小さな当主の祖国への畏敬の念を込め……その伝統・文化になぞらえた【
「——
「ふむ!主よ、正しくだ……!この様に穢れを無用に撒き散らす様――愚かなる闇の程度が知れるわ!」
クサナギの小さな当主が振るいし力は対魔・浄化に特化した能力——それでもその力を振るうのは人間である。
対して【
対魔戦ではどちらも一長一短——しかし大多数の上位種魔族を相手にするには、小さな当主の霊力的な胆力はともかく体力的な問題が残る。
――それでも——
クサナギの力と誇りを継ぎし、小さな当主の信念は揺るがない。
眼前に迫るそれが、守りし生命を脅かす忌むべき異形であるならば——クサナギ流を正統に名乗る少女に引く理由などあり得ない。
双眸へ宿る炎をそのままに……正眼へ【アメノムラクモ】を構える小さな当主——
「行くよ、カグツチ君!——クサナギ家裏門当主……クサナギ
****
不測の事態――明らかに正気の目をしていない、宗家関係者と思える姿が私を取り囲んでいます。
その上ローディ君が
今何故こんな事になっているのか、理解が出来ません。
「……これで王女はチカラを使えないナ……。そうさ……サイショから……こうすればヨカッタンダよ……。クククッ——」
ですがその声に隠れて、とてもドス黒い――
そのノイズが精神に届く
恐怖――
悲しみ――
怒り――
そして憎悪――
いくつもの感覚が、少しずつ——少しずつ、私の心……魂さえも
きっと何も知らなかったあの頃――ただの
けど……今の私は——
「あなた方は何者かは知りません!少なくともよく知る宗家の方ではない様ですね!」
胸に——心に刻まれた、多くの人の想いが力をくれます。
「ならば知りなさい!あなた方の眼前に居る者を……私の名を……!」
そして――遥か遠く、故郷で私が世界を救うその時を待ち望んでくれる……大切な姉様が私の意志を強くしてくれます。
恐怖が私を包もうとも、一歩も引くつもりなんてありません。
「我が名はジュノー……!
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