5話ー3 導かれる意志 遠き記憶より
私が最後の【
一番最後の【
「つまり、赤き魔法少女――レゾンが言うには自分達には回収出来なかった……そういう事で間違いないですね?」
「はい……。導師や
宗家御用達の研究機関――それは東京湾に浮かぶメガフロート
それ以降の時代——【
そこで使用制限の掛からない設備や施設を中心とした、分断された東西の日本を守護する機関の駐留場所——さらには様々な有事対応機関を詰め込んだ、今世紀でも最大規模の海洋人工施設群を建造したという事です。
メガフロートと呼ばれる海洋施設……西の二つを【
現在竣工間近の物もあるそうですが、現状稼動状態にあるのはその四つと聞いていました。
そして現在私は【
本来有事の際以外は、そうそう出入りも出来ない所なんですが。
「
研究員の言葉を受け——
今、回収済みの【
「
タブレットとにらめっこな難しそうな横顔に、悪いと思いつつも質問します。
「——ええ、そうですね……。少々長旅になります――旅行気分はとてもじゃないですが、味わえませんよ?」
あの導師ギュアネスは、きっと【
「あなたの故郷である
ああ、やっぱりこのヤサカニ裏当主さんは、優しい人です。
そして——守護宗家の多くを背負って今も戦い続けています。
その姿に私も出来る事を――何でもいいから手助けしたい、そんな気持ちにさせられます。
「ロウにシリウ——そして
私を囲む人達は、暖かく――そして強さと優しさで私を守り、支え、満たしてくれます。
その宗家の人達に囲まれて、私の中に――今とても強く
「(……姉さまに……会いたい……。)」
ジョルカさんから聞いた昔話、そして少なからず交流があった零さんがしてくれた話。
そこに出てくる姉さま――
今の
幼かったはずの私には、面影すら残っていません。
会いたいというその想いは、過酷を極めるであろう戦いを前に——今もなお膨らみ続けていました。
****
「お久しぶりです~、当主様。通信では
英国ロンドン郊外——広大な庭園を持つ、英国文化を象徴する建築物が悠然と
庭園と外界を
そのお屋敷の奥、来客用の大部屋で待つ日本からの訪問者——それを迎えるため部屋に現れる少女と秘書。
少女の年恰好——外見だけ見れば幼き10代に満たぬそれ。
ゴシック調の黒を基調としたワンピースのドレスに、同じく黒のヘッドドレスで正装したこの屋敷の主。
腰まで届く薄い蒼の煌めきを、さらりと空へ漂わせ——来訪者に対面する様に厳かなソファーへ腰を沈めた。
そして客として待つ日本からの訪問者は、他でもないクサナギ家表門当主——クサナギ
数日前には、日本首相官邸に訪れたクサナギ家表門当主は、その返す足で英国に訪れており——そこへ裏打ちされた、決断力と行動力こそこの当主の強みともいえた。
「いえ、あの時は急な用件でしたので。しかしその節はご迷惑をおかけした。」
クサナギ表当主は、この様な場所でも礼節を欠かさない。
先件、
その天津神の強力極まりない神霊力を制御するため、
それがこの【
ブリュンヒルデ・クウォルファー——星の観測者【アリス】の代行者である。
「それはお気になさらず~。私共とて
通常【
が、決して本人はふざけているつもりはないらしい。
「こちらも訪れる度に急な、そして難題をお持ちしてしまい心苦しい限りです。――ですが今一度、ご協力を
「大丈夫……存じてますよ~。
恐らくは世界中に張り巡らせた独自のネットワークで、あらかたの状況を理解しているのだろう。
クサナギ表当主が訪れ口にした要請の中に、さらに別の件が含まれる事を見抜いていた。
「これ程の事態——現状の地球側だけでの対処では、事の実行に不安が残る所ですよね~。という事でずばり、
「さすがは【アリス】代行……ご
すると【
「もう~。日本の方に【アリス】代行とか言われると、何だかお客を運ぶ運転手さんみたいじゃないですか~。」
星の守り人がソファーに座した片割れで、無言のまま付き添っていた専属秘書官——正に黙して語らずの女性はサッパリ纏めて、肩口で整えられる濃い茶のストレートヘアー。
しかし縁なし眼鏡が輝く面持ちは、鋭さを前面に押し出し——優しさと言うものが皆無と取れるほど。
その彼女——星の守り人のこの場にそぐわぬ抗議に、キッ!と
「せめてそういった口上は、案件のやり取りが終わってからにして下さい。クサナギ当主に失礼でしょう(怒)。」
無言を貫くかに思えた秘書からの痛烈なお小言に、星の代表者が震え上がってしまう。
立場の逆転すら心配されるこのやりとりは、ここ円卓の士が集う場では日常であり——
当主
「秘書官殿もお気になさらず。むしろそれぐらい気を許して頂ける方が、こちらも難題を持ちかけ
そう——その様な双方の何気無いやり取りですら、外交の決め手に組み込む男にとって……その程度のやり取りこそが重要であるのだ。
【アリス】の代行者はともかく——秘書官はクサナギ
「クサナギ当主も、相変わらずの交渉術。今の日本があるのは、あなたの様な方がその柱を支えているからでしょうね。」
クサナギ表当主はその言葉に、むず
三神守護宗家において、自分はその程度の事しか出来ない——故にそれを磨き上げ、己が武器としてきたのだ。
しかし、それでも見る者からすれば——それは
「——その
秘書官はそう来たかと舌を巻く。
鮮やかすぎる切り替えしに、いかな難題であろうとも
「それでは今回こちらから、代行殿の認証を必要とする二点をまとめております。なるべく早急な認証の後、準備を進めたいと思っておりますので。」
完全に相手を己が交渉術の流れに巻き込んだまま――クサナギ表当主より【アリス】の代行者へ提出される、観測者認証が必要な要請。
一つ――宗家にて現在建造が完了予定の現存しない最大戦力を、魔導技術によるサポートにて起動・運用させる件。
一つ――
かくして、二つの世界を救うための作戦――その最初のプランを実行するために、魔法少女を支える大人達はさらなる
****
日本――
『どうだろう姉さん?――恐らくこれからテセラちゃん達に、極めて過酷な戦いを
宗家専用回線となる携帯端末の先――担い手兄が、王女を労わる想いを乗せて意見具申して来る。
ヤサカニ裏当主の様に――宗家の
だからこそ――少女達がひと時でも安らげる時間を作りたい、その想いからの提案を提示する。
「――いいでしょう……。その代わりあなた達が送迎を受け持ちなさい。特にプライベート――その際
何かあれば――この世界の命運をかけた大勝負の時期に、何も無いはずがない。
否定要素が浮かばない現実を認識しながらも、ヤサカニ裏当主は条件付きの許可を出す。
それは少女達の心を大事にし――そして宗家が
ささやかな提案の連絡直後――最後の
そこへ示された結果とは――
「
弾き出された結果に、瞬間脳裏に過ぎる一つの記憶――ヤサカニ裏当主がすかさず、その検査結果をモニターで確認する。
視界に飛び込む数値を見るや、思いつめた表情の裏当主――そしておもむろに結果のデータ上へ別のファイルから抽出したデータを合成させた。
「こ……この魔力パターンは……!?
合成されたデータに研究員も
研究員にとっても、想定していなかった魔力パターンが表示されたからだ。
「あの――
だが、データの意味を理解出来ない金色の王女——それよりも目の前のヤサカニ裏当主の状況のほうが気がかりであった。
普段であれば厳しさと難しさが同居するヤサカニ裏当主——王女もそれが常と認識していた。
だが瞳に映ったその凛々しく厳しいはずの当主の表情――そこには哀しみに歪み、二筋の煌めきを頬に湛えた……遠き友を想う一人の女性がいたのだ。
「——あなたという人は……。いったいいくら、人類の
ヤサカニ裏当主が口にした【ルーベンス】という名。
それはかつて
そしてその宇宙大戦――今なお伝わる、地球人類史上最悪の抗争【クロノギア大戦】の総指揮官を務めた者。
それが三神守護宗家 ヤサカニ家当主……ヤサカニ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます