4話ー7 天空の激突 二人の魔法少女

 


 一人は光――天空にいただく魔族の世界にて生まれ、魔でありながら光をたくされた王女。

 一人は闇――地上の地獄、人類に仇名あだなす物から生まれ、光の世で闇を背負う魔の吸血鬼。


 しかしいずれもその存在に希望をたくされた――蒼き地球の運命の歯車クロノギア

 そして――二人は今、ここで激突する。



魔導閃砲術式マガ・ランテュアル高速変換開始……!目標認識完了!——テセラっ!!」


 赤き突撃は王女をとらえるにはやや遠い――しかし最初の一撃をしのげば肉薄にくはく出来る。

 その瞬間をまず制するため、赤き吸血鬼は天空を駆ける。

 さらに今回は最初から王女の攻撃相殺のため、吸血鬼側の使い魔が実体化——黒き翼竜の高収束火線砲で援護えんごする。


「……使い魔さんが分離して……!?」


 戦闘開始早々放たれた、大気を音速で焦がす火線砲。

 それは無詠唱に属する魔法術式——基本術式展開を要する王女に対してであ

れば、先手を取る事で奇襲へと変化する。


 その吸血鬼に標的を定め砲撃体勢に移った金色の王女テセラ

 が——初手から魔導翼竜の放つ火線砲に対し、すかさず多重層魔量子障壁M・T・M・Sで防御する。

 砲撃相殺ではすきしょうじるゆえの選択。


 さらに突撃に備え、後方に下がるための距離を計算した射程選択。

 突撃が直撃を見ぬ間に空ぶる。


「させんっ!!」


 それは赤き吸血鬼レゾンも同じく想定済み。

 後方に下がる王女を追撃し、黒翼竜の使い魔ブラックファイアがさらに援護えんごの砲撃を追加する。


「ローディ君!対空砲撃術式ファランキュリア展開!同時にこの空域へ属性反応域エレメール・リアクティ生成!」


対空砲撃術式ファランキュリアはいつでもいける!属性反応域エレメール・リアクティは3分ほしい!」


 属性反応域エレメール・リアクティ

 それは地上における魔族の力への弊害へいがい——光量子に満ちあふれた世界に対する、王女と大鷲の使い魔ローディが編み出した応用魔法。

 言うなれば量子が満ちあふれるなら、逆に反量子の空間を強引に生成してしまおうという魔術的な力技である。


 だがそれを、地球世界全体に施せるほど現実は甘くない。

 であれば攻撃に必要な空間を一時的につ限定的に生成すれば、それだけで戦略の大幅増加につながる。


「マスター……謎の反応が増加しています!ご注意を!」


 その異変を感じた黒翼竜の使い魔は、念話にて吸血鬼マスターへ報告を飛ばす。


「何かたくらんでいるか!……ブラックファイア——即時対応可能なポイントで援護えんごを頼む!」


 マスターの返答にすかさず使い魔は応答。

 追撃するレゾンの斜め後方に付き、連携して事態に備える。


 赤き吸血鬼はもう——憎悪に駆られて使い魔を置き去りに突撃などしない。

 絆で結ばれた使い魔がいるからこそ、自分の力が発揮できる事を理解した。

 ゆえの使い魔へのである。


 金色の王女は、通常装備の対空砲群より高威力である対空砲撃術式ファランキュリアにて吸血鬼を迎撃。

 機械杖きかいじょうをサーフィング形態で操り——翼竜の使い魔から無数に放たれる魔導収束火線砲を、木の葉の様に舞い踊りながら回避を続ける。


 とにかくふところに飛び込ませない——つ自分の攻撃射程を把握はあくしつつ絶妙な距離で回避行動を取る。

 その動きは赤き吸血鬼と対峙たいじするため、使い魔と二人で考え抜いた戦術。

 勝って対話をする――そのためにまず相手を制するための戦術。


 だから負けられない――その想いで自分にできる総動員して勝ちに来ているのだ。




 その戦闘空域から後方数百メートル。

 海上にある輸送艇にて、この戦闘を予測しての海域封鎖と有事に備えた配備にて待機する宗家対魔部隊。

 輸送艇上にはヤサカニ裏門当主の愛機【ヤタガラス】も操縦者と共にひかえていた。


「なんて……戦闘だ……。」


 輸送艇甲板上——現状を目視で確認するため待機していた部隊員がつぶやく。

 視界に映る洋上で展開される戦闘のは、すでに人対人の域ではない。

 かつての人造魔生命災害バイオ・デビル・ハザード彷彿ほうふつさせる戦闘。


「当主——援護えんごは必要ないのでしょうか?」


 当然の部隊員の反応――しかし当主 れいは【ヤタガラス】コックピット内で、モニター越しに首を横に振る。


『この戦いは、援護えんごの必要如何いかんにかかわらず、手出しは無用です。』


 この当主は金色の王女の想いを聞き――その彼女へ、赤き魔法少女の件をたくした。

 これは紛う事なき、彼女テセラの戦いである事を知っている。


『我々は無用の被害が出ぬ様、ここで海域封鎖を継続するのみ、いいですね。』


 激化する少女達の戦闘を視界に入れ、歯噛みするヤサカニ裏当主——案ずる心をその表情にチラつかせながらも、耐える様に見守っていた。



****



 崩れぬ戦況。


 拮抗する両魔法少女の魔法力マジェクトロン

 そこへ吸血鬼が魔王より告げられた、が作用――影響しているのであろう。

 互いが相手の力を引き出し続けるため、徐々に攻撃の破壊力の上昇を見る。


「やっぱりだよ、ローディ君!私の魔法力マジェクトロンが徐々に強くなってる……!……もしかすると——」


 金色の王女も自分の違和感を使い魔にうったえた時、【惹かれあう者スーパーパートナー】の件を聞き及んでいた。

 ともすれば無限に力が沸き続け――永遠に戦闘が終わらないともとれる状況を想定してしまう。


「予想通りだね!けど今はチャンスをうかがって!」


 互いに支えあい——共に戦うための知恵を出し合って今にいたる王女と使い魔。

 彼女らはそれを自分たちのアドバンテージに変え、この戦闘の中で勝機を逃さんと画策かくさくする。


 やがて高空の激突が一層激しさを増す。

 王女は勝負の決め手である属性反応域エレメール・リアクティ生成——そのために必要な3分を回避し続けていた。


「テセラっ!属性反応域エレメール・リアクティ……この空域に設置完了、いつでもいけるよっ!」


 その合図に首肯し、急反転する王女——機械杖きかいじょうをサーフィング形態から巡航形態へ変化させると、回避の速度をそのまま突撃速度へ変換。

 赤き吸血鬼を捉えた瞳はそのままに、音速を纏い疾駆する。


「……あいつが突撃……!?」


 王女の対空攻撃を回避中の吸血鬼は、一瞬予想外の反撃にきょを突かれる。

 が、接近してのクロスレンジでは確実に吸血鬼のほうが有利。


「上等だ……!迎え撃つ!」


 視界に映る王女を睨み、背部ユニットより抜き放たれる二双の爪状魔力刃マギウス・クロウラー

 音速を纏う金色の疾風相手に、クロスレンジ戦の突撃を慣行かんこうしようとした――しかし王女はそれを大きく回避しすれ違う。


「なっ……!?」


 その王女の後方、追尾する様に使い魔がきょを突かれた吸血鬼に突撃。

 使い魔は機械型の大鷲から、量子体を三頭の機械型魔犬【ケルベロス】の姿に変化——その口元に両刃の半物質刃を構え、赤き吸血鬼にクロスレンジで接敵せってきした。


 大気を切り裂き高周波と共に衝突する刃——撒き散らされた火花を引き連れて、そのまま鍔迫つばぜり合いに持ち込まれる。


『残念、レゾンさん……!接近戦ならボクも可能ですよ!』


 吸血鬼のまさかの想定外——使い魔がふところおびやかす事態に、切り結びながらすぐさま策を模索もさくする。


[——王女側の使い魔が強力なのは分かっていたが……!複変ふくへん型量子体とは……!]


 増す火花が激しい衝突を物語る。

 虎の子の突撃も、接敵され——鍔迫つばぜり合う事で抑え込まれ、想定外であった相手とのクロスレンジ戦へ引きずり込まれる吸血鬼。


『ブラックファイア——この使い魔の力量……やはり本物だ……!それもお前と同じ、本来であればだ!』


 念話にて使い魔へ通信を飛ばす吸血鬼。

 それを受ける、吸血鬼の使い魔側でも予想外の事態が襲い——念話への対応も疎かになる苦戦を強いられていた。


「使い魔さん!この攻撃に耐えられますか!」


 黒翼竜の使い魔はマスター援護えんごしようにも、迂闊うかつな離脱も叶わない状況――強力な集束魔力砲を縫うように、無数の対空砲火がばら撒かれているからだ。

 金色の王女の放つは、高出力の魔力砲撃が中心と踏んでいた吸血鬼サイド——しかし王女が新たに備えて来た兵装は、その読みを凌駕する。


 王女の腰部に追加された二対半円の固定ユニット。

 そこへ配される対空兵装——魔導式の半物質化マイクロ弾頭をばら撒く空対空武装に、各小ユニットへ隈なく配備された対空連装機銃群。

それはあたかも、航空を音速で駆け抜ける超速防空巡洋艦の体であった。


 使い魔の能力を全開放する事で得られる武装強化の恩恵——さらに自分達の得意なフィールドに持ち込んで制する策。

 王女側の戦略が見事にはまり——何時いつかの戦いとまるで逆の形勢となる。


 金色の王女に翻弄される黒翼竜の使い魔——思う様に主を援護出来ぬ屈辱と敗北感が、彼の能力の一端を露呈させる。


「負けられない……!私はマスターの——偉大なる吸血鬼の使い魔だっっ!!」


 その言葉と同時に、姿の変容を見る吸血鬼の使い魔。

 攻撃力重視のパワータイプ魔導翼竜から、超高速形態のスピードタイプ魔導翼竜へ。

隆々とした体躯から繰り出す収束魔導火線砲——それが持ち味であった姿より、細身且つ空気抵抗を最小限に抑え……広がる翼は前進翼型の戦闘機を彷彿させる純粋なる高機動形態。


「……レゾンちゃんの使い魔さん——凄い!」


 王女の浴びせる対空砲火の嵐が、高機動形態となり超音速に達する動きにことごとく宙を撃つ。

 あまりの回避力に、一瞬迎撃する王女でさえ驚嘆きょうたんに揺るがされた。


「マスターー!!」


 吸血鬼の使い魔が超音速で王女の使い魔を襲撃——たまらずはじかれる三頭機械型魔犬の姿を取る王女の使い魔。

 そして——鍔迫つばぜり合いより開放された吸血鬼とその使い魔が、二人同時に王女へ突撃を敢行。


 王女テセラ使い魔ローディの距離、そして吸血鬼レゾン使い魔ブラックファイアの突撃速度。


 そこには、決定的な勝負の決め手がそろう。

 王女をとらえ、打ち倒すのは今をおいて他にない。

 赤き魔法少女が、使い魔と共に全力の攻撃を乗せる。


「受けろっっ——赤双魔迅撃レッディオル・デュア・ソニックっっ!!」


 その突撃を前に——王女は機械杖きかいじょうを天にかかげ、術式を展開した。


世界創生ロード・グラウバーシステム開放っ!量子世界跳躍震撃クオント・グラウ・ハイペリオルっっ!!」


 その術式開放により二人が戦う戦闘空域に数え切れぬほどの、魔法陣・多次元量子転移陣マルティア・クオント・サーフィレーターが出現。

 その転移陣より、魔犬から再び変容した機械型大鷲が権限――それも全ての転移陣から——


「……これはっっ……!」


 突撃を慣行かんこうした吸血鬼と使い魔は、同時に事をさとると急停止を止む無くされる。

 ――これは王女の術中じゅっちゅうであると悟ったのだ――


ぇぇぇーーー!!」


 それは魔弾の雨——万滅の閃条。

 魔弾は幾千条の閃光となって赤き吸血鬼を強襲する。

 周囲を囲む転移陣へ、全てがいつわりあり——全てが実体であるの王女の使い魔が、量子ジャンプにより転移を繰り返す。

 それにより全ての転移陣——全方位より連続的に放つ集中放火。


 量子体であり——さらには世界創生ロード・グラウバーと言う強力な魔導機のコアであるローディは、単体であれば際限なく量子ジャンプを繰り返す事が可能だ。

 しかしここ地球上・光量子世界では、エネルギーを魔法力マジェクトロンとする量子ジャンプに大きな制限を受ける。

 ゆえに属性反応域エレメール・リアクティが重要であったのだ。


 しかし、それは王女の膨大な魔法力マジェクトロンがトリガーとして必要である。

 いくら強力な力を持つ王女であろうとも、大きな危険リスクともなう高レベルの決戦術式であった。

 

 


 海域封鎖に従事する、宗家の対魔部隊に緊張が走る。

 壮絶な魔力の衝突——広域に渡り大気を揺るがすほどの無数の衝撃波。

 過去の大戦を知らぬ者には、驚愕きょうがくしか浮かばぬ人知を越える激突。


 そして止む激突——訪れる静寂。

 二人の魔法少女がいた空域には――

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