3話ー3 討滅の魔装撫子



「計画に変更が必要な事態ですね……。」


 宗家の実力者一部のみ集められた、東京湾沿岸区画——【三神守護宗家】本部施設。

 宗家施設を集約した区画——周辺を、順調な復興を遂げた都心の息吹が包み込む。

 それらは沿岸部と東京湾上へ存在し——現在重鎮が招集されるは沿岸の高層建築。

 今回想定されてはいたが、起こらないことを前提の計画遂行——生じた事態収集のため、再度の臨時会議が開かれていた。


「導師側に魔法少女マガ・スペリオル・メイデンシステム適合者がいる可能性——確率としては非常に高く、想定される事態ではありました。」


 再び会議の議長を任された、ヤサカニ家裏門当主 れいおもむろに切り出す。


「本来魔法少女マガ・スペリオル・メイデンシステムは、魔界における魔族の幼少期に成長を補助するシステム——【M・S・S・Dマガ・スペリオーレ・サブ・ドライブ】を基礎に、【アリス】の【星霊姫ドールシステム】の技術を融合して開発されます。」


 【星霊姫ドールシステム】の融合。

 その実は【アリス】が創造した、命を纏う高次ガイノイド構想の魔霊力版であり——システム元来の構想とエネルギーの変換機構をコアとし、魔法力マジェクトロン用に調整したいにしえの技術。

 魔族及び魔法力マジェクトロンを生命活動の源泉とする生命体に充てられたシステム――技術名称マガ・スペリオル・メイデン・システム……略称 M・S・Ⅱと呼称された。


 ヤサカニ当主の言葉に続き、同席するクサナギの小さな当主がシステムの主要点について言及し――。


「ですが……システムの特性上主に魔族専用に作られたものであるため——地上の正属性である人類には余程の事が無い限り、適合者が現れる事はありません。」


 その余程の事に該当した、小さなクサナギ裏当主——先の会議に引き続き、車椅子上からの発言を続ける。


「皆様——ご覧頂ければ想像に難くないでしょう。現に私の体は、継承の儀の際この様な事となりましたが——魔法少女システム M・S・Ⅱによる機能で、システム使用時は戦闘が行える程正常です。」


 この会議には、彼女の身体に異常を来たす原因となる継承の儀——それを強行した堅物幹部も出席しいる。

 が、さしもの彼らも非を認めているのだろう——車椅子上から凛々しく発言を行う小さなクサナギの当主に、目も合わせられない。


「適合した私は、偶然にも神霊の本体を宿す結果となり……叔父である炎羅えんらさんの機転で今を迎えていますが——これ程の力を地上の人類が手にする事は通常皆無です。」


 そこで、議長に話が移り今回の状況から推測される、彼女の導き出した解が提示される。


桜花おうか殿の意見を踏まえ、先の王女テセラが遭遇した魔法少女の素性を洗い出した結果——二つの可能性が導き出されます。一つは導師と共に魔界にて造反ぞうはんした者――もう一つはこの地上に存在する魔族か魔法力マジェクトロンを有する者。」


 現状で正確な判断が出来ずとも、解をしぼり出すには条件が整っていた。

 そして、議長であるヤサカニ裏当主はさらに続ける。


「【天楼の魔界セフィロト】からの報告では、導師ギュアネス・アイザッハ以外に造反ぞうはんした者が確認されていないのは、魔界からのデータメモリに記されていました。……ただ——」


 ここで議長がふくんだ言葉で区切る。


「こちらは、今回の件に関係するか否かは判別出来ませんが——宇宙に浮かぶ魔界セフィロトの下層世界【ネツァク】より王の座を退位した魔王が、地球に存在する可能性もあるとの情報を得ています……。」


 一瞬、会議の場がざわついた。

 すでに火急の事態である——そのご時勢に魔界より魔王がこの地球に降りて来ているなど、その真意がどうであれ事は更に深刻さを深めている。


 しかし当の議長はむしろその件を関係如何いかんはともかく——堅物幹部の目を覚まさせるため、あえてこの議題中に情報として追加した。

 近年の宗家事情は、世代交代が相次ぎ——価値観が古き物から新しき物へ、順次移行が必要な時期である。

 しかしながら——古参の堅物連中と言う存在は、いつの時代も自分が知る範囲の常識に固執し聞く耳を持たない厄介者。

 それが良い結果を生むのなら歓迎だが、当主桜花おうかの件――そして姫夜摩ひめやまテセラの件にしても、その固執が原因で対応が後手に回る状況である。


 ヤサカニ家当主 れい もやはり女性である。

 その様な宗家の変わらない内部事情もあり、未だ小さき少女達の未来をうれいてならないのだ。


「今回の情報から導き出される、今後の計画に対する変更は以下の通りです……。」


 この度の会議も臨時の対応で対処する、との方向に決着し会議終了となった。



****



 宗家の臨時会議を終えたヤサカニ裏当主が向かう先――そこは対魔設備を集約した宗家軍事関連施設。

 広大な敷地は崩壊後、都心防衛拠点として建設され——東都心を中心とした一帯の、防衛に関する大多数の各種兵装と設備が備えられる。

 

 その軍事部門統括施設——多分に漏れず退魔処理を施す建物へ、小さな客人達が招かれていた。


「あっ……、あれだね?」


 軍事施設――駐車場の見える客室にて、一足先に到着していた王女テセラと、使い魔のローディが待機していた。

 客室より窓を挟み……駐車場の少し先を見やる金色の王女の視界に映る、国道より向かってくる一台のクーペの様なセダン――しかしいささか速度が乗りすぎている。

 視界に飛び込む駐車場・スポーツタイプの車と言う光景――ふと王女の脳裏にある種の共通点を孕む状況がが浮かび——「……まさかね……。」と呟くその先で、クーペ風セダンが真横を向いた。


「……え~……っ(汗)」


 視界の先で学園下校時——嫌という程目撃した光景に酷似した状況が飛び込んで来る。

 額より浮かんだ汗が苦笑いと共に、お馴染み過ぎる光景へ注がれた。


 周囲の視界を奪う白煙と、スキール音——奏でられる排気マフラーの爆音と共にサーキット場から抜け出して来た様な戦闘機が、駐車場にあらぬ高速で進入する。

 そしてそのままスピンターン——流れるリアテールを振り回し、駐車スペースの白線内に停車した。

 それには流石に、慣れたはずの光景にも——


「おおぉ~~、凄いっ……!」


感嘆かんたんの声を上げる金色の王女——が、やはりあの八汰薙やたなぎ ロウの姉であるのに間違いは無い……と、王女の思考へ鮮烈に刻み込まれる事となった。


 すると、今しがた暴走駐車を披露したクーペの助手席に見慣れぬ同乗者——下車したヤサカニ裏当主がトランクより折りたたまれた車椅子を取り出し、組み立てた後それを同乗する少女の元へ向かわせる。


「ねえ。ローディ君あの子は?……知ってる子?」


 当の使い魔も面識が無い様で、首を横に振る。

 程なく客室に当主れいと、面識の無い車椅子の少女が訪れた。


「すみませんね……遅くなりました。今日はあなた方に紹介したい子がいます。」


 ヤサカニ裏当主の言葉でその面識の無い少女が、王女テセラに微笑み自己紹介を始めた。


「初めまして、姫夜摩ひめやまテセラさん。私は【三神守護宗家】が一派、クサナギ家の裏門当主をやらせてもらってます、クサナギ桜花おうかと言います。よろしくね☆」


 その少女——御髪の片側を後へ上げて、後頭部上方で纏めて結い——

 日本人としては異様なほどに薄く——それでいて蒼き髪質に、瞳は日本を代表する黒の輝き。

 華奢過ぎず、王女より頭半分は低めの体軀は初頭部~中等部の年頃か——しかし彼女は当主と口にした。


 その特別な呼称につい反応して、慌てた金色の王女がかしこまって礼を返す。


「あっ……えっとその……初めまして。テセラです……桜花おうか、さん……ですね。こちらこそよろしくお願いします……。」


 ちょっと慌てすぎて、しどろもどろになる王女。

 魔界の王女に覚醒したとは言え、彼女は今の今まで普通の女子児童として生活していた――それ故、目上とも言える特殊な呼称へ必要以上にかしこまる嫌いがある。

 本来金色の王女の方が格上なのだが、ヤサカニれいという存在も相まって、当主と口にされるといたずらに反応してしまうのか。


「あっ……いえいえ、そんなにかしこまらないで下さい……!そんなにされてしまうと……こっちが困ってしまいます。」


 対してこちらは正常な反応である。

 魔界とは言え一国の姫である少女の、あまりにも腰の低い挨拶——桜花おうかの方までしどろもどろになってしまった。

 これではまるで、ご近所さんののどかな挨拶である。


 その光景を見て、普段はまず笑顔という物が存在しないのではないかと思えるヤサカニ裏当主——「くすっ。」とわずかにほくそ笑む。


「えっ……れいさん!?笑えるんですか!?」


 それを見た金色の王女——天然かとも思えるその思考が、見事にやってしまった。


「……私が笑えないとでも……?」


「いえ……あの~、ソンナコトハ——」


 ヤサカニ裏当主の目が座る。

 言いようの無い威圧を、その双眸そうぼうより感じ取ってしまった金色の王女。

 額に嫌な汗を躍らせながら、乾いた笑いでなんとかその場を凌ぐ少女がそこにいた。



****



 今日はれいさんに、この前の戦闘の報告ととても気になってた例のを見せてもらうために、宗家の軍事設備に来ています。


「うわぁ~、思ったより大きい!」


 あの時、敵対者から私たちを逃がすためにれいさんが搭乗とうじょうしていたロボット?の前に立って私は目を輝かせてしまいました。

 なんででしょう——ここ最近の私は当たり前の日常の大半を、非日常に奪われてる状態です。

 

 ――でもなぜか、今の方がワクワクしています。

 知らなかった事が多すぎて、そして知る事すべてが新しくて――


「テセラ……一つ断っておきますが、この機体を使ったとて——相手が魔法少女であった場合は、ろくな援護が出来ませんからそのつもりで。」


 大きな鳥を思わせる機体を見上げていると、背後から厳しくも優しいヤサカニ裏当主さんが声を掛けてきました。 

 その問いにこんな凄い機体なのにと疑問が浮かんだので、質問しようとして——


「えっ——?でもこれだけ凄そうな兵器なら……。——あっ……。」


 自分で口にして、気付いてしまいました。

 そう——これは〔〕なんです。

 対して魔法少女は正でも反でも人間です。

 人道的見地に基づき、――


「相手がどれ程の使い手でも、人間である以上この兵器きょうきを向ける事は出来ません。これはあくまで人外の生命体——人類にとって害悪となる負の物にのみ向けられます。」


 きっと、その当たり前の論理が崩壊したから——人造魔生命災害バイオ・デビル・ハザードや大きな抗争で太陽系が大変な目にあったんだと、いたたまれなくなりました。


「——少なくとも、あなたならその間違いは犯さないでしょう。今自分が口にした事を自らしっかりと吟味ぎんみしています。その考える思考こそが、に走らせないために必要な〔理性〕です。」


 その考え込む私を、使い魔君が気遣ってくれます。


「テセラ……ボクもいる。力の使い方は一緒に考えながら進もう。」


「ありがと……ローディ君。」


 少しの沈黙の後、自分の機体の状況を遠目で確認しながら——ヤサカニ裏当主さんが本題を切り出します。


「ひとまず先の【震空物質オルゴ・リッド】収集任務——あれは例の敵対者が回収したとみて間違いないですね?」


 その重要な問いを受け、私はあの時の状況を整理しながら返答します。


「はい——私が他の【震空物質オルゴ・リッド】回収時に感じる……エネルギーが一時開放されて消滅する感覚——私達の到着前に現地で確認、その後に彼女がいたんです。」


 返答を聞いたれいさんの表情が、とてもけわしくなるのが見て取れました。

 私たちが【震空物質オルゴ・リッド】の回収を行うのは、【天楼の魔界セフィロト】と地球の衝突を回避するためです。

 そうなるなという方が無理な話です。


「……まずいですね……。」


 きっと——敵対者と回収任務のたびに争っていては、どんどん状況が悪化するでしょう。

 私の中でも、だんだん不安が強くなって来てしまいました。


 するとそんな私の心中を察したのか、クサナギの小さな当主様が私の手を引っ張って、半ば強引に施設内部の案内に誘います。


「そんなに考えても状況は良くはなりませんよ?さあ、一緒にこの施設を回りましょ~~☆」


「あ……あの、ちょっと!?クサナギさん??」


 手を引っ張りながら、車椅子の少女がレバーによる運転でぐいぐい進んで行きます。


「いいですか?私たちはもうお友達です!これからは桜花おうかと呼んで下さい☆」


「ふぇぇえええ~~」


 その後から、ローディ君もニコニコと着いて来ます。

 う~ん、なんだろう?若菜わかなちゃんと言い、桜花おうかちゃんと言い——宗家の同年代はみんなこんな感じなのかな?と思わずにはいられません。

 なのですが、それはそれで失った日常を補完出来てる感じで、それもいいかな?なんて思いに耽りながら――潔く案内に振り回されてしまう私でした。



 けど――その時の私はまだ、当たり前の日常に入り込んだ――――の事を予測する事は出来なかったのです。

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