2話ー3 噛みしめる日常
私は
国立師導学園初等部五年生の普通の人生を送っていました。
ちょっと訳ありのお嬢様学校で、とっても仲の良い友達
何気ない日常、当たり前の日々――私はその全てがずっと続くと信じていました。
けれど——
私は今――【
――そう……今の私は当たり前だった日常が、遥か遠く彼方に行ってしまった様でした。
****
「――回収成功しました……。ごめんなさい……、もう一つはロストしてしまいました……。」
最初の【災魔生命体】浄化による、【
三つ目を手に入れた王女テセラだが、正直回収効率が予定より遅延していた。
『了解……。それらは確実に
ヤサカニ 零 率いる守護宗家の対魔特殊部隊との合同作戦——【災魔生命体】へと変貌を遂げるそれも、金色の王女と使い魔だけでの回収に支障は無く……むしろその方が回数にして上である。
しかし、それでも回収効率が遅延している理由――それは、金色の王女たってのささやかなわがままが影響していた。
「……あの、
それはせめてもの願い。
少しでも今までと同じ――とはいかないまでも、学園へ登校し日常を送ると言う事だった。
【
しかし……それに対応する対策や行動は地球と魔界が、双方協力の元行われなければならず――その件が難航している状況であった。
その
それらは太陽系各所へ軍事物資や重要設備から一般運送物に至るまで、月面施設にある移送用【
だが、それら施設がことごとく原因不明の事故――または正体不明の者からの破壊工作により運用中止に追い込まれるなどの、由々しき事態が多発。
その影響で、【
『……現在稼動中であるはずの【マス・ドライブ・サーキット】が、相次いで運用を見合わせている状態です……。』
魔量子通信の向こう、裏門当主
『……ですから【
ヤサカニ裏門当主にとっては
それが場合によっては、足手まといにすら成りかねないと言う屈辱的な事実――返答を返した裏門当主も心中穏やかではない。
ましてや事実上王女一人に押し付ける形である。
早急な【
「……あ、ありがとうございます……!」
『——ただし、対象の反応があれば急行する事。いいですね?』
弾む言葉を返す少女に、釘を刺すヤサカニ裏門当主――金色の王女も心中を察すればこそ、その言葉に感謝を覚えた。
苦手ではある――だが決して嫌いな訳では無いその女性の裁量に、心から礼をしたいと感じていた。
****
ここ最近、【
「テセラはん……!早うせんと!遅れてまうえ!?」
そんな私に
ただ、「人にはいろいろあるえ。」と言って私を信用してくれます。
そんな私達ですが、とうとう
「……あっ、
二人で、あちゃ~~と顔を見合わせます。とうとう私達のクラスで委員長をする、とっても規則に厳しい少女が校門前に仁王立ちです……(汗)
「こーらーーっっ!また遅刻ですかーーあなた達はっっ!!」
あぁ……そうとう怒ってらっしゃいます……。
彼女はまるで戒律に厳しいお国出身かと疑いそうになります。
「――ごめん、アーエル!ちょっといろいろあって――」
委員長をアーエルと呼び、事情をあやふやにしようとしましたが――名前で呼んだのが運のつきでした……。
「私を呼ぶ時は委員長でしょっ!それに言い逃れは許しませーーん!」
アムリエル・ヴィシュケ――私達と同じ初等部五年生ですが、彼女は一年半前に海外から留学してきた女の子です。
もともと自主性が重んじられる学園ですから、立候補すれば委員長の座も狙えるのですが――まさかのこんな厳しい子が委員長だなんてと、
薄い銀髪の片側遅れ毛を三つ編みで結い、後頭部やや右寄りに後髪を上げて留めてとっても可愛い女の子です。
留学当初から日本語は得意だったようで(もちろん私も魔界より日本生活長いので。)こんな可愛い女の子と友達になれたらと思いました――最初だけ(泣)
そしてその日の放課後、銀髪のお堅い委員長のお手柄で、私は反省文を書かされてます。
個人的な事情であれ遅刻は遅刻です。
それに、
いえ――出来ない様に教室の出口でお手柄委員長が門番を勤めてますから。
あんな手ごわい門番は反則です……(泣)。
「じゃあ以後気をつける様に……。」
先生のタブレットに反省文を送信して、お許しをもらった私たちはようやく解放され帰路へと着きました。
「はぁ~、ようやっと帰れるな~☆」
隣りで友達思いの
「ごめんね、若菜ちゃん……。つき合わせる様になっちゃって……。」
「もぉ~、気にしたらアカンて~☆うちはテセラはんと一緒で楽しかったえ?」
反省文を書かされて、楽しいも何もあったもんじゃないと思います。
でもこの素敵な友達は、いつも私と居る事を楽しんでくれて――そしてそれが今の私にとっての、大切で……かけがえのない時間です。
「明日は頑張って遅刻しない様にするね!」
頑張って遅刻しない――
【
私は素敵な友人の隣りで、彼女に悟られない様に決意を固めながら――学生寮への帰路に着きました。
****
二人の少女が、反省文を書き終えて帰宅する僅か前――
学園校舎の屋上に
夕日が真っ赤に染め上げた銀髪が
「今の所は、特に変わった事はありませんよ?」
テセラに可愛いと言わしめた少女。
だが今の銀髪少女の表情は、その日の委員長としてのお堅く厳しい、ツンケンした感じは少しも残っていない。
ただ、とても冷静で――どこか冷たい印象を持つと言う方が適切であろう表情で、ただ端末先の誰かと会話を続けていた。
『……そうか、よく連絡してくれた。ところで君自身はどうだ?変わった事はあるかね?』
端末から聞こえる声の主、どうやら幾ばくか年長と感じられる男性の声。その問いにやはり冷たさの残る顔のまま、銀髪の少女が返答する。
「――アタシですか?……変わらずですよ?と言うより、いい加減良い子ぶるのが疲れて来ました……。」
良い子ぶる――
どこまでがその少女の本心かは掴み兼ねるが、嘘は言っていないようである。
彼女自身、ここで学生生活を送るのは本意ではないのであろうか。
『まあ、想定はしていたよ。そこで君に別件の指示が出た――。』
――の指示。
おおよそ普通の学生には掛けられないであろう言葉。
銀髪のどこか冷たい感じであった少女がその単語を聞いた直後、僅かな空白の間をおいて口元が激しく
『恐らく彼等も手を焼いているのだろう、こちらに依頼が来た。――動けるかね?ヴァンゼッヒ……。』
銀髪の、アーエルと呼ばれていたはずの少女が――ヴァンゼッヒと呼称された瞬間、
「ああぁ、ようやっと私の出番ですね……。フフ……アハハっ!」
委員長としての仮面が遥か彼方に吹き飛ぶ。
そこにあったのは、
「じゃあ私は、今からその任務の場所に移動を開始します。……エイメン。」
『――エイメン。良い返事を期待している。』
謎の男性との会話は、双方が日本神とは別の神に祈りを捧げる言葉を復唱して途切れる。
すると……屋上に居たはずの銀髪の少女の姿は、
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