ー明かされた危機ー

 2話ー1 変わる日常



 見慣れた師導学園初等部の日常――いつもの様に生徒達が授業を楽しげに受け、当たり前の様に下校時間へときが進む。


 その当たり前からたった一人、違う時が流れているかの様な表情の生徒――他の児童達が下校する中、ただ佇んでいた。


「テセラはん……、どないしはったん?……具合でも悪いん……?」


 いつもの友人と比べて明らかにおかしな雰囲気ふんいきを感じ取った黒髪の親友は、流石に心配顔で佇む友人に声を掛ける。


「えっ……!……あの……ううん、なんでもないよ……。」


「ほんま?ほなええんやけど……。さあさあ、遅なりますえ?早よ帰りまひょ☆」


 なんでもある――そう顔に書いてあると、突っ込みそうになるぐらいに不自然な返答。

 それでも長く親友を続けている黒髪はんなり少女は、事情を追求するでも無く――金色の御髪の友人を急かしながら帰路に着いた。




 ここ2・3日間まるでうわの空――学生寮に帰っても相変わらずの金色の御髪の少女は、幾度も考えにふける様になっていた。


 表向きは名門として名高い師導学園――その名に違わぬ学生寮を持つ事で知られるが、そこに住まざるを得ない生徒達の事情ゆえの厳重な警備体制を持つ事はあまり知られていない。

 三神守護宗家が一派、【八汰薙やたなぎ家】による常軌を逸する警備体制は、有事の際の対魔族用防衛網である。

 宗家に関連する施設――国家の有する物と重複する大使館や要人別荘、さらには軍事施設を含め東都心沿岸を中心に集約される。

 師導学園は多分に漏れずその沿岸に位置する、名門女子小中高一貫校として配される。

 

 唯一学生寮は離れた山間へ設けられるが―― 一般の人間が寮内の生徒に面会するだけでも、非常にやっかいな手続きを踏まなければいけない難所。

 しかし極めて異例の際は、特例が認められる場合がある。

 その特例対象となった少年が、今主となった少女の部屋に客人扱いで招かれ――現在置かれている状況を整理していた。


「王女……じゃない、テセラ……いろいろと訳があってちゃんと話す機会が取れなくてごめん……。」


 使い魔の少年も何から話せばと、思考錯誤しながら金色の王女と向き合う。

 王女覚醒の折は量子型使い魔として、肩口に乗るほどのサイズで支援に回った彼――通常は、最初に主となった少女が目撃した姿を取っていた。


 主に合わせたかの様な金色の髪をストレートに伸ばし、主と違わぬ背の長である彼は傍から見ても少女と同世代にしか見えぬ。

 女子寮内は男子禁制であるが、宗家の口利きにより許可を取り付けていると思われた。


「そして、非常事態とは言えボクの言葉を信じ、自ら王女の自分――魔族として目覚める事を決心してくれてありがとう……。」


「そんな……、お礼を言われる様な事なのかな……。」


 少年との会話にも、魔族の王女は緊張気味で返答するが――使い魔という存在の少年にどう接すればいいのかが、把握しきれていないとも取れる。


「――それに私もまだ覚醒したばかりで、現実との……そのギャップと言うか……、違和感でいっぱいなんだから……。」


 少年に吐露とろした胸中――どうやら彼女がここ最近上の空だったのは、何の変哲も無い初等部児童が実は魔界の魔族で王女でした……と言うそこに生まれた壮絶なギャップで、思考がどうにも追いついていなかった事が原因の様だ。


 日常で認識していた当たり前の世界観に、突然もう一つの世界観が生まれた様な――

 どちらも自分が存在したと言う事実であり現実であるからこそ、その本質を真摯に受け止める必要があると理解していた――いや、しようと必死なのだ。


「嬢王様は――君の姉君は……、大切な妹の日常が壊されてしまう事を、望んでおいでではなかった……。」


「君にしてみても、日常の生活を大事に思うなら退避すると言う選択は存在した。頼れる地球の組織に守護される君ならば……。それでも――決断してくれた覚悟を……、ボクは受け取ったよ……。」


 使い魔の少年は、封じられていた力に目覚めたばかりの眼前の少女と――遠く離れた自らの主の思いを充分に吟味しながら言葉を紡いでいく。


 ――そして今、この地球と【天楼の魔界セフィロト】に訪れている未曾有の事態を……ゆっくりと新たな主に告げる――


「……君の覚悟を知ったからこそ――隠さずに……今置かれた状況を話して行く……。だから良く聞いてほしい――」


 学生寮の一室で行われた、人生を決定付ける二人きりの会議は――寮を見回る守衛が訪れるまで続いたのだった。

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