1話ー3 覚醒の王女
自分でも何をしているのか分からない――だが、何者かに呼ばれた様な感覚が全身を支配し、木々を掻き分け森の中へと足を進めて行く。
と、突然開けた場所へたどり着く――否、よく見ると何かに木々がなぎ倒されており……それが真っ直ぐ奥へ伸びている。
「……何かが……落ちてきた……?」
少女の眼前に何かの落下――あるいは墜落と思わせる光景が広がっている。
ふと視界に、墜落を決定付ける対象物――小型の大破した宇宙船らしき物が映ると、同時に人影も確認した。
少女の思考より先に体が動き、その人影へと走り寄り安否を確かめる――そうする必要がある事態と直感したのだ。
「あのっ……、大丈夫ですか……?怪我……してるんじゃ……」
壊れた宇宙船の傍らにうずくまる影、その表情は歪んではいるが意識はある。
この現代、宇宙との交流が衰退したとは言え――宇宙船や宇宙艇の類は未だ地球の天空を
それらはさほど珍しい物でもないが――対象が墜落や不時着と言った場合は、話が別である。
少女の声が響くと人影――少年だろうか、はっとした顔で声の主を凝視すると、驚きと安堵交じりの言葉を放った。
「王……女……?ジュノー……王女殿下……ご無事で――」
「――な、何……殿下って……。王女とか……姫さまとか――私はそんな特別な人じゃないのにっ!」
だがその反発に少年は、むしろいっそうの安堵の表情で一呼吸置いた後――今出会ったばかりであるはずの少女に言葉を掛けた。
「……そうか……。まだ君はテセラとして過ごせていたんだね……、よかった……。」
少女には眼前の、傷付いているはずの少年が発する言葉は理解出来ない――しかし、思わず初対面で苦しんでいる相手に怒鳴ってしまいバツが悪くなってしまった。
――ふと冷静になった少女は、ある疑問にぶち当たる。
少年は彼女の名前を知っている――けれど彼女に彼の面識は無い。
困惑の中はその理由を問いただすため、少年と向き合おうとした
「――まさか……、ヴァルナグス第二王女を地上で
振り向いた先にいたのは少女――まるで戦闘を始めるかの如く魔導式のバトルスーツらしき出で立ちに、身長ほどもあろうかという長い刀を思わせる武器。
凍りつく感覚を絵に描いたかに見える、感情も無く無機質な言葉――その姿はただ任務をこなすためだけに生まれた人形の様相だった。
「テセラ……、すぐにこの場を離れるんだ……。」
彼女でも理解できるこの危機的状況――あまりの出来事で思考が停止し立ち尽くす、謎の敵対者からすらも王女呼ばわりの少女。
少年は即座に立ち尽くす少女に退避を訴えた――が、その言葉で我に返った少女が少年に退避するどころか詰め寄った。
「……あなたは……、いったい……、
「いいんだ……。ボクが何者かなんて知らない方がいい……。すぐに逃げてほしい……。そして、何も見ていない……何も起こっていない……君は無事に帰りテセラとして人生を送る。」
詰め寄る少女に少年はただ逃げてほしい、その思いで言葉を告げ少女を背にし立ち上がる。
「……それが……君を大切に思う人達の望みなんだ!」
少年は力無い足取りで王女と呼んだ少女を背に庇い、彼を追い今またその少女をも標的にせんとし――刃を向ける敵対者との間に割って入る。
出会った少女を護り逃がすために、全てを賭けて敵対者の前に立ち塞がった。
王女と呼ばれた少女を今取り巻く状況――それは全く知らない人が、何も知らない事で争い……不運にも巻き込まれた自分を助けようとしている。
普通であればおとなしく逃げろと言う言葉に従って逃げるのが、自然の成り行きである。
――けれど、少女の中に逃げると言う行動の変わりに一つの思いが激しく燃え上がる。
「満身創痍で私を護ろうとしている人を……私は……、見捨てる事なんて出来ない……!」
何かが出来る訳でもないのに、
「(やはり……心の優しさは嬢王様譲りですね……。)……君の気持ちは分かった。この状況を打開する策が―― 一つだけある……!。」
「何か方法があるの……?私に出来る事なら……何だってするよ……!」
そのやり取りを他所に敵対者はゆっくりと歩み寄る。
武装し、戦闘を前提の任務を率先して任される彼女にとって――眼前の余力無き少年を討ち、第二王女らしき少女を捕縛する事は容易であると考えていた。
「(導師様からの情報と照合してもこの王女……その身にかすかの魔力も持ちえていない。これならば――)」
魔界において幼少の魔族は、自らの魔力制御に未熟が発生する事で知られる。
未熟ゆえの暴走――それを補助魔導機械で補う事で、存在を安定させていると敵対者は認識していた。
そう――機械補助はあくまでも魔界世界においての話であるため、この地球地上界では当てはまらない。
現に王女と思しき少女の魔力反応――敵対者による照合結果の通りである。
認識上では揺らぐ事無き絶対的優位を前に――得物を狙う敵対者が、最早一足飛びで少年を討ち取れる所まで歩みを進める。
――と、優位にある
「――何です……、これは……魔力の本流……?」
木々はざわめき、大気中の微粒子が薄っすらと光を帯び螺旋状に収束し始めた。
その光の収束していく場所――そこはまさに王女であるはずの少女と少年の立つ場所であった。
「この状況を打開する策……。それは……テセラ……君が全てを思い出す事――」
二人の周りはいつしか魔量子の本流
「ヴァルナグス王家第二王女――ジュノー・ヴァルナグスとして目覚め、強大な魔霊格を取り戻すんだっ!」
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