1話ー2 出会いの予兆・不安の中で



 私はテセラ――国立師導学園の五年生です。

 毎日この学園で素敵なお友達と、楽しい学園生活を送っています。

 ですが、下級生から〈姫さま〉って呼ばれるのに――何故か凄く抵抗を感じるのです。

 と言いますか、学園で皆が皆お姉様とか呼ばれてるのは最近では慣れましたけど――正直、ビックリビックリです。


 まあ、そんな中でもいろんな事をここで学んでいる訳ですが――私の一番のお友達……黒髪はんなりなお友達と仲良くいつもの日常、いつもの学業を終えた下校時間を迎えます。


若菜わかなお姉さま……これ……お手紙受け取って下さい……!」


「わぁ……かわええなぁ☆……おおきに……帰ったら読ませてもらいますよって……。」


 若菜わかなちゃん――黒髪はんなりなお友達は、相変わらずの神対応です。

 凜としつつも相手に優しい受け答えに、私は感嘆を禁じえません。


「――若菜わかなちゃんは慣れてるね……。」


「ウチは元々そういう家柄おすから。」


 今しがた手紙をくれた下級生に笑顔で手を振り返しながら、私に少し説明を追加してくれます。

 切り揃えられた前髪と大きなリボン――遅れ毛を後に回し、肩甲骨まである髪を上げて一緒に纏めると言う……中々インパクトがあるも、可愛らしいヘアスタイルです。

 そしてとっても綺麗な瞳は、真っ赤な真紅――黒髪の彼女からすれば珍しいのですが、いろいろと訳ありみたいです。


「ウチの家はこの学校にお金を出しとる、あんじょう大きい会社さんやて姉様から聞いとります。……この程度、いつもの事おすえ。」


「そっか……。そだよね……。」


 同じ内容の話を宗家の方からなんとなく聞かされてましたが、その説明と目の当たりにした状況で深く納得しちゃいました。

 私は宗家の方――若菜わかなちゃんの身内の方々から、あらゆる身のお世話をして貰ってます。

 正直頭が上がらない程なんです。

 ――と、黒髪はんなりなお友達が何か思い出したかの様に、手をポンッと鳴らして振り返ります。


「そやっ……☆テセラはん、今日兄様が来てくれはるんよ☆一緒に送ってもらいまへんか?」


 お友達の唐突に思いついた提案――言葉に混じる兄様と言うキーワードで、思わず瞳を輝かせて問い返してしまいました。


「えっ☆シリウさんがっ?」


「ロウ兄様が……。」


 笑顔のまま、微みょ~に声のトーンを落として答える黒髪はんなりなお友達――返された言葉で、盛大に肩を落としながら――


「……あ~~暴走お兄さんの方か……。」


 遠い目で酷くうなだれてしまう私――実はとても期待外れだったのです。

 するとその期待外れに落ち込んだ私の目に映る一台の車――校庭の遥か先、物凄い白煙とタイヤスキール音を上げ瞬く間に真横を向いて滑り来ます。


「またやってはる……。」


 その光景を同じく横で眺めていた黒髪はんなりなお友達が、溜息と共にやれやれと呆れ言葉を口にしたと同時――眼前でクルンと横半回転ハーフスピンして停止する車。

 運転席ドアが上方に向けて跳ね上がると、一人の青年が妹めがけ――ラブコールを叫びながら突撃して来ます。


「わ・か・なーーっ、迎えに来たぞーーっ★――」


 大仰なアクションと共に跪きひざまずながら、黒髪はんなりなお友達を抱きしめようとする今しがた突撃を敢行した青年の額に――抱きしめられるはずの少女から「ぺしっ!」と、渾身の可愛らしいチョップがお見舞いされちゃいました。


「もう、あかん言うてはるやろロウ兄様……。校庭にドリフトで真横進入はメッチやて……。」


「だ……だが若菜わかなに早く会いたくて……、そ、そうかちょくドリ進入なら――」


 屁理屈の様な言い訳を返そうとしたロウと呼ばれたお兄さんに――再び「ぺしっ!ぺしっ!」と二度三度のチョップが直撃し――


「そういう問題やあらへんから!」


 黒髪はんなりなお友達より、それはもう可愛いお小言まで頂戴してしまいました。

 その姿をすぐ横で眺めていた私も、堪らずクスクスと笑い出してしまい――


「なんか……ロウさん、可愛い~~☆」


 良い物を見せてくれた、苦笑を見せる可愛いチョップのはんなりなお友達――先ほどの提案をちょっとだけ愛しの兄様に持ちかけちゃいます。


 若菜わかなちゃんのお兄さんは、八汰薙 祇吏宇シリウさんと露雨ロウさん――二人は家元にあたる【ヤサカニ宗家】の次世代を担う若手で、若菜わかなちゃんと共に多大な期待を背負っています。

 兄妹の中も良い事で知られていますが、彼らは同時に私の事を深く知る者であり――今とてもご厄介になってる、頼もしい大人のお兄さん達です。


 ロウさんはまさに見た目がなやんちゃな感じですが、決して悪い方ではないんです。

 いつも派手めのアクセサリーに身を包む、少し茶髪がかるツンツン跳ねた髪。

 ……確かに見た目だけで言えば、ちょっと危ない職業の人に見えなくもないのですが(汗)

 対してそのお兄さんに当たるシリウさん――今はきっと宗家のお仕事中だと思いますが、ロウさんと対照的なクールでイケメンを地で行く長髪の男性です。

 ――実は私的にはシリウさんの方が好み……ごほん!この話は終わりです!


 かくして、ロウさんの運転する4人乗りスポーツクーペで私達は帰宅と相成ります。

 何か特徴的なこの車は、確かRX-8とか言う名前だったと思います。

 ドアが観音開きな所を、前のドアだけ斜め上方にカチ上げる機構に変更してるとか――まあ詳しくは知らないんですが、これは若菜ちゃんの実家八汰薙家が関係しているそうです。

 何でも日本全国へ展開する大きなモーターグループ社?っていうのが関わり、こんな車の送迎を私も受けたりするんです。

 実は丸みを帯びたボディの曲線が可愛くて、ちょっと私も好きだったり……。


 師導学園は都市近郊より沿岸に近い場所―― 一時期は災害による崩壊も見られた区域に建設されています。

 そこから山間に程近い場所――学園寮へ向かう最中です。

 その一帯は未だ復興の最中ですが、すでに都民の生き生きとした生活も戻って来てる素敵な所です。

 

「テセラちゃんはどう……?他の友達と仲良くやれているかい?」


「え……、は……はい。若菜わかなちゃんがいろいろ取り持ってくれますから……。」


「そうだろ、そうだろ……。なんたって若菜わかなは……!」


「兄様っ……!ちゃんと前見て運転してくれはりますっ!?」


 いつもの事ながら、やんちゃな兄ロウさんは溺愛する妹自慢を始めると歯止めが効かなくなり――今日も妹に咎められる始末です。

 その光景は実質身寄りの無い私にとって、微笑ましく思うと共に少しだけ居心地の悪さも感じる訳で――それでもこの兄妹は、何より自分の事を大事に思ってくれている……その事実は常に理解していました。


 そして、学生寮に程近い道――小高い山々のふもとを車窓から眺めていた私は、その目に飛び込む光景に息を呑みます。

 山間を抜け遥か上空より伸びる煙が、帯の様に糸を引き――それが真っ直ぐ、すぐ近くの森林へと向かっていました。

 その煙を引き連れる正体――走行する車からは見とれません。

 見とれませんが、何故だかとても悪い胸騒ぎが心を浸蝕し――叫んでいました。


「――何……あれ?……ロウさん!車を止めて!」


「ど……どうしたテセラちゃん……?」


「どないしはったん?」


 私の声でロウさんの車が急停車――慌てた宗家兄妹の問いかけに答える間も無く、ドアを斜めに上げて飛び出していました。

 その光が見えた山のふもと――私は吸い寄せられる様に駆けます。


 ――それが私の、壮絶な試練の始まりとも知らずに――

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