第3話 『キャンプ』
ある夏の日、友人とキャンプに行く事になった。
俺、友人K、友人Bと言う顔ぶれだ。
地元でも有名な海水浴場の近くでキャンプをする事になった。
テントや食料その他を運び込んで、昼間は泳いだり、魚釣ったりと中々楽しく過ごせた。
夜は焚き火を囲んでBBQもどき。
夜も遅くなってきたので、そろそろ寝るべと夕方に張ったキャンプの中へ。
友人Bは疲れていたのか、すぐに高いびき。
俺と友人Kはちょっとした世間話をしていたが、夜も遅くなってきたので寝る事にした。
俺はうつらうつらとしていたが、そろそろ寝てしまう――っと思っていたら友人Kから声を掛けられる。
「……おい」
「あ? 何?」
「いや……何か音がしねーか?」
友人Kの言葉に耳を澄ますと、波の音が響いてくるだけ。
『別に何も……』そう言いかけて、波の音の中に微かだが、ザ……ザ……ザと、何かが近づくような音が響いてくる。
何だ?
そう思った俺は友人Kと共にキャンプの外へ出る事にした。
万が一だが、誰か人が来てイタズラ、もしくは地元の人が何かしらの確認に来たのかもしれないと外へ出てみる。
すると真っ黒い闇の中、月明かりに照らされて黒くとても大きな犬が、さっき俺達が焚き火していた付近で何かごそごそしていた。
「でかっ!」
友人Kの声にこちらも黙って同意しつつも、野犬か? と注意深く観察する。
その黒い犬がこちらに向き直ると、きょとんとした顔で見てくる。
意外と敵意が無さそうだったので、近くに落ちていた食事の残りを黒い犬に投げてみる。
黒い犬は暫く匂いを嗅いでいたが、その内にむしゃむしゃと嬉しそうに食べ始めた。
何となくほっとした俺達はキャンプに戻って食料を持ってくると、黒い犬に放り投げてやった。
黒い犬は満足すると、夜の闇の中に消えていった。
俺達は安心してキャンプに戻ると休む事にした。
波のザァザァと言う音を聞きながら、うつらうつらと意識を失う寸前ぐらいの時だった。
また遠くから『ザ、ザ、ザ』と音が聞こえてくる。
ん? また犬が戻ってきたか?
何て考えながら音を注意深く聞いていると、隣の友人Kからも同じように『また来たか?』と声が掛かる。
とりあえず害は無さそうだし、外を荒らす分にはいいんじゃないかな? と友人Kに言いながら音を聞いていたのだが、やはり音はこちらに近づいてくるようだった。
そこで気付いたのだが、音が近づいてくる方向――俺達は海辺にそのままキャンプを張っている。
当然、キャンプに近づくとしたら左右の砂浜からのはずである。事実、さっきの犬の時はそうだった。
だが、この音の方向はキャンプの左右ではなく、海側の方から聞こえてくる。
犬が仮に手前の海辺から近づいてくるとしても、砂場を歩くような音じゃなくてもっと『チャプチャプ』とか水音が混じっててもおかしくないのに……。
ザ……ザ……ザ……。
その足音は段々と近づいてくる。
友人Kが少し起き上がって、こちらを見る。
Kも気付いたのだろう。犬の足音じゃない……と。
俺達は意を決して、キャンプの外に出る。
外は丁度満月の月明かりでよく見える。
さっと周りを見渡すが、誰も居ない。
「おかしいな……」
お互いそう言い合いながら、近くを散策する。
満月で月明かりが強い、周りの景色が意外とよく見えた。
暫く散策するも、何もいなかったのでキャンプに戻る事にした。
キャンプに戻ると友人Bが相変わらず高いびき。
幸せそうな顔しやがって……。思わずそう考えるが、まぁ、仕方ないのでこちらも横になる。
横になって30分程だろうか、波の音の中にやはり『ザ…ザ…ザ…』と今度ははっきりと分かる人の足音が聞こえてくる。
俺は目を閉じながら聞いていたが、友人Kがこちらを突付き、それから外を指差す。
Kにも聞こえているようだ。
とりあえず様子を見ようと無言でジェスチャーする。
足音は海側からどんどんキャンプの方に来て、キャンプの入り口――俺達の足元の方向で止まる。
『不審者か?』と一瞬疑っていると、足音が移動を始める。
ザっ…ザっ…ザっ…ザっ…。
確実にサンダルか何かで砂を踏む音だ。
足音は俺達のキャンプの周囲を回り始めた。
ザリ…ザリ…ザリ…ザリ…。
砂を踏む音に、何かを引きずるような音が混じる。
俺とKは二人とも『ヤバイ』と感じた。
何故ならば、足音がキャンプを回り始めてからずっと寒気が止まらないのだ。
隣の友人Bの高いびきが変にテント内に響く。
『なんでこいつ、寝てられるんだ?』と不思議に思いながらも、俺達はじっと息を殺す。
やはり15分程だろうか、足音が俺達の頭付近で止まった。
心の中で『ヤバイヤバイ』と思っていると、友人Kが震える手で俺の肩を叩く。
友人Kを見ると一生懸命テントの上付近を指差していた。
俺がそこに視線を向けると……。
テントの天井部分が人の顔と手が分かるような形でへこんでいる。
まるでテントに誰かがのしかかっているように――。
何故か分からないが、感覚的に『女だ』と俺は思った。
俺は怖くて声が出せなかったが、恐らく友人Kもそうだったのだろう。
その間もテントは音も無く顔と手と思われる部分だけへこみ、何となくだった輪郭が少しずつはっきりとしていく。
わんっ!!!
その時に大きな犬の吼え声が聞こえた。
テントのへこみがす~っと元に戻る。
わんっ! わんわん!!
続けてまた犬が吼える。
不思議と俺達を襲っていた寒気と怖さが薄くなっていった。
暫くして、辺りが静かになったので恐々とテントの外を覗いて見ると、さっき食べ物をあげた黒い犬が歩き去る後姿がうっすら見えました。
……後で聞いた話ですが、その海水浴場付近で昔女性が亡くなっているとの事。
遺体は未だに揚がってないそうです。
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