第4話 『姉と安アパート』

 昔、姉から聞いた話です。


 姉が県外で働いていた時の話ですが、最初お金が無かった事もあり、とにかく安いアパートを探していたそうです。

 中々難しかったのですが、とある不動産でふと『この物件はどうだい?』と勧められました。

 何でも『曰く付き』らしくて、借り手が一ヶ月も経たない内に皆逃げてしまうそうです。


 ……普通この時点で私なら借りませんが、姉はその家賃の安さにすぐ飛びつきました。

 一応大家さんからどんな『曰く付き』なのかは聞いたそうですが……。

 結論から言うと姉はそのアパートに半年間住んでいたそうです。

 何でも仕事の都合で引っ越してしまったらしく、そうじゃなければもっと居たのに、と話してくれたので私は、


「曰く付きって、もしかして何も無かったの?」


 と聞くと、


「いや、普通に居たよ」


「え?」


「小さな女の子の幽霊だったよ」


「えぇ?」


 どう言う事か詳しく聞いてみると、アパートの2階だったそうですが、そのアパート築10年ぐらいで特に古いって感じでもなく、初日は何も起きずに終わったそうです。

 2~3日ぐらいからおかしな事が起き始めたそうで。

 夜寝ていると隣の部屋でずっと子供が走り回る音が聞こえるようになったのを皮切りに、家に居るとどこからか『クスクス』とか『ねぇ~』とか言うような声や、閉めたはずの水道の蛇

口がいつの間にか捻られる等、本当にオンパレードだったそうです。


 ある日、仕事から帰ってきてご飯を食べていると隣の部屋から『ぽーん、ぽーん』と音が聞こえてきて、姉が何だろうと隣の部屋を見ると、小さな女の子が後ろ向きでボールを手に遊んでいました。

 姉が『お? こいつか』と思って声をかけると、女の子が体ごとゆっくり振り向き、手にはボールでは無く自分の頭を持っていたそうです……。


 完全にこちらだと逃げ出しますが、姉に聞くと、


「家賃も安かったし、それに一人暮らしだったので、寂しくなくて良かったよ~」


 と、軽いお返事が……。


「最初は確かに困ったね。水道の蛇口を捻ったりしてイタズラするもんだから。

 でも、暫くしたらちゃんと言う事聞くようになってくれたよ」


「言う事って……?」


 恐る恐る聞く私に姉は笑顔で、


「騒がしい時は『静かにしてね』って言うと静かになったし、イタズラも『メっ!』って怒るとちゃんと止めてくれたしね」


 ケラケラと笑いながら言う姉。


「男の人は嫌いみたいで部屋に遊びに来る男友達はみんな酷い目にあってたみたいだけどね~。

 しかし、今思い出してもあのアパートは良かったなぁ、安くて」


 そう言う姉を見ながら、私は父を思い出し『……血か』と思いました。

 とりあえず私は幽霊と同居は出来そうにありません。

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